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官民連携で持続的な移動の仕組みを目指す「ふくいMaaS」。スピーディな導入と交通DXを成功させた秘訣とは

RYDE

 観光地が散在しているうえ、それらを包括的につなぐ交通網が乏しい福井県。一方で北陸新幹線の福井開業が間近に迫る中、公共交通やタクシー、自転車などをうまく組み合わせることで、あらゆる人が移動しやすい二次交通が求められていました。
そのような中、福井駅を中心とした公共交通ネットワークを形成する「第2次福井市都市交通戦略」が策定され、それを具現化したのが「ふくいMaaS」でした。
生活者視点と観光利用を両立させる二次交通のあり方を模索する中で、官民連携を実現させるポイントの一つとなったのが「RYDE PASS」のシステム。スピーディかつスムーズにMaaSを導入できた理由や道のりについて、ご担当者のお二人にお話を伺いました。

福井市都市戦略部地域交通課 主幹 屋敷 俊一氏(右)  副主幹 髙栁 和也氏(左)

観光と生活、双方の視点が求められた交通戦略

散在する観光資源。価値を高めるには、シームレスな交通網整備が不可欠

 北陸新幹線の延伸開業を目前に控える福井市。観光業のさらなる盛り上がりも期待される中、令和3年3月に福井市において「第2次福井市都市交通戦略」が策定されました。観光地が広範囲かつ、点在する福井県では、公共交通網の横連携が重要です。しかし公共交通分担率が低い(24.9%)という現状もあることから、自治体主導の二次交通施策が急がれました。
「新幹線の開通は大きなトピックスですが、この戦略でメインに据えたのは“日常の足”です。福井では通勤通学の時間を除きバスは1時間に数本あるかないか。そのため5分の距離でも車で移動するのが当たり前になっています。そして正直、その状況にあまり困っていない。でもそのままでは県外からいらした方は不便なままですよね。まずは日中に働く人のための交通手段、すなわち日常の足として活用できる公共交通を構築し、観光にも役立てようと考え、2021年度から嶺北11市町及び交通事業者における勉強会がスタートし、2022年5月にはふくいMaaS協議会が立ち上がりました。そして『ふくいMaaS』の実証実験が開始されたのが2022年10月です」
 協議会は嶺北エリアの11市町と交通事業者、そしてマスコミや銀行・商業・観光・大学関係者などから構成され、11市町を3地域に分けた部会に加え、さらにカテゴリ別に3つの部会も設けています。
「全国的に見ても、自治体だけでうまくMaaSが回っている例はありません。オール福井体制を築き、あらゆる関係者がタッグを組んでやることで持続可能なMaaSを実現したいと考えています。ふくいMaaSが見据えているのは、2~3年後の福井のあり方です。どこか1カ所、1企業だけの色がつきすぎるとバランスを欠きますので、この幅広いメンバーでなければ思うようなMaaSは実現しなかったと思います」

官民交えた幅広い連携を実現するには

各自治体、事業者の温度差をどう埋めるか。“自分事化”してもらうための“All福井体制”

 勉強会から協議会の立ち上げ、実装まで1年かからないほどスピーディに進んだ背景には地元企業・メディアの存在も大きかったそうです。
「協議会メンバーである福井新聞社、福井銀行などに地域創生チームがあり、地域通貨の導入や県民向けアプリの開発を進めていました。それが本格的に動き出したのがまさに2022年で、互いのタイミングが一致したんです。この2社は県民にとって大きな存在ですし、もしこれが交通各社と一部自治体だけの座組みだったら、これほどスピーディには話が進まなかったと思います。各地のバス会社は赤字分を市が補填していることもあり、新しい取り組みに対してはあまり積極的ではありません。でも逆に言えば、補填する自治体が『これをやってほしい』と言えば、協力してくれます」

とはいえ、自治体だけが集まっても“市”と“町”ではレベル感も予算も異なるうえ、交通網の充実度に差があり、なかなか自分事化しにくいエリアも存在します。今は、その温度差を埋めるには、ある程度リードできる存在が必要で、福井市・福井新聞社・福井銀行がその先導役となっています。
「ふくいMaaSに関しては予算を主に出しているのは福井市。だからといって福井市のやり方でやってくれ!ではなく、全市町からアイデアを募集して様々な物事を決めていきました。全員が自分事化して関わってもらうためのさじ加減、バランスは気をつけた部分ですね」
 
アイデア出しや連携をスムーズにさせる秘訣は、まめにグループでの話し合いの時間 を設けたこと。各自治体にとってのメリットを示しつつ参画をお願いする姿勢を保つように心がけたことで、自分事化しやすくなったそうです。また、協議会の特別アドバイザーとして国内MaaSの先駆者を迎える一方、メンバー内に交通政策専門の学術関係者はいないといったバランス感にも配慮したと言います。
「詳しい方がいるのは心強いですが、その反面、既知の事例に引っ張られがちというデメリットも生じます。適度に詳しい識者を迎えて新しいアイデアを創出できるよう、なるべくフラットな体制を心がけました。そういう意味では、本来ならメンバーの中にシステム会社も入れた方が良かったのでしょうが、それ以外の業者へ発注することが考えられなくなってしまうと考え、あえて入れませんでした」

スモールスタートにもぴったりなRYDEPASS

低コスト・スモールスタートしやすかったのがRYDE導入の決め手

フラットな組織体制だったからこそ、システム開発方針もほぼ真っ白な状態だったふくいMaaSは、なぜRYDEを導入したのでしょうか?
「やはり開発コストがかからない、導入のハードルの低さが決め手ではありました。初期導入費用がかからず、かかるのは手数料8%のみですからどこと比較しても格安。他のシステムなども見当しましたが、これだけ低コストで使いやすいサービスは他にありませんでした。首都圏の私鉄を目標にしていたので、当初はポータルサイトからもアプリからも購入できるような、ネイティブアプリを構築することも検討したんです。でもふくいMaaSはマネタイズすることが主目的ではありません。スモールスタートを切りながら連携づくりを主体にしていきたいという狙いがありましたし、国の補助金ももらっていませんので、最初からそこまで大がかりな取り組みにしなくて良かったと思っています。RYDEは企画チケットの使いやすさも評価が高く、福井市の持ち出しと県からの補助金だけという制限の中で、ベストチョイスだったと思います」
 
もともとの第2次福井市都市交通戦略では日常の足となる交通網整備を念頭に置いていたとは言え、観光利用も持続的なMaaSを実現する鍵であることは間違いありません。福井県の嶺北地区は3つのエリアに大別され、それぞれ地域性が豊かなのが特徴。
「既存の優待切符8種に加え、交通とそれ以外の独自性を組み合わせた新しい企画を地区部会が持ち寄りました。そのうえで検討を重ね、ご当地グルメのボルガライスの食事券がついた切符など、最終的に7種類の新企画が生まれました」
 
気になる導入成果は……。
「残念ながら、目標が高すぎた(3ヵ月で1,000枚)のか、現時点ではそれを超える売上にはなりませんでした。どこかでブーストをかけたいとは思いますが、その一方で『考える過程が大事』という思いもあるのであまり気にしていません。例えば福井まちなか満喫セットという企画チケットは協賛店で使える回数券がついているのですが、それが実現したのは市と観光協会が店舗とコミュニケーションを取ってQRコードを置いてもらったから。他の自治体などから『お店との連携は大変じゃない?』と言われるほど、お店との交渉は企画チケットの難しい点ですが、一度ネットワークを作ればその後にもつながります。例え売れ行きが悪くてもその結果をもって改善点を出せるので、初期段階では売れないことはあまり気にしない方が良いのではないでしょうか」

RYDEPASSを活用し利用者の行動をデータで可視化、持続可能なMaaSを目指す

他県連動も見据え、SNS施策も拡充

改善点を見出すためにも、データはとにかく貴重とも言います。
「正直、県内でしか売れないと思っていたんです。でも実際は関西からの利用者や20代・40代の男性利用者が多いといった新たな気付きがありました。また、お店やサービスと連携した企画チケットよりも、割引のある普通の交通切符の方が売れ行きが良かったことから、観光利用も“おトク”の方が訴求力が高いのかもしれません。今回は県の半額補助があって実現したものですが、今後の観光施策への示唆になりました」
 
2022年にスタートしたばかりではあるものの、RYDE PASSの導入によって利用者の行動データが可視化されたことで、今後の展望も少しずつ見え始めています。
「さらに広域の嶺南エリアとも連携を拡げたいですし、北陸新幹線がつなぐハブとして観光大国である金沢市ももちろん欠かせません。金沢市とは少しずつ連携し始めており、ふくいMaaSポータルサイトには、のりまっし金沢(金沢MaaS)のバナーを貼るなど、取り組めるところから連携を初めています。北陸新幹線延伸に向けて、ユーザーが迷子にならないようなアプリを提供できればという思惑もあります」
 
 前向きな姿勢を裏付けるように、引き続きSNSを中心とした広報施策も積極的に講じており、インフルエンサー施策も打っているとのこと。さらに各市町の広報誌やHPでの掲載を行うなど、認知度を上げるための取り組みもしっかり行いながら“定着したMaaS”を目指しています。
 
「RYDEはレビューも良いし、事業者とユーザー双方が本当に使いやすいアプリを作ってくださっていると思います。導入しやすさ、使いやすさ、そして簡単にデータが取れるといったメリットを享受しながら、RYDEとともに持続可能なMaaSを構築していきたいと思います」

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