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第5回 最下位

「いつもありがとうございます」。思いがけないタイトルのメールが目に飛び込んできた。関東の大学新聞部が一堂に会して行う、配布会の三日後のことだった。感謝をされるようなことをしただろうかと不思議に思いながらも、メールを開いてみた。

メールの送り主は、50代の男性からだった。「いつも丁寧な記事をありがとうございます。配布会にも行きました。毎回楽しみにしています」という言葉がつづられていた。

配布会は年に一度。一年の成果を発揮する集大成だ。部員の顔つきもやる気に満ち溢れていた。何度もレイアウトを作り直し、記事を書き直し、冬休みの大半を制作の時間に充てた。「きっと多くの人に手に取ってもらえる」と思うことができる自信があった。しかし、用意した新聞のうち100部ほどが残ってしまった。まさに最下位の人気ぶり。どこが悪かったのか。もう作りたくないと思うほど、落ち込んでいた。

見てくれている人がいる。そのメールは、再び闘志に火が付いた瞬間だった。

配布会での出来事は、部員にもショックを与えていたが、読者である男性からの言葉を部員に伝えた。反省会で、人気があった新聞と見比べてみた。すると、部員たちから「色合いが地味だったのではないか」「編集ソフトを導入すればよいのではないか」と様々な意見や解決策が出る。いつしか、配布会に向け試行錯誤しながら制作していたときの顔つきに戻っていた。いつも見てくれる人がいることは、制作への大きな原動力となった。

近年、不登校の生徒が増加している。学校に行きづらいときに、「あなたのことをいつも見ているよ」というような言葉をかけてあげることで、一歩を踏み出そうと思えるようになるかもしれない。私が読者からの言葉で前を向けたように、誰かにとっての原動力となれるような存在になりたい。


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