今年の10月より新規事業開発室長という役割で仕事をしています。
実務として、企業内で新規事業が生まれる仕組みや文化について調べる必要が出てきたので、大学院時代にお世話になった田中先生と中原先生の書籍を読みました。
発売時にも読んだ記憶がありますが、実務上必要なタイミングで読み直すとまた新しい発見がありますね。
読んだ文献
「事業を創る人」の大研究(田中聡・中原淳, 2018)
要約
この本では、新規事業が「千三つ」と言われるほど成功が難しい理由を探り、これまでの「戦略論」では解決できなかった問題に「人と組織」の観点から調査をしています。
新規事業の成否は、斬新なアイデアよりも「巻き込み力」や組織内でのサポート体制が鍵であり、最大の障壁は組織にあると指摘しています。また、従来の出島モデルやゼロイチ信奉の危険性を論じ、データに基づいて「人」と「組織」による事業創造の実態を明らかにしています。
数多くの量的研究の結果に加えて、巻末には質的研究の結果もまとめられており、多面的に企業内の新規事業について考えることができる一冊です。
特に関心を持った箇所
自分にとっての学び
私はこれまでのキャリアで、合計約10年間、新規事業の担当者として仕事をしてきました。本書で取り上げられている落とし穴や葛藤には、私自身も経験から共感できる部分が多く、当時うまく新規事業を進められなかった苦い記憶が蘇りました。本書の特徴は、新規事業の成功を戦略論や事業開発論ではなく、組織論として一貫して論じている点にあります。今では新規事業開発を組織全体に関わるプロセスとして捉えられますが、経験が浅かった当時の私は、その構造が全く見えておらず、ひたすら「いかに良い事業アイデアを出すか」に執着していたように思います。
本書の後半では、新規事業を「育成事業」として捉え、組織全体で育てていくという提案がなされています。新規事業と既存事業を対比すると対立が生まれることが多いですが、「育成事業」として捉えることで、組織の未来のために必要な投資と見なされ、より理解されやすいと感じます。
私は事業開発を中心にキャリアを積んできましたが、大学院では人材開発と組織開発を学びました。本書は、それらの領域をつなぐ一冊であり、今このタイミングで読むことができて本当に良かったと感じています。