見出し画像

マイク・シルト 〜異色の経歴の指揮官〜

「2019年の最優秀監督はマイク・シルト」

その結果をシルト監督は自宅(多分)で家族と、オリバー・マーモルベンチコーチ、ジェフ・アルバート打撃コーチ、マイク・マダックス投手コーチと共に聞いていました。得票数の内訳は下の通りです。

1位票はブルワーズのカウンセル監督よりも3票少なかったものの、2位票で他の監督を圧倒。結果は2位と7ポイント差で1位となりました。

プロ野球(メジャー、マイナー)を選手として経験していない監督として初の最優秀監督賞受賞となったシルト監督。主にどんな野球人生を歩んだのか書かれた記事(Cardinal manager Mike Shildt: How to succeed in baseball by really trying https://www.commdiginews.com/sports/mlb/cardinal-manager-mike-shildt-how-to-succeed-in-baseball-by-really-trying-123513/)の翻訳という形で、簡単ではありますがシルト監督の変遷、どんな監督かを書いていきたいと思います。

大学終了までの選手生活

シルト監督はノースカロライナ州、シャーロットの出身。この土地にメジャーリーグチームはなく四大スポーツの内NFLのカロライナ・パンサーズ、NBAのシャーロット・ホーネッツがあります。
シルト監督は高校野球をその街で新しい高校だったオリンピック・ハイスクールで、大学野球をノースカロライナ大学アシュビル校(UNCA)でプレーしました。UNCAの主なメジャーリーガーとしてアスレチックス時代に70登板を果たしたライアン・ダル、メジャー12年で8球団、オールスター選出1回のタイ・ウィギンドンがいます。
シルト監督は大学で選手として野球に携わるのは終了。理由はカーブを打つのが苦手だったためです。

指導者として

選手生活を終えた後、シルト監督は指導者としてのキャリアを積んでいきます。そのために人一倍勉強し、常人の何倍も野球の試合を見たと言われています。最初にコーチとして就任したのはウェスト・シャーロット・ハイスクール。この高校は1990年前半はサッカーの強豪校として知られていました。ただコーチとして就任したシルト監督の元で野球部は20年で初のシーズン優勝を達成。その後ノースカロライナ大学シャーロット校の野球部のアシスタントコーチとして5年就任しました。オフシーズンは練習施設を所有し、その地区の学生選手対象のフルタイムのインストラクターとなりました。

MLBからの勧誘

このシルト監督の功績や才能はすぐにプロに発見されることになります。カージナルスがノースカロライナ州、サウスカロライナ州、バージニア州の地区スカウトとして雇用。彼の鋭い評論家としての腕や彼の施設を利用したトッププレーヤーを評価されたためです。この地区のスカウトとなったのは、シルト監督が長い間ノースカロライナで過ごしてきたからでしょう。

3シーズン後、後に将来のカージナルスのGMとなるジョン・モゼリアクからの推薦でマイナーリーグの指導者としての道を歩みます。まずはパートタイムのコーチとしてシングルAの1つであるニューヨーク・ペンリーグの2004年、2005年シーズンに派遣されます。2006年はフルタイムの監督として同リーグで2007年終了まで指揮しました。

2008年はマイナーのスプリング・トレーニングの調整を任され、同年はルーキーリーグのジョンソンシティ・カージナルスの打撃コーチに就任。2009年からは同チームの監督となり好成績を残し、同年にアパラチアン・リーグの最優秀監督賞に選ばれました。また同チーム指揮後、カージナルスの優秀な指導者に送られるジョージ・キッセル賞を受賞。キッセルは"Cardinals Way"と呼ばれるカージナルス独自のチーム作りに影響を及ぼし、"the professor"の二つ名を持つ球団殿堂入りの最高峰の指導者でした。彼の指導の元で多くの指導者を輩出し、ジョー・トーリやトニー・ラルーサもその1人です。

その後AAのスプリングフィールド・カージナルスで3シーズン、AAAのメンフィス・レッドバーズで2シーズン監督として指揮し、好成績を残しました。

メジャーへ

2017年途中にシルト監督はメジャー、セントルイス・カージナルスの首脳陣入りを果たします。当時のマシーニー監督の元では2017年は3塁コーチャー、2018年はベンチコーチの役割でした。2018年シーズン途中、成績不振だったマシーニー監督の解任を受け監督になりました。2018年のカージナルスの成績は88勝74敗の3位。シルト監督になってからは41勝28敗でした。

2019年シーズンは頭からカージナルス監督として指揮。カブスやブルワーズといった強豪の猛追を振り切り、162試合目で激戦のナ・リーグ中地区優勝を果たしました。ポストシーズンではDSでブレーブスを破るものの、CSではナショナルズに4連敗で敗退しカージナルスの2019年シーズンが終わりました。オフに3年契約、2022年までの契約を結びました。

指揮のスタイル

まだ1年と半分ですが、シルト監督の指揮スタイルはカージナルス伝統の野球を引き継いでるといってもいいでしょう。カージナルスの伝統はスモール・ボールを含めた総合力の高さ。ラルーサ、マシーニー両監督もこの戦法でした。

ただこれを成すには優れた観察眼、経験や場数の多さが必要になります。小技は乱発するものではなく、攻撃のバリエーションを増やしたり打線が打てない時にどう点を取るかで考えられた戦法です。そのような状況は常に起こるものでは無いので、どの状況でどの打者に仕掛けるべきかを見極める必要があります。決して小技を仕掛けるのは簡単に行うことではないと思います。ラルーサ監督はホワイトソックス、アスレチックス監督時も結果を残し、当時カージナルス所属の田口壮現オリックス野手総合兼打撃コーチもラルーサ監督の観察眼を高く評価しています。マシーニー監督も現役時代は捕手としてゴールドグラブ賞4回獲得の扇の要、チームの頭脳として活躍しました。チームの方針としてこのような人材がカージナルスの監督になるのでしょう。

シルト監督も指導者の経験が長いため優れた観察眼を持っています。今日のデータ化による効率化で全体的に数は減ってるものの今年のカージナルスのバント数は6位と上位。また走塁にも力を入れています。2010年代のカージナルスの走塁指標はよくはありませんが、シルト監督が首脳陣の一員となってからは走塁指標が上位に。今年は盗塁含め全体トップクラスの走塁力でした。ウォンやベイダーといった俊足だけでなく、モリーナやオズーナ、カーペンターやファウラーといった格段に足が速くない選手にも隙あらば走らせ、オズーナとカーペンターの盗塁数今年はキャリアハイでした。

また、監督として必要な優れた選手とのコミュニケーションスキルも彼の強みの1つです。これは現カージナルスの選手やOB、解説者達からも高く評価されています。学生プレーヤーから癖のあるプロの選手まで数多の選手を見てきて、選手を信頼、リスペクトしてるからこそ指導者として優れた経歴を残してきたと思います。

終わりに…

選手としてのプロ経験の無い指導者として有名となったシルト監督。ただ、当然これは異例です。ここまでに至るための努力は想像出来ないほどで、常人が簡単には出来ない域にあると思います。過去に日本にもプロ経験の無い監督として阪神タイガース(当時大阪タイガース)の岸一郎監督がいましたが、通算監督成績は33試合16勝17敗。円滑にチーム運営が出来なかったそうです。

日本野球の監督は一流選手が行う、権威主義的な側面はまだ強いと思います。名選手が決して名監督になるとは限りません。シルト監督がこれからも活躍しカージナルス、そしてMLB屈指の名将のラルーサ監督レベルまでたどり着いたなら、世界の野球界に革命が起こるでしょう。

出典

Bob Taylor, "Cardinal manager Mike Shildt: How to succeed in baseball by really trying", https://www.commdiginews.com/sports/mlb/cardinal-manager-mike-shildt-how-to-succeed-in-baseball-by-really-trying-123513/

Steve Lyttle, "Charlotte friends say nobody will outmanage Cardinals’ skipper Mike Shildt", https://www.charlotteobserver.com/sports/article235708357.html

#野球 #MLB #セントルイスカージナルス #指導者 #監督

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?