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短歌で小説作ってみた

短歌名「観覧車 回れよ回れ 想ひ出は 君には一日 我には一生」

主人公:葵(20歳女子大学生)
=田舎町に暮らす、ごく普通の女子大学生。
19歳の春、同じ大学に進学する翼と付き合い始め、素敵なキャンパスライフを過ごしていた。ただ、
その一年後、脳に腫瘍が見つかる。無事手術は
成功するも、そのまた一年後癌が再発し、さらに
余命宣告を受ける。切なくも淡い、男女の愛を描いた
田舎町のある物語。

第5話【ターニングポイント】

「このキャラクター、私だ。」
漫画を読んで感動することは何度もあったが、身震いするのは初めてだった。最近から感じるようになった心の中のモヤ。その正体が明らかになった。私が嘘をついて、翼の安心する表情を見た時。翼との遊園地デートが決まった時。特別な誕生日と言われた時。その時に発生したモヤの正体は【憎しみ】だった。私は、来月に余命が来る。それと違って、翼や華恋、恵と千春ももちろんだが、皆んなは私が死んだ後も普通に生きることができる。そんな皆が憎くて仕方なかった。その感情が、この漫画によって明確になった。この親友に気付かされた。私は、そっと漫画本を閉じて立ち上がった。そして、窓を開けた。外の寒い空気が一気に室内に流れ込む。気づいたら、私は泣いていた。ひたすら泣いた。目がパンパンに腫れ上がるまで泣き続けた。
「なんで、なんで私だけなの!何も悪いことしてないのに、今まで誰よりも真面目に生きてきたのに、どうして死ななきゃいけないわけ!?後、1ヶ月で死んじゃうって、、、酷すぎる。あまりにも酷すぎるよ、、、、、」
真っ暗闇の空に私の声が響く。その声は、瞬く間に田舎の空気に呑まれていった。そのまま、腰が抜けたかのようにベッドに座り込む。私はその状態のまま、窓が空いたまま、涙を流し続けた。私が眠りについた時は、外から寒い空気と一緒に朝日が流れ込んでいた。

2月18日。結局、夜まで眠り続けた。起きた時には、目の前に夕食が置かれていた。
「ノックしても反応がないから、びっくりしたよ。これ、さっき持ってきたばっかりだから。温かいうちに食べてね。じゃあ、おやすみ」
「ありがとうございます。いただきます」
そう言って、私はぼーっと目の前に置かれた夕食を眺めていた。箸を握り、熱々のご飯を口に運ぶ。いつにもまして甘く感じた。これが、生きてるって感覚なんだ。今まで当たり前のように感じていた味でさえも、今は物凄く尊いもののように思えた。もう少しすれば、この食事さえも点滴に変わってしまう。三代欲求の食欲を奪われる。
「何の為に、生きてきたんだろう」
ボソッと呟いた。誰も返事してくれる人はいない。お願い、誰か答えてよ。夕食を食べ終えた私は、静かに眠りについた。誰にも気付かれることなく、死んだかのように目を瞑っていた。
2月19日。冬の朝日が容赦なく私の顔面を襲う。思わず、手で日光を遮ろうとしたが、それよりも早く日光が遮られた。
「おはよう。体調はどう?今日、なんか顔むくんでるぞ?」
「もー、一言余計だって。相変わらず元気だよ」
そこに立っていたのは翼だった。学校の通学途中にお見舞いに来てくれたみたいだ。
「冗談だって。あ、それよりさ、この前の試合相手に面白い奴がいてさ。そいつがめっちゃおかしくて(笑)」
「え、なになに、聞かせて」
「それがさ、この間、、、、、、」
「何それ(笑)つまんないし」
「とか言いながら笑ってんじゃん。あ、やっべ。俺もう学校行くわ。またな」
「またね、学校頑張れ」
「おう、顔むくまないようにほぐしとけよ」
「一言余計。ほら、早く行かないと遅刻するよ」
「あ、翼」
翼が立ち止まり、私の方を振り返る。
「どうした?」
「私のこと、好き?」
「何だよ、今さら」
「いいから、答えて」
「好きに決まってんじゃん」
「これからも、ずっと?」
「当たり前だろ。もう時間やばいから行くな」
「ありがとう。気をつけてね」
「おう」
そう言って、翼は駆け足で病室から出て行った。
「私も、ずっと好きだよ」
翼が扉を閉めた後、私にしか聞こえない声で呟いた。それから、また1人で泣いた。誰にも気付かれないように、静かに泣き続けた。
ようやく泣き止んだ頃、扉をノックする音が聞こえた。入ってきたのは、看護師さんだった。
「暇だったから、遊びに来ちゃった。体調はどう?」
「良い方だと思います」
「それなら良かった。そうだ!漫画、読んだ?」
「面白かったですよ。今までの漫画と全然違いました」
「そうか〜。それは楽しみだな」
そう言いながら、看護師さんは病室の掃除を始めた。
「あ、看護師さん。看護師さんって、どうして看護師になったんですか?」
「みかさんでいいよ。私の名前、みかだから。どうして、そんなこと聞くの?」
「だって、人が亡くなる所いっぱい見なきゃいけないの、辛いんじゃないかなって思って」
「そうだね。でもね、葵ちゃん。どうせ、人は皆死ぬんだよ。皆それがいつなのか分からないから今日を無駄にしちゃうの。ただ、不思議なことにいつ死ぬか、終わりがわかった人程、残りの人生を無駄にしちゃうことが多いんだよね」
みかさんは、掃除をしながらそのまま話し続けた。
「私は、そういう人達の人生を無駄にしたくない。1人でも多く、人生を後悔のない様に過ごしてほしい、最後を笑顔で迎えて欲しいからこの仕事をしているかな」
みかさんが掃除を終え、私の隣に座る。
「私は、葵ちゃんのこと可哀想だとは思わない。ただ、残りの人生を後悔のない様にはして欲しいな」
そう言って、みかさんが私の手を握った。みかさんの手は、とても温かく、そして優しかった。
「みかさん、私どうしたらいいか分からない」
「葵ちゃん。最後ぐらい、自分の為に生きてみない?周りの人からどう思われるとか考えなくていい。自分が何をしたいかが大事だよ」
「自分の為、、、」
その時、みかさんの社用携帯に着信が入った。
「あ、サボってるのバレちゃったかも(笑)私、戻るね」
そう言って、みかさんは病室を後にした。私は、今まで人の為にずっと生活してきた。両親を喜ばせるため。友達のため。そして、1番は翼のため。ずっと自分は後回しにしていた。
「最後くらい、自分の為に生きていいんだ」
それに気づいた時、私の後悔しない人生計画が決まった。


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今までずっと人の為に尽くしてきた葵。誰よりも徳を積んでいるはずの葵だったが、余命宣告を受け、周りの人々に対して、徐々に【憎しみ】が生まれる。そんな中、看護師のみかさんに言われた【自分の為に生きてみない】という衝撃の言葉で、今まで隠していた本当の葵があらわになる。葵が言った後悔しない人生計画とは一体何なのか。

6話に続く
11/25 投稿予定

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