2020年のこと

2020年もありがとうございました。吉上亮です。

twitterにも書いた通り、商業媒体で発表した仕事は、小説文庫が2冊とwebサイトで1冊分で、合計3冊になりました。

発表時期の順で…

・「RE:BEL ROBOTICA レベルロボチカ β」…昨年末に発表になったイラストレーターMika Pikazoさん原作のオリジナル企画「レベルロボチカ」プロジェクトに、ストーリー・小説で参加しています。公式サイトでイントロダクションとなる短篇「レベルロボチカβ」を掲載していただきました。短篇のつもりで書いたのですが、実は文庫一冊分くらいはあります。

「レベルロボチカ」プロジェクトは現在も進行中で、今後も色々と発表できるといいなと思っています(詳しくは公式の発表を)。

・「PSYCHO-PASS 3 サイコパス3〈B〉〈C〉」…2019年秋から放送となったTVアニメ「サイコパス3」のノベライズシリーズです。全三巻と銘打たれた本シリーズで、昨年発売の〈A〉に続き、〈B〉と〈C〉でTV放映全八話を小説化しました。

あとがきのようなものを書く機会がなかったのでどうかなあとも思ったのですが、よい機会なので。本年公開の劇場作品「PSYCHO-PASS 3 サイコパス3 FIRST INSPECTOR」のパンフレットで脚本を書かれた深見さんも仰っていましたが、脚本制作段階では全11話で1作品という想定でした。このシリーズも元々は11話までの内容を全三巻で小説化する構成で企画がスタートしました。結論から言うと、これが三巻で八話という構成になりました。

ご存じのとおり、〈A〉が経済編と政治編の導入まで(1・2話と3話冒頭)、〈B〉が政治編と宗教編の導入まで(3・4話と5話の半分ほど)、〈C〉では宗教編とTV最終話(5・6・7・8話)となりました。

実際の小説化作業を始めてから、脚本と映像、そこに登場人物たちの心情を掘っていくと、どうしても十分な内容の小説を書くためには1話につき文庫200ページは必要という目算になりました(※多少の誤差はありますが、小説版サイコパス3ではだいたいTVの1話分の内容が200ページずつくらいになっています)。

それでも集英社さんのご理解・対応のおかげで、ページ数を書き下ろし文庫としてはほぼ限界レベルまで紙幅を増やしてもらい(Cのページ数が事実上限界ギリギリだという旨を校正段階で教えてもらいました)、三巻でどうにかTVシリーズ分8話までは小説として収録するかたちになりました。

そういうわけで企画当初とは異なる部分もありましたが、TVシリーズ「サイコパス3」を小説化し、劇場版「サイコパス3FI」へ繋がるひとつの結末を書くことができました。TV放送から一年ほど時間が掛かりましたが、シリーズを追ってくださった読者の皆様、ありがとうございます。

…というわけで、ここから先は今年やった仕事(未発表のものなので名称は基本的にすべて伏せてます)です。

・新シリーズの小説:文庫です。来年、いわゆる中間文芸レーベルでの刊行予定です。青春ジュブナイルです。関係者の方々曰く吉上亮の「新境地」。

・脚本:ご縁があり、とある企画のアニメ脚本を何話か書きました(一部ストーリー構成もやりました)。詳報後ほど。また、自分が原作・脚本を務めるマンガ企画の脚本も書きました。自分の思う「面白い」を詰め込みました。こちらも詳報後ほど。

・ゲームシナリオ:はてなブログのほうで記事を書きましたが(http://ryoshigami.hateblo.jp/entry/2020/12/30/130929)、ソーシャルゲーム「妖怪百姫たん!」の第四部メインシナリオをSF作家・柴田勝家さんと共同で書きました。残念ながらゲームのサービス終了が発表となりましたが、クローズまでの期間にもしご興味を持っていただけたらプレイしてみてください。

・文芸:今年公開になった劇場版「PSYCHO-PASS 3 サイコパス3 FIRST INSPECTOR」のパンフレットの一部テキストを書きました。また、FIについては前述の通り、元々が11話構成で脚本制作が進んでいたので、FI編(当時は9・10・11話)の脚本本読みにも、ストーリー制作の作業アシスタントというかたちで参加しました。本読み内容の取りまとめなど、作中の脚本・文芸周りの仕事をしたわけではないので、映像にはクレジットなどはありませんが、プロダクションIGさんのご厚意で、こちらの仕事についても告知とさせて頂きました。

この他、短いエッセイや書評を幾つか、また新企画のストーリー構成など色々とやりました。

新型コロナウィルス禍のなかではありますが、おかげさまで今年も小説だけでなく、様々な仕事に携わることができました。ありがとうございます。

脚本の本読みなど対面だったものがリモートにすべて切り替わるなど、仕事を通した人とのコミュニケーションのやり方が大きく変わりましたが、机とPCに向かって文字を打ち続ける作家の仕事は今も変わりません(それを有難いと思う気持ちと、仕事への取り組み方そのものが大きく変わらざるを得なかった多くの方々への罪悪感が少なからずあります)。

ということで、ここまで2020年の仕事を振り返りました。

ここからは少し個人的なこと。

実のところ2020年は、年が明けた瞬間から燃え尽きていました。正確には2019年末から小説が書けなくなるような状態でした。小説を書こうとすると心臓が痛くて書けない、という初めての経験に困惑しました。底の底でした。

一度、〈B〉の原稿作業も担当さんに相談し二週間の完全休養を頂きました(目前の〆切がある状態で仕事を完全に止めたのは、デビュー以来初めて(今のところ唯一)のことでした)。

色々と理由は思いつくのですが、2019年に仕事を詰め込み過ぎた・様々な大きな出来事が立て続けに起き過ぎたことで体力的・心理的疲労が限界に達した、というのがすべてだと思います。

正直なところ、年明けのときは筆を折ることになるかもしれないくらいの絶望感のなかにありました。なので北のほうに行ったり、繰り返し博物館や美術館に行ったり、映画を見たり、本を読んだりしました。無理やり「仕事をしない」ことで段々と回復の兆しが見え、一月後半くらいから2月で一気呵成に書き上げたのが〈B〉でした(多分実作業は1か月半くらいじゃないでしょうか)。

どうにかなるかもしれない…そう思った矢先に、新型コロナウイルスの世界流行を受けた日本での緊急事態宣言による外出自粛要請が来ました。〈C〉は仕事場にも行けなくなったので、ほとんど自宅で書き続けました。小説の書き方も変わりました。無理して倒れるようなことがあるとリスクが高くなるので、一定のリズム・分量で書き続けるようになりました。そのせいか例年のように真夏や真冬に体調不良で倒れるということはなくなりました。

幸運にも、自分自身も、家族も、友人も、仕事関係の間でも新型コロナウィルスに感染し困難に陥ることなく、日々が過ぎていきました。そこで自分を内省する時間を多く作りました。これから世の中は、世界は、人類はどうなっていくのか。そもそも自分はどうなっていくのか。どうしたいのか。どうしていかなければいけないのか。動けないからこそ、いつか動けるときのことを考えたりしました。

とはいえ、夏くらいまでは完全に回復できたとは言えない状態で、筆力にもだいぶ不安定さが残っていました。そんなさなかで携わった脚本仕事などを通し、少しずつ自分の文章や作風、主題など、「作家として何を書くか」についてネジを一本ずつ巻き直していくような確認を続けました。

一応、これで大丈夫かもしれないと思えたのは、今年の12月頭に書き終わった新シリーズの長篇一冊(元は中篇でしたが書いてるうちに増えました)の初稿を書き上げたときくらいでしょうか。自分のなかの想定した目的地にきちんと着地する、目的・意図のある演出や文章を書く、キャラクターの造形・心理を掘る深度の適切さ、小説を書くなら当たり前のことをようやく人並みに出来るようになったと思えました。

これはつまるところ、「自分なりの正解」という視点を持つことなのだと思いました。自分が思う正解に対して責任を持つこと。ブレないこと。そのうえで作品を通し関わる、幾つもの異なる正解と向き合い、コミュニケーションし、「作品の正解」を目指すことにしました。

主観的になり過ぎず、かといって客観的にもなり過ぎない仕事への向き合い方。仕事をする上では当たり前といえば当たり前のことなのですが、基本的に個人仕事の作家業では、なかなか他の作家(先輩作家、同世代、若い世代問わず)のやり方が千差万別で参考にしにくいので、独学で進み続けざるを得なかったのです。

そんなわけで、どうにか今年最初にいた底から、また日の当たる地上に戻ってこられました。ここから次の山に登っていこうと思います。

とりあえず、来年はSFをやります。そういうことになります。

どうぞよろしくお願いいたします。

2020年 大晦日 吉上亮 拝

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