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メンズメイク入門の入門|週末セルフケア入門

メンズメイクってなんですか?

 メンズメイクの話をします。知識ゼロから始めて、一ヶ月間続けました。めちゃくちゃ楽しいです。セルフケアになる。そして、顔はメディアであり、メイクはメッセージであると気づきました。

 これまでメイクをしたことはありませんでした。とにかく分からないことだらけ。中学生くらいのときに、洗顔料と整髪料を使い始めてから、たいして知識が更新されていなかった。だからこの記事は、基本的には「メンズメイクってなんすか?」という人に向けて書きます。

 顔について考えてきた時間の総量が少ない。だから、なぜメイクをするのか分からない。メイクの構造が分からない。自分に合うメイクどころか、どんな製品があるのか知らない。

 なぜ知らないのか。自分には関係ないと思っていたからです。もっと言うと、メイクとは女性のものだと思っていました。今にして思えば、この前提が間違っていた。メイクとは、自分の顔をメンテナンスし、個性を発揮するもの。つまり、顔を洗ったり、髭を整えることと基本はおなじだったのです。

 そこで、YouTubeのメイク動画を見まくり、関連書を読んで実践してみました。凝ればどこまでも行く世界ですが、私は意識が低いので、ズボラメイクだと思って読んでください。

一ヶ月間やってみた

 やってみると楽しい! 変身の楽しさだと思います。少しだけ違う自分になる驚き。コンプレックスを隠すことができるし、効果がすぐに出る。自分に合ったグッズを集めることにもハマります。
 誰かのためではなく、完全に自分のためにやっている感じです。メイクするとテンションが上がり、モードが変わる。服装をバッキバキにしたくなる。
 最初はたぶんやりすぎます。色んなものが欲しくなる。私も、洗面所に並ぶ妻の化粧品に対して「ゴチャゴチャして邪魔だな~」と思っていたのが、「え、これだけでいいの? 俺も欲しいものあるんだけど、買いに行く?」となりました。

 そもそも、メイクとは何を指し、どんな構造をしているのか。ざっくり私の理解では次の通りです。

①洗顔
・クレンジングで化粧を落とす
・洗顔料で汚れをとる
②スキンケア・保湿
・化粧水で湿らせる
・美容液で栄養分を含ませる
・乳液で蓋をする
・クリームで守る
③ベースメイク
・下地でメイクを肌に定着させるつなぎをつくる
・ファンデーションで肌に色を重ねる
・コンシーラーでニキビ跡やしみを隠す
・パウダーで皮脂を防止する
④アイメイク
・眉毛を書いたり、瞼やまつげに色を乗せたりする。探究中。深い
⑤チーク
・頬に色を乗せたりする。探究中。深い
⑥リップ
・同上

 最初はこの構造が分かりませんでした。しばらくクレンジングの存在も知らなかった(化粧は油性なので洗顔では落ちない)。工程が多い! 毎日メイクをするのは本当に大変。ようやくそれを理解しました。

 ふだんは省略できるところは省略します。②はオールインワンジェルですませるし、③はベースメイクが一発でできるBBクリームを愛用しています。④以降はいまだ探究中。ぱっと見では、メイクをしていることは分からないと思います。

 あとで気づいたのですが、ベースメイクは靴磨きと似ている。皮をキレイにして、栄養を与え、クリームで保護し、色補正する手順がそっくり。スキンのケアだから当然なのですが。靴磨きにハマる人ならハマる可能性があります(私)。

 セルフケアとして優秀な点は、上手くなろうとする過程が、自分の身体を知る過程と重なっている点です。肌色(以前、妻からのプレゼントでパーソナルカラー診断を受けたことがありました。私はブルーベースの夏)、肌質(乾燥肌、混合肌など)、顔かたち、時間の経過による変化など。逆に言うと、自分を知らないとうまくメイクできません。色が合わない、皮脂がテカる、バランスが悪い、昼過ぎには崩れているなどの失敗に見舞われます。

 「できた!」と思っても「大切なのは保ち」と知り(一次元→二次元へ)、「保った!」と思うと「季節によって肌はベースカラーさえ変わる」と知らされる(二次元→三次元へ)。このように、「顔」を通じて自分の身体を観察することが習慣になる。まさにセルフケアです。

 ゼロから始めるなら、メンズメイク動画を見て、気になった洗顔料・オールインワンジェル・BBクリームを買えばいいと思います。どの製品が合うかは人それぞれですが、オルビスミスター、DTRTあたりが定番で、FIVEISM × THREEは憧れです。ちなみに、ドラッグストアで買える化粧品をプチプラ、デパートなどで買える高級品をデパコスと言うそうです。知らなかったぜ......。

 しかし、色々と調べていくうちに、気になることが出てきました。

なぜ「バレたくない」のか?

 それは、メンズメイクを「バレたくない」という話が多いことです。メイク動画も「バレないメンズメイク」ばかり。なぜバレたくないのか。それは「男のくせにメイクなんてしているのか?」と言われるから。まさに抑圧です。

 どのような抑圧かというと、「男性はメイクをしてはならない。なぜなら男らしくないからである」というもの。しかし、文をよく見ると、根拠が含まれていない、いわゆるトートロジーであることが分かります。「ダメだからダメ」としか言っていない。
 また、メンズメイクにハマっていると言うと「女装(異性装)するの?」と言われることがありました。たぶん、その人は「メイクとは女性の顔になることだ」と勘違いしていたのだと思います。

 メンズメイクは顔の個性を活かすことであって、異性の顔に似せることではないし、かりに異性向けのメイクを取り入れたり、異性装することだとしても、とやかく言われる筋合いはありません。

 男らしさの抑圧は「なぜ日本の中年男性はセルフケアが下手なのか?」問題と同根です。当事者として語りますが、男性の身体は固く、鈍感でなければならないとされている。もっと言えば、男性は男性の身体を嫌悪している。だから身体性にうとい。セルフケアするときも、アルコールやニコチンでその身体を麻痺させることから始める。あるいはサウナ・筋トレ・禁酒といった「修行っぽさ」を経由しないとケアに至れない。つまり、セルフケアするために、いちど男性身体を否定する傾向がある。

 いったいなぜか? 「ダメだからダメ」式の固定観念が、社会のいたるところにあるからでしょう。残念ながら、これまでの人生を経て、私も男性身体に関する固定観念が内面化されています。酒を飲みすぎ、煙草をやめられず、サウナ・筋トレ・禁酒をしている。もちろん、それぞれの方法自体が悪いわけではありません。酒はうまい。サウナ最高。しかし、選択肢が減らされていることは問題です。

 私がセルフケアと呼ぶものは、このような規範からの解放でもあります。料理を作り置きしたり、花を飾るなど、「中年男だから」と無意識に捨ててきた選択肢を取り戻すこと。だから、メンズメイクもまちがいなくセルフケアのひとつなのです。

メイクはメッセージである

 もう一歩踏み込んで、メイクとは何か考えてみます。フランシス・ベイコンという画家がいます。彼が描く肖像画は、顔が曖昧に崩れ、歪んでいるものが多い。しかし画家は、正確に描こうとしたらそうなったといいます。

私の望みは、対象をとほうもなく歪めて描くことです。ただし、歪めることで、かえってリアルな姿かたちへの記録へと回帰するのです。(『フランシス・ベイコン・インタビュー』デイヴィッド・シルベスター著、ちくま学芸文庫、58頁)

 同じことがメイクにも言えるのではないでしょうか。たとえば、人間っぽくないメイクをすることで、常識に囚われない個性の表現も可能になる。それこそが本人にとってはリアルかもしれない。
 一方、頭の中のイメージに近づけようとメイクすることで、本人がどう見られたいかも同時に明らかになっていく。

 テレビや映画を見ていると、出演者のメイクが気になるようになりました。キメキメのメイクもあれば、ナチュラルメイクもある。そこには意味があったのです。「きょうは気合が入っています」「目立たない黒衣です」「ほかの誰でもない、わたしを見て!」。

 つまり、顔は言葉なのです。日常生活でもおなじ。メイクを知って、以前より少しだけ深くその言葉が読めるようになりました。

 私たちは、顔を通じてコミュニケーションを取り合っています。自分の顔を見ている他人の顔を見ている、そんな複雑な関係が私たちの間にはあります。

 だから、顔はメディアであり、メイクはメッセージである。
 
 「顔」は深い! そして、メイクは楽しい。経験のない方は、週末だけでも試してみてはいかがでしょうか。おすすめのコスメを見つけたら、ぜひ教えてください。

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追記:本記事がきっかけで、VOCEで「メンズメイク入門」を連載することになりました。
https://i-voce.jp/regular-series/mensmakenyumon/





読んでいただいてありがとうございます。