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#デザイン

【前編】デザイン経営宣言が担った真の意味とは。20年の歴史から紐解く背景──田川欣哉×土屋尚史

本記事は、組織イノベーションの知を耕す学びのメディア『CULTIBASE』との共同企画で、双方の媒体に掲載されています。 経産省・特許庁から『「デザイン経営」宣言』が発表されたのは、2018年5月。それ以降、CDO / CXOポジションの登用事例も増え、デザインに関する議論が経営レイヤーにおいても活発に交わされるようになった。 そこから3年。社会におけるデザインの役割や立ち位置は、どのように変わったのか。その実像を探るべく、日本におけるデザイン経営振興に大きく貢献してきた

しあわせのデザイン

「中小企業のためのデザイン経営」をテーマとして、様々な「デザイン経営」を実践する経営者をお迎えし、ご経験をもとにしたトークをお届けしてきた「DESIGN-DRIVEN MANAGEMENT SEMINAR」。 それぞれ異なるテーマではありながらも、単なるビジネスや経営手法ではなく、これからどんな世の中になっていくのか、その中で日本や日本企業はどんな価値をつくっていけばよいのか、という深く本質的なお話ばかりでした。 デザインを色や形といった意匠として捉える人もまだまだ多く、

めぐるデザイン

地域に根ざした企業であれば、自社のアイデンティティやルーツが、そのまま地域の歴史や産業と結びついていることも多いはず。 ただ、そのコンテキスト(文脈)を活かし、積極的に発信できている企業は、多くはないかもしれません。 たとえば、リブランディングなどを考えるときに、地域の伝統や歴史を「古くさい」と一蹴して、ただ新しいイメージに変えてしまうのは、あまりにも勿体ないことです。 北海道・旭川の家具メーカー「カンディハウス」は、1968年創業以来、インテリアデザインの先進国である

湧き上がるデザイン

いまや、どんな企業にも必要とされている「企業ブランディング」。 平たく言えば、企業のビジョン・ミッションやフィロソフィー(哲学)などを、行動に落とし込み、社内外へ伝えていくことですが、そう簡単ではありません。 会社が大きなことを掲げすぎて社員がついていけなくなったり、かっこいいロゴやサイトを作って外側を固めても、内実が伴ってないように思われてしまうこともあるかもしれません。 1881年に横浜で創業した大川印刷は、2004年に「ソーシャルプリンティングカンパニー®」という

耕すデザイン

長い歴史のある企業やBtoBビジネスで基盤をつくってきた企業にとって、「新規事業」や「社内改革」は、一筋縄にはいかないものです。 自社ブランドや新サービスを立ち上げたい。でも、人材も資金もない。 今回お話を伺ったのは、佐賀県有田町で1956年に創業した貼箱メーカー一新堂の三代目社長・本土大智さんです。本土さんも数年前、同じ悩みを抱えていました。 ラグジュアリーブランドも含めた、様々な会社のパッケージを受託生産してきた一新堂。ですが、三代目として家業を継いだ本土さんは、価

解決するデザイン

目まぐるしく変化する時代。歴史のある企業であっても「新しいファンを獲得できない」「人材の採用が難しい」などといった多くの悩みを抱えています。 こうした企業の悩みを解決する方法として注目されているのが、「デザイン経営」です。独自の技術や歴史、文化を持つ企業が「デザイン」の考え方を経営に取り入れることによって、愛される企業文化やプロダクト、サービスをつくる。そうすることで、経営課題を解決し、事業を未来へと繋げていく成功例が国内でも少しずつ増えてきています。 これまで多くの中小

006. Glasses Tray|問いのない答え

みなさんは眼鏡ってどこにどうやって置いてますか?いわゆるメガネケース?それともテーブルや棚にそのまま?眼鏡専用のトレイ? 今思えばいろんな選択肢があるかもしれませんが、私は専用の置き場や道具を設けず、眼鏡をある種適当に扱っていた(眼鏡には申し訳ないが…)。第6回はそんな自分が使いはじめた眼鏡を置くトレイについて。 用途不明の籠トレイ使いはじめたといっても、眼鏡用のケースやトレイ自体を目的に探したことはなく、「何か買わなくては」という意識もなかった。メガネの置き場に困る→メ

003. Plant Pot|用途の金継ぎ

002. Teapot Tray|新しい居場所 でご紹介した店舗では、他にもいくつかの古道具を購入していた。その中で用途を決めて購入したものがある。それがこの白い磁器である。 ただ、この磁器は「火入」という茶道具の一つだった。江戸時代後期頃から登場したといわれる「火入」は、煙管などと一緒に煙草盆に一式揃えて客人の前に置かれる。今では実際に吸われる方はほとんどいないとのことだが、茶会の前に出されるところもあるそう。「どうぞ一服してください」と、「もてなしの心を表す」習慣は絶え

002. Teapot Tray|新しい居場所

今回は約1年ほど前に金沢の古道具店で出会ったTeapot Trayに焦点を当ててみようと思う。 金沢のような観光地では、いわゆる名産品や伝統工芸のラベルが擬態したようなプロダクトがどうしても表に出てきてしまうが、そこに載らないような、ある意味、意匠的地域性を削ぎ落としたニュートラルなプロダクトや店舗に出会い、そこから滲み出るその土地で培われたモノの見方や捉え方を感じることができた。 急須のための盆ぎゅーっと圧縮されたような細やかな木目の急須盆。何十年も前に作られた器たちが

001. Pepper Mill | 景色を作る

2019年の年末に新居に引っ越してからPepper Millをずっと探していた。これがなかなか理想的なモノが見つからなかった。基準は明白で、機能は必要最小限で、分解できること。簡単な掃除がちゃんとできること。自分で修理すれば使い続けられること。自然素材がほとんどであること。キッチンに並んだ絵を想像したときに木製がなんとなくイメージにあった。 そして、どこにどんな風に置いていても佇まいが美しいこと。 Work From Homeだと、ふと目に入るキッチンやリビングが散らかって

コンテンツとフォーマットのずれが生む意味~『コンテクストデザイン』の感想

このnoteは『コンテクストデザイン』という本と、その一連の出版活動に対する正直な感想と考察です。 はじめに断っておくけれど、この本の著者である渡邉康太郎さんから「アウトロー」と称されるほど僕はちょっと変な考え方をするらしいので、もしかするとうがった見方をしているかもしれないことを先に断っておきます。 1. コンテクストデザインについてコンテクストデザインとは、ユーザー自身が新しい使い方を発見したり、新しい意味を見出したり、そのプロダクトを介して人との新しい関係を紡いでい

数字と物語①──再現性と一回性の波打ち際

「はかどる」と「はかない」「はかどる」と「はかない」──それぞれ「仕事の効率」と「無常の美意識」に紐づくふたつの言葉は、実は「はか」というおなじ概念でつながっている。 はか、という言葉を辞書で調べてみると、「時間に応じた、仕事の進みぐあい」とある。もとは稲を植えたり刈ったりするときの田んぼの一区画のことをいったそうだ。どれだけの米がとれるのか、どれだけ能率的か。「はか」は、なにかを「量る」ことを意味する。数字で管理することだ。 「はかどる」の言葉はここからきている。一区画

数字と物語②──群と個、あるいは操縦士の眼差し

「数字と物語」を色々のレンズ越しに眺めてみたい。もとは芸術と技術、自然科学と人文科学、論理と直観、有用性の問題の切り口を思い浮かべていたが、今日は少し迂回して、サン=テグジュペリの『人間の土地』で描かれている言葉をたよりに、これを考えてみたい。 『人間の土地』の冒頭に、「地理学者」と「操縦士」の眼差しの対比、とでもいえるモチーフを覗き見ることができる。一般的な知と個別の感覚、または「群」と「個」の目線にもつながっていく。 *** 三本のオレンジの樹『星の王子さま』の著者

なぜ時間を測ることのできない砂時計をつくるのか

私は砂時計を扱う展示会を開きたいと、かねてから考えていた。 時間を測ることのできない、いわば「用のない」砂時計──。一見無用の、不要のものに思えるだろう。でもあらかじめきまった用途がないからこそ、使い手ごとに豊かなコンテクストが生じることを期待したい。 数人にこの砂時計を渡す。時計には決まった使い方は定められていない。Inscriptus はラテン語で「書かれていない」を意味する。この時計を思い思いの方法で愉しんでもらいたい。自らのために所持しても、ギフトにしてもよい。