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旅が日常だった私が、コロナ禍で実感した旅のエネルギー【だから旅は、やめられない。#19】

藤井みさ(編集者)

「ヨーロッパからアメリカへの入国を停止する」とトランプ大統領が発表した2020年3月12日、私は夜の便でハワイに出発するためにスーツケースにバカンスの準備を詰め込んでいた。10月からずっと続いていた目の回るような忙しさを抜けて、ようやく自分へのご褒美だと思って心待ちにしていた春休み。だったのだが。

ヨーロッパからの入国を停止したということは、もしかしたら日本からの入国も停止されるかもしれない?今日ハワイに行ったとして、ハワイ滞在中に帰れなくなったらどうする?でも半年前から予約してた旅行なのに、いまさらやめるの?そんな思いが頭の中をぐるぐるまわり、でも一応準備はしながら、一緒に行く友達とスピーカーフォンで延々とどうする?どうする?と話すこと1時間半。

ハワイは諦めて沖縄に行こう

そう決めてからは素早かった。航空券をキャンセルし(特例ということで全額戻ってきた)、ホテルをキャンセルし(こちらも)、そして沖縄のホテルに明日から行きたいですと連絡し、航空券を取る。沖縄のホテルには「明日ですか!?」って言われたけど、なんとか予約できた。

ハワイへの心残りはあったものの、沖縄のリゾートホテルで4泊、のんびり、それはそれはのんびりした。帰りの飛行機はガラガラで、サービスもほとんどなし。早くこの状況が落ちつかないかねえ、なんて言いながら帰路についた。けど、そこから何か月も飛行機にも乗れないし、そもそも県境すらまたげなくなるなんて、思ってもいなかった。

ラウンジ

行けないことで実感した旅の重み

自分の意志で行かないのと、行ってはいけないと言われて行かないのは違う。4月からの緊急事態宣言のときは、それをつくづく実感する期間となった。移動することすべてがリスク。旅でなくてもいい、ただ移動するだけでいい、延々と電車に乗り続けることだけで気分転換をしてきたような私にとって、移動してはいけないというのは何よりもつらかった。

別に、名物のものを食べなくたっていい。観光名所に行かなくてもいい。ただ「ここではないどこか」に行って、その土地の空気を吸って、いつもと違う町をなんとなくぶらぶらする、それだけで自分の中になにかが満ちてくる感じがある。その「なにか」を補給したくても、自分にはどうしようもできない。それがこんなにつらいことなのだと初めて知った。

一つひとつ実感する旅の感動

ひさしぶりの遠出は、9月の関西出張だった。新幹線が西に向かい、窓から富士山がみえる。それだけでなんだかじーんときて、自分が元気になってきているのを感じた。帰りの新幹線まで時間があったから、梅田の蔦屋書店で仕事をして、それはもはや旅じゃないけど、それでもそこにいる自分がなんだかうれしかった。

京都駅

そして沖縄に行ってから約8カ月。11月のはじめ、ようやく、本当にようやく飛行機に乗ってでかけることになった。自分の意思で旅行するようになった20歳のときから、こんなに飛行機に乗るブランクがあいたことはなかったかもしれない。行き先は札幌。空港はそこそこ混んでいて、みんな旅先へのワクワクを心のなかに携えているように見える。空港の放送の前に鳴るチャイムとか、出発時間になっても現れない人を呼び出したりする放送とか、そういうのも全部「ああ、空港だなぁ」って思って懐かしくなった。

羽田空港

ドアクローズのアナウンスがあって、飛行機は滑走路にタキシングする。ぐぐっと重力がかかって、離陸。晴れ渡った空の下には地図みたいな日本列島が見えて、まるではじめて飛行機に乗った時のように、食い入るように窓の外を見続けてしまった。新しくオープンした「ウポポイ」に行く以外はノープラン。1日目はウポポイを堪能して、次の日は北大に紅葉でも見に行こうと思ったら雪が降って、ほとんど新千歳空港にいて、わずか1泊の旅はおしまい。だけど私の中には「旅に行った」という満足感と、違う土地の空気を吸うことで満たされる「なにか」が残った。

そして冬になりまたコロナ禍が襲い、移動をすることははばかられるようになった。でも、この状況が落ち着いたら私は必ずまた旅に出るだろう。「いつもの場所ではないところ」へ向かって。そして心の中を、いつもとは違う「なにか」で満たしたいから。

ウポポイ 草原

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