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青春は、時に盲目で、時に全てでもあり、時に、切り抜いた思い出の、鮮やかなる1ページとなる。

霜が降りて、辺りが真っ白な世界で包まれている。
玄関のドアを開けて、肌の表面にまとわりつく冷気に軽く身震いしつつ、かじかんだ手で自転車のハンドルを握った。
家から学校まで、自転車で約20分程度。
この道を進むのも、もう片手で数えるほどになる。

学校が見えかけた位置にある、十字路のおっきな交差点。
いつも私は、ここで自転車を降りて、自転車を押しながら歩いて学校の門まで向かう。
そのまま自転車に乗って行った方が、あったかい教室へと早く入れる。

でも、私がそうしない理由はーーー。

「おはよ」

後ろから、声をかけられる。
少し低い、でも妙に心地よさを覚える音。
でも、私の心はドキドキと、騒がしく高鳴っている。

声の主は、私の隣に立ち、私が押している自転車の前カゴに、背負っていたのであろうリュックをドカッと入れ込んだ。
振動が、ハンドルを伝って私に流れてくる。

「今日もさみーね」

言いながら、巻いているマフラーに顔を埋める仕草を見せる彼。
まるで、亀が甲羅に首をすぼめているみたいだ。

「ちょっと!前重いんだけど」

なんて言ってみたりする。
顔がニヤつきそうなのを抑えつつ、心にはほんの少しの、優越感を抱きながら。

「いーじゃん、すぐそこだろー?」

なんて笑いながら、こちらに視線を寄越す彼。
負けじと視線を送り返すけど、切長の瞳に見つめられ、心臓はさらに鼓動を高める。

「毎回思うけど、足、寒くねーの?」

彼の視線が、私の足元に向く。
私のスカートの丈は、学校指定の膝小僧が半分隠れるよりも、ちょーっと高い膝上。
だがしかし、このスカート丈の長さが今の女子高生の一般的な長さだ。

「もーちょい、長くしてもいんじゃね?どーせ誰も見てないし」

自分の親指と人差し指を顔の前で近づけ、もーちょい、を測っている彼。

それって、他の男の子には足を見せて欲しくないって意味?

なんて、自分の都合のいいように解釈をしてしまおうとする、私の頭。
でも、確かめる勇気は当然なく、いつもその真意は私の中の勝手な解釈で終わる。

「別に寒くないし?てか、女は寒さでオシャレを妥協しないんだよ」

意識せずとも、ツン、とした言い方になってしまう。まったく、自分でも可愛げがなくて呆れてしまう。
でも、これも照れ隠しなんだよ。

「へーへー、女の子は大変ですねっと」

ズボンのポケットに両手を入れて、私の隣を歩く彼。
いつから、こうやって登校するようになったかは分からない。
お互い、部活動を引退して、登校するタイミングがよく被るようになってからは、必然的に隣にいることが多くなった。
だから、たまに彼が来ない日は、信号が青に変わる瞬間、少し後ろを振り返ってみたり。

「あ、いーもん発見」

その声と共に、あたたかいものが頬に触れる。

「ひゃ!?」

彼の手に握られていたのは、ポケットの中でぬくぬくと温度を上げたホッカイロ。
肌の表面温度が外気と同じくらいに冷めていた私の頬は、あてがわれたぬくもりによって、ジンジンと熱を持っている。

「これ、貸してやる」

そう言って私のブレザーのポケットにカイロを入れ込み、前をズンズンと歩いていく。

ねぇ、こんなに優しくしてくれるのは、私だけ?
それとも、もし、通学路が同じにならなかったら、このぬくもりに触れたのは他の誰かだったりした?

熱くなる心と、ぎゅっと胸を締め付けるような、言い表せないほどの淡い感情が、冷えた私を苦しめる。

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