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ヘイトスピーチとしての「慰安婦」問題をどうするか――杉田水脈議員の差別煽動と「主戦場」について

杉田水脈議員が5月29日に、国会でまたヘイトスピーチを行った。その発言は、それじたいが差別煽動のプロパガンダと言って良いぐらい悪質である。

非常に悪質で、看過できない。

にもかかわらず、現時点では、どのメディアも報道していない

なぜか。それは今回の杉田水脈議員の差別煽動が、日本軍「慰安婦」問題を使ったヘイトスピーチであるからだ。

たとえば、昨年の杉田議員が大きな批判を浴びた、「LGBTは生産性がない」という差別発言は、こぞってマスコミが報じた。もちろん世論の猛批判があったものの、杉田議員の十八番である「慰安婦」ヘイトがその記事では直接絡んでいなかったのだ。

杉田議員らは「慰安婦」問題を絡めさえすれば、どんなに酷い差別や暴言を吐いてもメディアは沈黙することをよく知っている。5月29日の国会でのヘイトスピーチを皮切りに、杉田議員は以前のように積極的に差別を煽動すると思われる。

何回かにわけて、その問題について書こうと思う。

さて、5月29日の杉田議員の発言にはどのような問題があるのか。多くの問題があるが、内容的に酷い2点だけ挙げておくと、

1.日本軍「慰安婦」が「性奴隷ではない」というヘイトスピーチを行っている。(これはドイツの国会で議員が「ホロコーストはジェノサイドではない」と発言するのと同レベルの悪質なヘイトスピーチであるし、しかも日本軍「慰安婦」制度が性奴隷制であるためセクシズム煽動(女性は戦争時にレイプされても仕方がないのだ)が加わるのでそれだけ悪質である)

2.「慰安婦」問題に取り組む、女たちの平和と戦争資料館(wam)と、ヒューマンライツナウ(HRN)といったNGOを実名をあげて攻撃している。

普通の民主主義国家であれば、この2点だけで議員辞職に相当するだろう。

だが、私が問題にしたいのは、杉田議員の発言の内容ではなく、そのやり方である。国会答弁を利用して、SNSで拡散し、フェイクとヘイトスピーチを社会で爆発的に拡散させるその手口である。

彼女は最初から国会で議論する気はない。杉田水脈議員にとって国会は、極右の差別煽動活動(人種差別撤廃条約第四条で違法とされている差別煽動)の道具に過ぎない。

安倍政権に日本軍「慰安婦」は「性奴隷ではない」と答弁させる
 ↓
wamやHNRなどのNGOの実名を出して誹謗し国会議事録に載せる
 ↓
無数の支援者がユーチューブやツイッター、フェイスブックなどSNSで拡散(じっさい、すでに支援者によって杉田議員の発言は全文書き起こしがサイトにアップされている。)
 ↓
社会的に差別を煽動(杉田議員の差別をコピペして、差別を拡散させたり、NGOを攻撃するなど)

これは在特会や日本第一党がヘイトスピーチ街宣をかならず動画に撮って、SNSで拡散させるのと同じである。在特会は路上をヘイト画像の撮影現場にしているのに対して、杉田議員は国会をヘイト画像の撮影現場にしているだけだ。

これが杉田議員の目的なのである。極右議員を放置すると国会が極右活動の道具と化してしまうのだ。

私が問題にしたいのは、このような差別煽動である。つまりヘイトスピーチとしての「慰安婦」問題である。つまり考えたい争点のは、①歴史的事実でも、②被害者の人権でもない。③社会的にどれだけ差別が煽動されているかという効果である。そして自由と民主主義を守るという観点からは、③のヘイトスピーチにこそ対抗できなければならないと考える。

もっとハッキリ言うと、争われている「慰安婦」問題には3つの戦場がある(下図)。そして主戦場がどこなのかといえば①歴史、②被害者の人権、ではなく、③ヘイトスピーチである(ちなみに、この問題を考える必要は以前も書いた)。

杉田議員の差別煽動に対抗するにはどうしたらよいのか。私の考えでは主戦場が③ヘイトスピーチ(極右活動)である以上、①歴史と②被害者の人権で反論するだけでは決定的に弱い(おそらくワナである)。そうではなく、杉田議員の国会での発言そのものが③差別だという観点からの強力な批判が必要なのである(杉田議員が極右活動家であり、国会発言が差別なのだからそれじたいがアウトであるという論理での対抗が必要だと考える)。

なぜなのか、もう少し書いておく。

理由は、3つの戦場の関係性にある。①歴史、②被害者の人権、③ヘイトスピーチという戦場は、バラバラに闘われているのではない。

あきらかに③ヘイトスピーチ(極右活動)が主戦場であって、極右や右派はどう考えても③の次元でどう勝利するかという観点から①歴史、②被害者の人権といういわば「サブ戦場」を闘っているに過ぎないからである。


ところがリベラルや「慰安婦」問題に取り組む人の多くには、残念ながらまだ戦場としての③「慰安婦」ヘイト問題が見えていない。みんな反論する時に、①歴史と②被害者の人権というロジックを持ち出すだけで満足してしまい、③ヘイトスピーチや極右台頭という次元で社会がどのように破壊されているかという問題が見えないのである。

じつは映画『主戦場』がヒットした理由もここにある。『主戦場』は上の構図が見えているから、あえて両論併記的な映画をつくり、極右とヘイトの醜悪さをさらけ出すことを意識的にやってのけたからだ。

またじつは映画『主戦場』のリベラル派の評価が、一方では非常に高く、他方では非常に低い理由もここにある。リベラル派は③ヘイトスピーチという戦場がみえず、戦場は①歴史と②被害者の人権しか見えない。そのため一方では右派のトンデモ発言のボロを明らかにしている映画を高く評価する(①歴史的事実では圧倒的にリベラルが正しい!)。他方では日本軍性奴隷制の説明や被害者の人権侵害の深刻さや、人権擁護運動の歴史を伝える映画としては『主戦場』は大変不十分な映画なので、当然評価は低くなる(たとえば②被害者の人権からすれば朴裕河の言い分をそのまま載せるのは問題だ)。

以後、③ヘイトスピーチとしての「慰安婦」問題という戦場こそが主戦場になっており、この戦場での応戦の仕方は、①歴史、②被害者の人権という「サブ戦場」とは全く異なること、したがって全く新しい対抗戦略が必要であることについて書いていきたい。

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反レイシズム情報センター(ARIC)代表。一橋大言語社会研究科でレイシズムを研究。11月新刊『レイシズムとは何か』ちくま新書 https://hanmoto.com/bd/isbn/9784480073532 ツイッターhttps://twitter.com/rysyrys

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コメント (1)
これは仰せの通りかと。「彼ら」は史実かどうか、誰が傷つくのか、なんてどうでもいいわけで、ひたすら自分たちの「憎悪の共同体」の維持(ないし拡張)に熱中しているだけなのですから。
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