【アドラー心理学ゼミナール2】ライフスタイルをどのように使うか
前回のnoteのふりかえり
前回のnoteでは、第1回アドラー心理学ゼミナールで学んだ「アドラー心理学5つの基本前提」をおさえたうえで「対人援助職はアドラー心理学を学ばなければいけない!」と書きました。今回は、第2回アドラー心理学ゼミナールで学んだアドラー心理学の技法のひとつであるライフスタイルについて考え、あらためて対人援助職にアドラー心理学が必要である理由を説明します。なお、前回のnoteは以下にあります。
私の仕事は、障がいのある人が利用する社会福祉法人の経営です。また、相談業務を中心に直接支援にも携わっています。対人援助職と呼ばれる仕事を始めて35年がすぎました。いま思うと、そのほとんどがどうしようもない支援者でした。いまでも不十分です。しかし、アドラー心理学を知らなかった頃よりはましな援助者になった気がします。そのきっかけのひとつがアドラー心理学の技法の一つライフスタイルの理解です。
ライフスタイルをどのように使うか
アドラー心理学でいうところライフスタイル、生活様式や性格というものではなく、どこに向かっているか、その人の人生目標のようなものを指します。その人が所属する共同体でより良く生きるための戦略です。ゆえに相手を理解するということは、相手のライフスタイルを知り、その人の生活を予測することになります。
向後先生の講義では、ライフスタイルは3つの「~するために」に使えると説明がありました。それは以下の3つです。
対人援助職にはこの3つのスキルが求められます。そこで、この3つを支援にあてはめて説明します。
①自分の理解のために/自己覚知
対人援助職であれば知らなければいけないバイスティックの7原則というのがあります。その中でも「自己覚知」が重要視されています。自己覚知とは自分の価値感を知ることです。支援では支援者の価値が反映されがちです。支援者の価値が強く反映されるということは支援を受ける対象者の価値が失われること、つまりそれは人権侵害になります。
たとえば、支援者がネガティブ感情をいだいたり、サービスを受ける対象者に対して否定的な感情をいだくことがあります。それは対象者の言動が支援者の価値に反したときです。支援者が対象者に対して否定的であったり一方的な判断を下すと信頼関係を築けず、必要なサービスが届きません。よって支援者は自分の価値を知り、自己統制をしなければいけません。自分のライフスタイルを知ることは自己統制につながります。
アドラー心理学では4つのライフスタイル類型が示されています。詳しくは向後千春先生の本がおすすめです。ワークシートがついています。
②他者の理解のために/対象者を理解する
アドラー心理学では、自分のライフスタイルはおおむね6歳~10歳までの間に決まるといわれています。人はその頃までにひととおりの共同体を体験するからです。その共同体の中で居場所を作る、より良くいきるために自分のライフスタイルを形成するということです。
支援では、サービス利用の対象者が主体です。つまり対象者のライフスタイルを知り、予測することからサービス提供(支援)が始まります。対象者のライフスタイルを知らないと、支援者の価値や俗に言う一般論で対象者を判断してしまいます。それは支援者主体のまちがったかかわりです。次に紹介する事例は、私が福祉職に就いたころ(35年前)の話です。
あるご老人との出会い
私が働き始めてすぐのころ、あるご老人の支援にかかわらせていただきました。ある方から、近所で一人暮らしをしているおじいちゃんがいる、そのおじいちゃんは上手に会話ができない、どうやら障がいがあるようだ、またときどき栄養失調で倒れて病院に運ばれる、福祉でどうにかして欲しいという相談がありました。
私は、相談者と一緒にご老人に会いに行きました。そのご老人のお宅では、部屋の真ん中には布団がひいてあり、布団の横には米と味噌だけが山積になっていました。ご老人は、生活保護費をもらうとその大半で米と味噌を買い、それを貯えていました。しかし、貯えてある味噌を見ると色が変わっている物がありました。それでもその味噌はご老人の宝であることには変わりません。ご老人は、毎日、米と味噌、それに漬物を買いそれを食べて暮らしていました。相談者はそのご老人の生活習慣を変えようと躍起になっていました。
そこで、サービスは私が働く事業所に来てお昼ご飯を食べてもらうこと、地域の方々にボランティアとしてかかわっていただくこと、行政が定期的に訪問をすることなどからスタートしました。しかし、ご老人は心を開かず、誰が訪問しても怒るだけ、玄関先で追い返されていました。私は台所にあるボウルを投げつけられたことがありました。
それからしばらくしてそのご老人が栄養失調で倒れ緊急入院をしました。そのご老人が変わったのは退院時、その後の通院で私の車を使うようになってからです。私、というよりも私の車を必要として、私に声をかけてくれるようになりました。また車の中や病院の待合室で少しだけお話をしてくれるようになりました。
ご老人は、大正末期に北関東の貧しい農家で生まれ、大人数の兄弟の末っ子で育ちました。しかし、兄弟が何人いたかはわかっていなくて「オレでおしまい」と言っていました。その後、大人になってから横浜に来て、新聞配達や掃除をしていたとも言っていました。また、お話をしていると「米、あったかなぁ」と何度も気にしていました。私が「まだいっぱいあるよ」と言っても「買った方がいいなぁ」と言い米を買おうとしました。また、私がそれを止めるので、ご老人が怒り出す、そんな「米騒動」がしばらく続いていました。
米騒動の原因は、私の言うことを聞きなさい、バランスよく栄養をとらないとあなたは倒れる、医者にそう言われたでしょう、と、私が一方的に押し付けていたからです。そのころの私は、このご老人の子どものころの貧しさ、生きることの厳しさ、ご老人が生きのびるために選んだライフスタイルを理解していませんでした。いまならもう少しましなかかわりができるような気がします。ライフスタイルを知ることはサービスの対象者を尊重することです。
③協力するために/支援は協同作業
支援は、支援者とサービスを必要としている対象者が協同で行います。支援者が一方的に行ってはいけません。主体は常にサービスを必要としている対象者であり、その対象者と協力関係を構築し、対象者が自分の生活を自分で良くできるように支えるのが支援者の役割です。協力し合うためには相手のライフスタイルを知ることが必要です。また、ライフスタイルを知ることで相手のストレングス(強み)を見つけることができます。支援には、ストレングスが欠かせません。
最後に
最後までお読みいただきありがとうございました。今回のnoteでは、第2回アドラー心理学ゼミナールでライフスタイルを学んだことから、ライフスタイルを知ることが支援には絶対必要だということを書きました。
なお、②のご老人とはその後たいへん親しくなり、10年以上、最後の最後、ご老人の最後の1秒までお付き合いができました。また、私は、そのお付き合いの中で支援者として必要な姿勢を学びました。いまはそのご老人の笑顔に見守られて仕事をしています。
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