《ドラマde外国語》Astrid et Raphaëlle S01 E05:Fulcanelli
贈り物は、難しい。
誰かに贈る場合も、誰かからもらう場合も、いつも上手くいくとは限らない。
家族から自分の誕生日に贈り物を貰わなくなって久しいが、メッセージだけは毎年くれるので忘れているというわけではなさそうである。そもそもプレゼントを心待ちにしているわけではないし、自分でも大抵忘れているから全く気にならない。
親しい友人から誕生日の贈り物をいただいた場合は、何であれ嬉しい。気持ちがこもっていることも嬉しいが、覚えてくれていることに感動する。
問題は、次のような場合の贈り物である。
極々まれな話だが、贈り物にマウントをかけてくる人がいる。相手に喜んでもらう物を贈るのではなく、贈り手が満足する物を贈る人である。露骨な言い方をすると、「私って素敵でしょ?」というマウンティングを感じさせる贈り物である。おまけに、それらは高価な物であることが多いから、なかなか厄介である。贈り手から高級菓子や高級品をこれ見よがしに差し出されると、純粋に「金銭的価値」だけを享受できる人にとってはありがたいかもしれないが、そうでない場合には、過分な贈り物にかえって困ってしまう。しかも、こういうタイプの人に返礼するのは概して難しいから、悩みはさらに深まる。
また、相手に喜んでもらおうとして贈る場合でも、気持ちが先走りすぎて相手に威圧感を与えてしまうこともあるだろう。
贈り物の難しさについては、北欧の街角でさんが非常に上手いことを書いておられる。
贈り物は、難しい。
というわけで、今回は「贈り物」に焦点をあててドラマを見てみようと思う。
まず初めに、フランス語で贈り物のことは、
①Un cadeau
という。
今回の話は、ラファエル姉妹の会話で始まる。
ラファエルに姉がいたことが初めて分かるのだが、姉妹の会話はすれ違い気味である。ラファエルは翌日の誕生日パーティーに姉を誘うが、「明日は予定があるから」という気の乗らない答えが返ってくる。姉は、ラファエルの表情を見ると、「でも何とか都合をつけてみるわ」と慌てて取り繕うが、気の乗らない誘いの断り方が難しいのは、洋の東西を問わないようである。
そこへ署から遺体発見の連絡が入る。ラファエルが店を出ようとすると、「ちょっと待って。誕生日プレゼントよ」と言いながら姉がバッグから取り出したのは、
②Un chèque
小切手である。
キャッシュレス化が進む時代に小切手を見るとは思わなかったが、そういえば報酬などで小切手を切るシーンはよく見かける。
一方、ラファエルは姉が小切手に金額を書き込んでいる間に店を出て行ってしまう。
そして、現場へ向かう地下道を歩きながら姉の贈り物について「バカにしてるわ!」と、アストリッドにひとしきり愚痴をこぼす。
ところで、パリの地下道だが、これはかつて地下にあった採石場の跡で、ノートルダム大聖堂などの建造に使われた石はこの砕石場から運ばれたのだそうだ。アストリッドによれば、全長280kmに及ぶということなので、もはやこれは巨大迷路である。
さて、この地下道で若者たちが前夜パーティーを開き大音響で盛り上がっていたところ、突然天井が落盤した。
そして、その瓦礫の下から20代と思われる男性の遺体が発見された。身元不明の人物が身に付けていた古い軍の認識票には、Gabriel Henryという名前が刻まれている。さらに胸部に刀剣と思われる刺傷が見つかったため、落盤事故ではなく殺人事件として捜査されることになったのだが、アストリッドは、この男性は落盤の下敷きになったのではなく、落石とともに落ちてきたのだと言う。
認識票の名前に記憶があると言い残して現場を去った後、犯罪資料局から戻ってきたアストリッドは、ガブリエル・アンリは1952年に失踪したが、文書保管期限切れ後に一件書類が廃棄処分されたことを伝える。
二人の話を聞いていたアルチュールは当時の失踪記事を見つけるのだが、ラファエルが携帯で撮った遺体の人物と酷似している。生きていれば88歳と推定されるが、遺体はどう見ても25歳程度である。パソコンの画像と見比べたアルチュールが一言、
直訳だと「雌牛」という意味だが、「たまげたな!」というほどのカジュアルな表現で、会話でよく使われる。ただし、「ひどいな」という意味もあるので、使う場面には気をつけた方がいいかもしれない。
一方、ラボではフルニエが、遺体の男性が飲み込んでいた指輪のようなものを発見する。指輪にはSpiritus Fulcanelliという刻印があった。
こうして、60年以上前の殺人事件の捜査が始まるのだが、カール・バシェール警視正によって翌日には捜査の打ち切りが命じられた。
発端は、一冊の雑誌だった。
遺体が発見された夜、年齢を理由に誕生日パーティーに参加させて貰えないテオが、ラファエルとともに一日早い誕生日会をしていたところにアストリッドが訪れる。
食卓を見て、
と動揺するアストリッド。
自分ではなくママの誕生日で、本当は明日なのだとテオが説明する。そして、そのパーティーにアストリッドを招待するのだが、知らない人や騒がしい場所が苦手だと知っているラファエルは気が気ではない。ところが、意外にもアストリッドの答えは、「喜んで参加します」というものだった。思わぬ返事に喜ぶラファエルだったが、これが後で悲しい出来事を引き起こしてしまう。
さて、アストリッドがラファエル宅へやってきたのは、一冊の雑誌を見せるためであった。内容は錬金術などに関するものだったが、その記事の中にガブリエル・アンリの名が書かれていた。
翌日、その発見をラファエルが興奮気味で班のメンバーに報告すると署員の一人が、
③la vie éternelle?
「永遠の命だって?」と茶化したことから、ニコラとアルチュールも一緒になってからかう。
もし、贈り物に永遠の命を貰ったら自分ならどうするだろうと考えてみたが、アルチュールの言葉で我に返った。
一理ある。
気を悪くした様子のアストリッドに雑誌を返しながら、さりげなく「ごめんね」と謝るアルチュール。さすがである。
そして、ラファエルも、
④T’es une perle !
「さすがだわ!(あなたって真珠(かけがえのない人の意)だわ)」と、頼んでいた男性の住所を突き止めたアルチュールを褒める。
褒め言葉はもらうと嬉しいものだが、昨今の「褒めて育てる」という人材育成には必ずしも手放しで賛同はできない。
些細なことであっても達成すれば褒められてよいし、たとえ達成できなくても努力する姿は褒められてよいものだが、努力も成果もないところを闇雲に褒めるのはあまりよいことだとは思えない。本人のためを思えば、時には注意や叱責も必要だと思うのだが、パワハラと呼ばれることを恐れてか、まるで腫れ物にでも触るかのような人材育成には疑問を感じてしまう。もちろん、注意の仕方に気をつける必要はあるものの、やってはいけないミスやマナー違反などを上位職が注意をするのは、褒めるのと同じくらい大切なことだと思う。
話が少しそれたが、件の雑誌は警視正の元へ渡り、部屋へ呼ばれたラファエルは警視正から、「よくやった。失踪事件は解決したから本件は終了だ」と告げられるのである。
納得がいかないラファエルはアストリッドとともにひそかに捜査を続ける。二人がアルチュールに教えてもらった男の住所を尋ねると、男は椅子で死んでいた。こうして捜査が再開されることになったが、アストリッドは別の問題を抱えていた。
ラファエルへの誕生日プレゼントである。
一晩中考えても思い付かず、困り果てたアストリッドは、社会力向上の会へ赴き皆に相談する。
「相手の気持ちになって考えてみたら?」というアドバイスにアストリッドは「それはもっと難しいです」と、さらに動揺する。
すると、ウィリアムが「自分にとって相手がどういう存在なのかを考えてみたらどうかな」と提案する。この提案に安堵したアストリッドは、帰り際にウィリアムにある物を渡す。
フルカネリの指輪の謎を解くと思われる「鍵」である。アルゴリズムが大好きなウィリアムは、大興奮で叫ぶ。
その夜、ミシェルのバーでラファエルの誕生日パーティーが開かれる。騒がしい中に入ってきたアストリッドは、ラファエルに小さな袋に入ったプレゼントを渡す。友人たちは「きっと宝石よ」と盛り上がるのだが、中から出てきたのは、dé à coudre 指貫だった。
それを見たラファエルは困惑し、友人たちは、「指貫だってさ。俺、鉛筆削りあげればよかったかな」と笑う。
アストリッドは、たまらず店を出る。
ドラマの最後で、ラファエルがどうして指貫だったのかとアストリッドに尋ねると、アストリッドは、「針は危ないです。だからケガをしないように指貫で守るのです」と答える。そして、
⑤Vous êtes mon dé à coudre
「あなたは私の指貫です」と静かに言った。
目頭が熱くなる贈り物である。
<ドラマde外国語>Astrid et Raphaëlle (5)
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