【記事抜粋】食事について(山際寿一(2006),日本経済新聞/夕刊「あすへの話題」2006年12月5日)

「 … サルにとって、味覚は食べごろの食物を選ぶために重要だ。 植物は食べられたくない葉や未熟果を苦みや毒で防御しているからである。 しかも、いつも個食のサルにとって、味覚は仲間と確かめ合うものではない。 おそらく人間の味覚も、最初は個人で腐敗した食物や毒物を区別できるように発達したのだろう。いつ頃か、人間は仲間と食事を楽しむようになって、味を共有する必要が生じた。 でも、視覚や聴覚のように味覚を確かめ合うのは難しい。 それが可能なのは、人間が他者と共鳴するようにできているからである。 仲間が感じているように感じたいと願うからこそ、味を共有できる。
… しゃべっているうちに、おいしくも、まずくも、切なくもなる。 食事によって人間関係も変わることがある。 味の会話は、共食をはじめた人間の不思議な、おそらく未完成のコミュニケーションではないだろうか。 」

ブログ「生活と人間行動」の記事(2006年12月24日)再記。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?