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『未来のミライ』

8月1日水曜日、晴れ(復帰丗四日目、有給)

こどもの定期検診が午後にあって、以前に確認したとおり僕の午後半休は使い物にならないので丸一日、全休を取得して連れていくことにした。

いつもどおり採血からの身体測定、そして問診。寛解から5年経過して後遺症も見られないので、次回からの検診は半年に一回でよいでしょうと言われた。
そうか。あれからもう8年も経つんだ…… 当時は、ほんとうに大変だった。妻も、こどもらもよく頑張ってくれた。無事生き抜いてくれて、そしていま、健康にすくすく育ってくれていて、ほんと、良かった。

今回の検診で最高に驚いたのは、院内での呼び出し機が PHS からミニタブレット状の電子ペーパー端末に変わっていたこと。なんだか未来だわ〜。
表示部電子ペーパーは赤と黒のツートンカラー。二色出る電子ペーパーを見るのも初めてだった。ちょっと、いや、かなり興奮した。(黒一色のは自分も開発に関わった Sony の電子リーダーで存分に触った)

電子ペーパーなので、一旦黒に塗って白にリセットするリフレッシュが入るのは想像の範囲。そこから黒を描画して、さらに赤を3〜4回塗り重ねる感じで描画する動作をしていた。
黒と赤に、それぞれ違う電荷をかけているのかな? そして同時には制御できないんだ? 黒を置いてから赤を操作するときに、黒に影響が出ないのはなぜだろう? なかなか興味深い。

* * *

午後は病院で潰れたわけだけれど、たまたま空くことになった午前は、だから見ようとおもっていた映画『未来のミライ』に当てた。

期待はずれだとか聞こえてきたりもしたけれど、僕にとってはしみじみ味わい深いもので、場面ごと、登場人物に感情移入したり勝手な解釈をしたりで、ポロポロポロポロ、涙が出て大変だった。

赤ちゃんがやって来て、独り占めできていた愛情がどこに逃げていったのかわからない主人公の「くんちゃん」。おもいどおりに行かないことに家の庭で地団駄を踏んでいると不思議なことが……!
くんちゃんの小さな、狭い世界での異種交流。未来からやってくる妹の未来ちゃん。自分のルーツと、そこから連なっていく未来。

自転車に乗るくだり、前後してのおねだり、馬とバイク。馬に乗った時の視界の「高さ」。怖いというくんちゃんに「遠くを見るんだ」というアドバイス。「散らかして食べると最高に美味しいよね!」。「子育てに願いは大事」。

ルーツと、アイデンティティ。
自分の喪失と獲得。
あの地下東京駅は、お父さんとお母さんの間でたった一人の王子様だったくんちゃんが、あたりまえに受け取っていたその地位をどういう理由かわけもわからないまま失くして、崩壊した自分の世界、アイデンティティの喪失を迷子になぞらえて暗示した、最高にエキサイティングな場面だった。

そうだよね。
こどもは「僕は僕だから僕」で、それを疑いもしない。疑う必要もない。
でも、それを他人に説明しようとすると、自己を「確立した」肉親からの関係を使うほかない。そして「おとうさん」、「おかあさん」と呼んでいる以上、それは代名詞に過ぎず固有名詞でないから他人にとってはアイデンティティたりえない。
「くんちゃん」が確立していたら「くんちゃんのおとうさん」「くんちゃんのおかあさん」で同定できるけれど、そもそも「くんちゃん」が揺らいでいるときには、それらが誰なのかわからなくなってしまう。
そこで、そのときに「僕は未来ちゃんのお兄ちゃん!」と来て、ほんとボロ泣き。失われたアイデンティティが、受け入れにくかった赤ちゃんの妹、未来ちゃんを中心にして再構築されて、そしてまた家族につながる。

ルーツの木をザッピングするときの飛翔感や、未来の東京駅の各種インフォメーションの表現は、いよっ待ってました細田守! たっぷり!
おもえば『おおかみこども』でも『バケモノの子』でも、無かったものなあ。あの『サマーウォーズ』の Oz の未来感。監督の描く未来のユーザーインターフェースの肌触り、その説得力は文句なし。

『サマーウォーズ』では、描かれていたのが大家族だったためぼんやりとしか見えなかったけれど、おばあちゃんと侘助、万助と桂主馬あたりに、家族の、親や祖父母から子らへの継承が描かれていて、『おおかみこども』でも『バケモノ』でも血が繋がっていたりいなかったりの中で親子関係・師弟関係が取り結ばれて継承されるものがあって。

僕が好きなのは、細田守監督の描く、クラン(氏族)の物語、結びつきなんだろうとおもう。

映画の冒頭、物語の舞台になる家にズームインしていくカメラワーク。ゆっくりと街を流れていく車。雪に覆われる街、雪を追いかけ掴むくんちゃん。このあたりの時間の流れ方の表現はすごく素敵だったし、エンドロールで、家からカメラが離れ空に戻っていく逆回しもよかったです。

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