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【短編小説】雪女−episode2−
−episode2−花束
僕はまた眠ってしまっていた。目を開けると、やはりそこに彼女はいた。
『おはよう。今日も寒いね。』よしのは優しくそう言った。
歳は僕と一つしか変わらないというのによしのは落ち着いていて穏やかで、優しくて、けれども何処か寂しげだった。外見は”歳相応の可憐な少女”という感じだが、中身がやけに大人びているというか、悟っている印象だ。
男よりも女の方が精神年齢の成長が早いというがそういうことなのだろうか。
今は2月で、よしのと話すようになって一ヶ月が経とうとしていたが、僕は彼女のそういう部分に惹かれていった。焦がれていった。
時間の流れというのは本当に呆気なく、気がつけばもう6月だった。駅にあったストーブは当然のように撤去され、窓から見える景色も雪から梅雨の雨に変わっている。唯一変わっていないものといえば、今も僕の正面のベンチには彼女が座っているということだ。
最初から分かってはいたがよしのは雪女ではなかった。外の景色が変わった今も相変わらずベンチで静かに本を読んでいる。
二人の間柄に何か進展があったかといえば、何もない。
一つ挙げるとすれば、話し始めたばかりの頃よしのは僕のことを『幸男くん』と呼んでいたのだが、いつしかそれが『ゆっきー』に変わっていた。
好きな子から愛称で呼ばれるというのはなんとも面ばゆかったが、同時に『悪くないな』とも思っていた。
『付き合ってもいないのにのろけ話をするな』とか、『早く告白してしまえ』という声が聞こえてきそうなものだが僕は怖かったのだ。
告白してフラれることがではなく、もしかしたらこの恋は実り得ないかもしれないという点がだ。
フラれることと恋が実らないということは同義ではないのかと思うだろうが、この場合同じ意味ではない。僕が言っている『この恋が実り得ない』というのは物理的な話だ。
まず結論から言えば、僕は今ある疑惑を抱いている。
それは、よしのは幽霊なのではないかという疑惑だ。
突拍子もないことを言っているのは重々承知だが、こう思うのにはちゃんとした理由がある。僕はこの駅以外で一度もよしのを見かけたことがない。
違う学校に通っているのだから当然なのかもしれないが、電車の中でもだ。
都会に住んでいる人の感覚で言えば電車の中で見かけたことがないのも人が多いので当然、というか普通なのかもしれない。
しかしここは田舎で、電車は一時間に一本。利用者も少なく満員になる事などない車内でこれまで一度も見かけたことがないというのは不自然だ。
そして、去年の12月中旬あたりから急によしのを駅で見かけるようになったという点。家の都合で12月に別の場所から引っ越してきたと考えればやはりこれも自然なことなのだが、一つ気になっていることがある。
よしのを見かけるようになったのと同じタイミングから、線路の脇に花束が置かれるようになったことだ。
僕の推測が間違っているのであればそれはそれでいいのだ。
しかし、もしもこの推測通りなのであれば全ての説明がついてしまう。
よしのに気持ちを伝えたとして、仮に彼女も僕と同じ気持ちだったとして、果たしてその恋は『実った』と言えるのだろうか。
生きた人間と幽霊の恋の結末など容易に想像がつく。
だから僕は怖かった。気持ちを伝えることが。
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