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5-4.アヘン戦争までその2

インドでのイギリス

17世紀初頭にオランダとの競争に敗れ、東南アジアではなく主にインドを活動の拠点としたイギリス東インド会社は、1757年の「プラッシーの戦い」、1764年の「ブクソールの戦い」を通じて、現地インドの内政に深く関与するようになり、1765年にはムガール皇帝からベンガル地方の地税徴税権を与えられ、領土支配・統治に乗り出します(出所:「イギリス帝国の歴史/秋田茂」P68)。

「茶」が「綿布」にとってかわる

同社は、18世紀初めまでインド産の綿製品が全輸入額の約7割を占めていました(出所:「イギリス帝国の歴史/秋田茂」P73)。1760年になると、中国からの茶の輸入が全体の4割となり首位を占めるようになります。茶の輸入は、その全てが前述の広州からのものでした。

18世紀始めから中頃にかけてのイギリス国内は、農業技術の改良や耕地面積の拡大を伴った農業革命によって、毎年豊作が続き、農民や労働者の実質所得が著しく上昇しつつあった時代で、茶、砂糖、タバコその他高価な輸入品に対する国内需要が増大していました(出所:「茶の世界史/角山栄」P65)。それによって、一般庶民にも飲茶の習慣が広がり、茶の輸入が激増したのです。その頃には、砂糖も高級な贅沢品から安価な大衆化された商品となっており、紅茶に砂糖を入れて飲む習慣が定着していったのです。砂糖は、イギリスが獲得した西インド諸島での砂糖プランテーションから持ち込まれたもので、よく知られているようにそこでの労働力は、アフリカから連れてこられた黒人奴隷でした(イギリスが奴隷制度を廃止したのは1833年)。

輸入品「茶」の激増と「アヘン」

1784年、イギリスは密輸の防止と関税収入の増収のために、本国の茶関税を119%から12%へ大幅に引き下げました(出所:「イギリス帝国の歴史/秋田茂」P73)。その結果茶の輸入量は爆発的に増加することになり、対中貿易は赤字に転落します。イギリス東インド会社は、その赤字を相殺し、本国からの銀の流出を阻止するために、インドでの専売独占権を得ていた「アヘン」を、民間業者を隠れ蓑にして中国に持ち込むのです。

(アヘンは20世紀初頭まで、医薬品(鎮痛剤など)の一つとして使用されていた。BCの世紀のエジプトにも使用根拠があるらしい)

この民間業者は「カントリートレーダー」とよばれ、インドにおいて現地のインド商人からインド綿布を購入し、それを東南アジア地域に持ち込み、現地商人から香辛料や錫などの中国向けの東南アジア物産を入手して、中国本土からやってくる中国商人と交易をおこなっていました。インドから西は東インド会社の独占があったため、インドより東のアジア内での交易をおこなっていた商人たちです。

東インド会社は、清朝がアヘンを禁止していたため、会社が直接にアヘンを中国に持ち込み、茶の交易に支障がでることを恐れていました。そこで、インドにおいてアヘンを競売にかけてカントリートレーダーに売り、トレーダーはそれを広州に持ち込んで中国商人に売るという方法を取ったのです

ちなみに、この商売で巨利を得たトレーダーの一つにジャーデン・マセソン商会があります。それは「ジャーディン・マセソン・ホールディングス」として、アジアを基盤に世界最大級の国際コングロマリットとして今も存続しています。カントリートレーダーは、中国商人からアヘンと引き換えに銀を手に入れ、その銀で広東の東インド会社の拠点でインドあての為替を購入し、東インド会社はその払い込まれた銀で茶を購入したのです。

1784年には、イギリスから独立を勝ち取ったばかりのアメリカからアメリカ商人が広州にやってきます。アメリカ商人たちは、このあとのアヘン戦争中にイギリス商人にかわってアヘンを持ち込み、大儲けするようになります。

中国から流出する「銀」

東インド会社がアヘン用に用いた標準的な箱には、1.5キログラムのアヘンの黒いボール40個が詰められていました。その中国への流入量は、18世紀末に4千箱、1826年には1万箱、1838年には4万箱にまで激増します。そうして1827年頃から中国から銀が流出し始めたとされています「出所:「海と帝国/上田信」P499)。

中国国内での需要があるからこそ、成り立ったアヘンの商売ですが、清朝政府は銀の流出という事態への対処と、アヘン中毒が兵士の間に蔓延することの危惧から、1838年にアヘン吸引者は死刑という法律を含んだアヘン厳禁の方針を定めます。そうして、イギリスとの間に起こったのがアヘン戦争です。

また、Wikipedia「アヘン」によれば、アヘンのたばこに混ぜての吸引習慣自体も、主にはイギリスが持ち込んだらしい(圧倒的に都市の港湾や、河川沿いの地域で働く人々からはじまった)のですから、その罪深さは相当なものです。

続く


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