ゲーデルの不完全性定理

朝刊の書評欄に「不完全性定理」が取り上げられていた。なにを言ったものなのか把握したいのでメモ。
(そういえば、「ゲーデル、エッシャー、バッハ」も読んでみたいな……)

『第一に、「(自然数論を含む)数学のシステムは不完全である」』
『正しい、(真なる)数学的命題は証明可能で、誤った命題は反証可能だと考えられている。証明か反証のどちらかができる命題のことを決定可能な命題と呼ぶ。すべての命題が決定可能なとき、そのシステムは完全だとされる』
『第一の定理は、数学には証明も反証もできない──しかし真である──命題が必ず存在する、と言っている』

『第二に、「数学のシステムは、自己矛盾性を証明できない」』
『無矛盾とは、証明可能であると同時に反証も可能であるというような命題を含んでいないということだ。辻褄の合わない命題がないということが、「正しさ」の最小限の条件である。しかし、数学は自分の正しさを証明することができない』

証明というのは、この場合、公理と同値になることを示すこと。反証は逆に公理の否定と同値になること。

嘘つきのジレンマ

第一の不完全性の例として『私は嘘つきだ』という命題が挙げられている。
私が嘘つきだとすれば、私が嘘つきだと告白することは真実を告げているので矛盾する。
逆に私が正直だとして、私が嘘つきだと告白することは虚偽の申請となるため矛盾する。

システム内で自己言及すると、不可避的に矛盾が発生する。
これは「エピメニデスのパラドックス」として知られている。

自己参照は、無限後退を生じるため値を決められないという話に似る。

プログラムの停止性検査

プログラムの停止性を検査するプログラムという連想も浮かぶ。

つまり。

あるプログラムPが停止することを検査するプログラムQが作れるとする。
つまりQは、Pが停止するなら真、しないなら偽を出力する。
QをもとにさらにプログラムRを作る。Rは、Qが真を返したら無限ループに入り停止せず、偽を返したら停止する。

さあ、ここでRにRを入れてみよう。

Rは自分が止まるとしたら停止しない無限ループに入り、自分が止まらないとしたら停止する。

矛盾だ。

だからプログラムの停止性を検査するプログラムは構成し得ない。

自身の正しさは証明し得ない

何が言えるかって、なにも言えないのだけれど。

僕がここから感じるのは、自分が正しいかどうかは、自分では決められないということ、だ。

デカルトが、思考する自分を徹底的に懐疑して行き、最終的に「我思う、故に我あり」と自分が存在することを証明した、というのは有名なエピソード。
だけれど、先の停止性問題と同じで、この結論は何も言えていないと、僕はおもう。

正しさはシステムの外部から観測するしかない。

しかし、システムの外から観測した結果を、システムの内部に伝える声はあり得るだろうか?
僕は、この存在も肯定できない。

問題をすごく小さくしてしまうけれど、例えば。
僕が考えていることが正しいかどうか、これを身近な他者である妻に問うたとして、そもそも異なるシステムで駆動している妻に問いが「正しく」伝わるだろうか。そして妻が発した答えを僕は「正しく」受信し解釈できるだろうか。妻が問いを受信した結果、僕の観測システムが暴走して僕の世界が停止する可能性がありはしないか。僕の世界がそこで停止したとして、僕はそのことに気づけるだろうか。妻という他人は、僕が生み出した妄想でないと誰が証明できるのか。妻が思考する他者であることは、誰も証明できない。僕は証明できない。全ての他人は、僕の観測の結果として存在している。僕の観測がゆがんでいないことは、僕にしか確かめられない。そしてその僕が自己検査することは、先のゲーデルの不完全性定理により不可能と答えが出ている。マルブランシェは仔を孕んだ雌犬を蹴り飛ばし「あれは何も感じていない機械ですよ」と言い放ったという。そのとき雌犬は苦痛を感じて悲鳴をあげただろう。でも、蹴られた「応答」として悲鳴をあげただけかもしれない。雌犬は本当に苦痛を感じていたのか。僕らの苦痛はどこから生じるのか。ボストンダイナミクスの犬型ロボットが、研究者に蹴りとばされる動画が見られる。あれを見て、僕は、蹴り飛ばす研究員が血も涙もない冷血漢に見えて怖れを覚える。しかし絶対的に犬型ロボットは痛みを感じていない。ソニーのaiboは痛みを感じていないはずだ。でも、僕は、あれに生命を感じる。すべて、僕の観測システムが誤動作した結果の間違った妄想にすぎない。さて、妻が、こどもらが、父が母が兄が同僚が友だちが世界に満ちている人間が、僕同様に生きていて思考し感じているなどとどうして言えようか。そもそも僕は生きて思考し感じているのか。僕は、僕がシステムとして正しく存在していることを、僕によって確かめることはできない。

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