小説 王国への旅 第1幕 24話・25話 スネークバイト
こちら、過去に書いた連続小説(ほとんど止まってますが、、)王国への旅ですが、訳あってnoteにも公開します。こちらの方が読みやすいので。過去の話も気になった方はURLを載せますのでどうぞご覧ください。中々続きが書けないのですが、それは言いたいことはもう書いてしまったかもしれませんが、、また更新したらお載せします。
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読んでくださる方に特別に これまでのあらすじ
マネキンのリバティ―は、黒猫のパスに連れて来られて、ある異次元の王国へ連れて来られた。その王国は大魔法使いのインバイトが作り出した王国だった。魔法使いは、マネキンに感情を持たせて、この国への旅で体験を積んでいくことで、その模様をショーの一つとして、世界中の人へのエンタメの一つとして提供していた。その道中、リバティとパスは靴職人のヴァリーからあるガールズダンスグループがショーを行うと知らされ、向かっていたのだった。
本編
リバティたちは、ヴァリーから話を聞き、ショーが行われる場所に来ていた。
ステージでは、斑模様の衣装を着た女性が三人立っていた。彼女たちは靴職人のヴァリーがオーダーメイドで作り上げた色とりどりの靴を履いていた。三人のうちの一人がマイクを持って話した。
「皆さん、私たちスネークバイトのショーを見に来てくれてありがとう。私たちは、あちらとこちらを巡っているダンスグループです。今日は、沢山私たちと一緒に踊って楽しんでください」
そして、どこからか楽曲が流れて三人はマイクを持ちながら、踊りだした。三人は蛇をモチーフにしているのか、頭には蛇の頭が三つに分かれていて、ヒュドラやヤマタノオロチを彷彿とさせる被り物を付けていた。
「一曲目、蛇にらみ」
それはこんな歌だった。
蛇、蛇、蛇睨み。あなたの赤ちゃんそんなところに置かないで
私が食べちゃうわ
蛇、蛇、蛇睨み。さっさと逃げてしまって。
こちらはあきませんわ。
憂鬱な日常は誰もが感じている
というより不条理な日常に誰もがイライラしている
勝ち負けなど興味ないのに
不平等に巻き込まれる
生きているのが有りがたいのか
死んでしまうのが気楽なのか
わからない
だから睨むの こんな世界を
蛇、蛇、蛇睨み。あなたなんか睨んでないの
食べてほしいならいただくわ
蛇、蛇、蛇睨み。それでも死んでしまっては
あきませんわ
お逃げなさい
その三人組の歌を聴いていたリバティは衝撃を受けた。自分が動けないマネキンだったとき、こういった歌に触れることはまずなかったからだ。その歌詞の意味も先行きが不透明であったリバティには共感できるものであった。ステージで立つその三人が自分と同じように惑いを抱えているように思えたのだった。
リバティは、そのステージの三人と一度話をしてみたいと思った。
「ねえ、パス。私、あの子たちと話がしてみたいわ」
「リバティから話がしてみたいと思うなんて珍しいね」
「ええ。同じ女性と話をすることもなかったもの」
「そうだね。じゃあ、ショーが終わったら僕が話しかけてみるよ」
「ありがとう」
スネークバイトの三人組は、楽曲のリズムに合わせて踊り、ステージを広く使っていた。楽曲のなかには歌詞のない、彼女たちが蛇の動きを模倣して、両手をにょろにょろと動かすような踊りもあった。リバティはショーが終わるまで、彼女たちをじっと見ていた。そしてショーが終わると、再び最初に挨拶をした女性が話をした。
「どうも皆さん、本日は私たちのショーを見てくれてありがとう。こちらの世界では、あともう一つの町を回って最後になりますので、よかったらそちらにも見に来てください。それでは、自己紹介します」
「はい、マンバです」
「はい、サンゴです」
「はい、コブラです」
マンバは緑色、サンゴは青色、コブラは黄土色の蛇の頭をした被り物を付けていた。挨拶をしていたのは、サンゴだった。
「以上、わたしたちスネークバイトでした!ありがとうございました」
三人は深く一礼をしてから、町の住民の拍手を受けてはステージを後にした。
「お疲れ様。マンバちゃん、コブラちゃん」
「お疲れー。楽しかったねー」
「うん。一緒に踊ってくれる方もいて楽しかった」
そして、三人で話をしていたなかにステージの隙間から黒猫のパスが忍び込んできた。
「やあ、とてもいいステージだったよ、ありがとう」
「あら、猫が喋っているわ」
「猫さんも見てたの?どうもありがとう」
「うん、見てた。それで君たちにお願いがあるんだ。僕のお連れが君たちと話がしたいんだってさ。君たちのショーを見て、とても感激したらしい。リバティという女の子なのだけど」
「それって魔法使いが話をしていた子ね」
驚いてパスが答える前に、サンゴが経緯を話した。
「私たちもこの世界でショーをするにあたって、一度魔法使いから話を聞いているの。その、元の世界でなんらか痛みを抱えている人達の避難所にこの世界があるというのも聞いたし、そのマネキンの話も聞いたわ。会うのは構わないけど、彼女の期待に応えられるかしら」
「僕としては会ってくれればそれで十分だよ、あとはリバティが考えることだ。じゃあ、こっちへ」
そのまま、出口へ案内すると、この三人組の関係者に行く手を遮られてしまうだろうから、パスは三人を近くに引き寄せて、一気にテレポートを使った。関係者がステージで様子を見たときには、もうパスと三人の姿は見えなくなっていた。
パスたちは待っていたリバティの目の前に姿を現した。
「お待たせ。リバティ、連れてきたよ」
「はあい。私たちのショーを見てくれてありがとうね、私、サンゴ」
「私、マンバ」
「私、コブラよ」
「はじめまして。私はリバティです。とても素敵なショーでした」
「どうもありがとう」
とサンゴは答えた。
「こちらの世界で、似たような女性と話をすることはほとんどなかったのです。どうしてこちらでショーをしようと思ったのですか?」
「私達も何かしら痛みを抱えていたから。皆、この世界に興味を持ったのよ」
「世界には色んな生き物が息しているのに、メディアが写すのはいつだってほんの一部の人達、その人達よりも生活の苦しい方や棲家を追われた生き物だっている。私達もひとりひとり心に傷を受けているから、ドロップアウトしたくなった人達にも元気を与えられたらなんてそう思ったの」
サンゴにつづきマンバが話した。
「難しいことばはわからないけど、私の感覚ではさ、生きている人達って確かに卵からかえったんだけどさ、生きてたらさ生きないとならないじゃん。死ぬまではずっと。そういう意味ではみんな可哀想なの」
つづいてコブラが話した。
「マンバちゃんの言ってることは大袈裟かもしれないけれど、人として生きると、んー違うな。日本にいるとこうならないとならない。こうなった方が望ましいみたいな風当たりがあるじゃない。それこそ身近な人と話す時でさえ、気の使いようあるじゃない。食えたらいいやん。じゃあないよね。大概の人って。例えばさ、そりゃ私もお母さんになりたいけどさ、とやかく言われるものじゃないよね。うるせえなと」
「コブラちゃん、口悪いわ」
「あら失敬」
「最も生きている世界が安全じゃないことはわかっているわ。だから傷を抱えてるって言ったでしょ。でも、あなたが旅してるここも決して安全ではないわね。まあ、それでもここには野蛮な輩はいないからやっぱりあちらよりマシかな」
サンゴが話をまとめたことで、リバティは彼女達がそれぞれこちらに来るまでどういうものを知り見てきたのか世界のありようを漠然と感じたのだった。リバティはこう思った。誰かに言われるって、私は誰かに言われたりすることはないわ。それは私がマネキンだから。人は色々な人々の間で生きないとならない。だからなにかを受け取る代わりになにかを返す使命を持っているような気がする。そのツケを重く感じるから息苦しくなる人達もいるのかな。
「ありがとう。皆さんの話を聞いて私も自分の在り方を考えるきっかけになりました」
リバティの返事をきいて3人はにこにこ顔を浮かべた。
「参考になってよかったわ。またステージやるときはぜひ観に来てね!」
「ええ!ぜひ!」
「リバティちゃんは5年後どうなってるんだろうね」
ふとマンバが言い出した。
「5年後ですか?」
「そう、リバティちゃんマネキンだって聞いたから、髪が薄くなることも皺が増えることも体力が衰えることもないのかしら。それに誰かお相手見つけてどこかで生活してるのかしら」
「ええっと、そんな時間の間隔では考えたことなかったわ」
そうしてじっとしてリバティが考え込んでいたのでパスが止めに入った。
「リバティ、考えるのはあとにすればいいよ。どうもありがとう。じゃあ、また送ってくけどなにか言い残したことはお互いにないかい」
あっとリバティは気づいて3人に伝えた。
「皆さんがこれからダンスや歌を続けるように私も今の旅を続けていきます。どうも先のことを考えるのが苦手で先というのは今の積み重ねでしかないから。特にわたしにはこれといった将来は描いてませんわ」
「リバティちゃんがそれなら全然構わないよ」
「言ったでしょ、誰かにとやかく言われるのはごめんって」
「じゃあ、これで。また会えるといいね。えっと、一つだけ言わせて。誰にも言われないということは、あなたの行為がよいことなのかよくなかったことなのか、正しいことなのか間違っていることなのか、それを自分で直したり学ばないとならないの。時には二度と選択をやり直せないことを決める時だってある。後悔してもそのまま人生は続いていくわ。私達はどんな人だって生き物だって元気になるように受け入れてゆくわ。でもそれはあなたの時間に少しだけ寄り添うだけ。決めていくことを引き受けるのもあなたしかいないのよ。じゃあね」
そうして、サンゴ、マンバ、コブラの3人はリバティを囲んで3方向からハグをした。それが合図だとパスにはわかり、3人をテレポートで連れていき、しばらくしてからまたパスだけ戻ってきた。
「リバティ、いかがだったかな」
「最後のサンゴさんの言葉は印象的だったわ。あの3人は自分に言い聞かせているようにも感じたわ」
「とはいえ、どんなことでも見方を変えれば印象変わるよ。さあ、リバティ次はどこへ行こうか」
「あなたに任せるわ。でもしばらく休みたいわ」
「そうだね、ショーを観るのも疲れるものさ」
パスが話したその時だった。二人の頭に魔法使いから声が聞こえてきた。
「やあ、リバティ。旅を楽しんでるかな」
「インバイト、どうしたのですか」
「うん、君たちの旅だが一度この壮大な実験を中断したいと思うのだ。すまないが」
「どうして?」
「なあに、ほんのひと時の間さ、理由を聞いても納得しないだろう。だから時が動けばなんともなくなる。動かなければ続きを描けないまでさ」
「ひどい仕打ちね」
「まるで人生みたいだ」
「あなた猫だけどね」
「あ、ごめん」
「ここまでに沢山の事柄に遭遇しただろう。既にこの話も展開を広げた。再び始まることを願うよ」
そして魔法使いは呪文を唱えた。その瞬間に物語の時は静止した。全てが止まったあとまた始まるのは誰かの思いが強く動いたときなのだろう。
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