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新しい経済メディアを一緒に立ち上げます。

ハフポスト日本版の編集長を先日退任しました。5年間つとめていました。「次、何をするのですか?」という問い合わせを多く頂きました。大変恐縮しています。隠すのもいやなので、今回のnoteで、簡単に報告させてください。

2021年のうちに、新しい経済メディアを仲間と一緒に立ち上げます。NewsPicksの編集長だった佐々木紀彦さんと組みます。

さらに、ビジネス書のライター兼編集者として、子育てと向き合う働き手たちや、起業家たちの言葉を世に送り続けてきた、宮本恵理子さんも関わります。佐々木さんが、今後もメンバーを募集していくそうなので、ご本人のnoteをご覧ください。

現代を生きる私たちの心に響く、経済やビジネスのコンテンツを発信します。当面は動画やテキスト記事が中心になります。

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10年前の「小倉城」近くの話から振り返ります

佐々木さんと初めて出会ったのは、およそ10年前の2012年1月13日の午後1時、北九州市小倉北区の「小倉城」近くのスターバックスでしたーー。なぜ覚えているかというと、私は年に1、2回あるような、印象的な出会いはメモに取っているからです。

当時、佐々木さんは週刊東洋経済の紙の雑誌の記者。私は九州の朝日新聞の経済記者でした。本の感想を私が手紙に書いて送ったところ、東京から会いに来てくれました。仕事の合間の昼休み。スターバックスラテを2杯、飲んだ気がします。

その後、佐々木さんは東洋経済オンラインやNewsPicksへ行き、私は朝日を辞めて、ハフポストへ。

お互い考えが異なる点もあります。ただ、どんな時も佐々木さんは「どうしてそう思うのですか?」と聞くタイプです。起業の現場で、良い意味で価値観をぶつけ合いながら、やっていきたいと思っています。

新メディアの詳細は今後、お伝えします。ここで報告を終えますが、私が佐々木さんと一緒に「経済」のメディアを立ち上げたい理由を3点だけ説明させてください。

その1: 経済はストーリーや価値観で動いている

まず、経済はかつてないほどストーリーや価値観で動いていると思うからです。2013年のノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授が「ナラティブ経済」と呼ぶように、私たちが語る様々な「物語」によって、実体経済は動きます。

シラー教授が例に挙げるのは、ビットコイン。「サトシ・ナカモト」という日本風の謎の人物の論文が始まりとされ、権力から独立した「新しい通貨」というイメージがあります。誰かと「会話」をしたくなるようなミステリータッチの物語であるのは間違いありません。

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人から人へと話が広まる。どんどん注目が集まり、投資をする人が生まれる。新しい技術を試したい、何かに挑戦したい、と人を動かすのが物語の力です。気づいたら、本当に経済的なインパクトを持つようになっている。シラー教授の議論やビットコイン自体には批判もありますが、物語が経済を動かす、という視点には一定のリアリティがあります。

Twitter、TikTok、Instagramが身近な世代は毎日のように“自分の物語”をアップしています。彼女ら彼らにとっては、ますますそうなっていくのではないでしょうか。

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これからの企業は、自分たちの会社の存在理由を投資家や消費者にストーリーとして伝えないといけません。

あるいは、中国と対峙するとき、新疆ウイグル自治区の問題は避けて通れず、「人権」と向き合うのが原則となりました。

根本的な概念、価値観、ストーリー、そして倫理がビジネスにおいて大事な時代に、ユーザーの「心」に訴えかけるメディアが果たせる役割は大きいと思います。

その2: 企業が「SDGs的な社会課題の解決」のプレーヤー

次にSDGsです。ジェンダー、環境問題、人権問題などの社会課題の解決は、かつては市民団体、国連、NGO、NPOなどが担うというイメージがありました。

2015年の国連のSDGsの採択以降、企業も主要プレーヤーになり、多くの日本企業もSDGsビジネスに乗り出しています。「きれいごと」ではなく、ESG投資やコーポレート・ガバナンス、従業員の多様性の重視などビジネスのルールに組み込まれつつあります。

一方、SDGsを掲げながら、何もしない「SDGsウォッシュ企業」や、資本主義を疑う有力な議論も出てきています。こうした点に対しても、企業は真摯に向き合わないといけない時代です。

メディアには、(1)報道 (2)分析(論評) (3)記録 の3つの機能があると私は思いますが、(4)結びつけるという「第4の機能」が今後は大事になってくると考えます。これからのメディアが、企業、消費者、政府、投資家、起業家、弁護士など専門家ら「ステークホールダー」が集う場になり、世界的な問題の解決に少しでも貢献したいです。

その3: メディア業界に新たな「雇用」を生む

3つ目は「雇用の場」の創出です。私が編集長をつとめていたハフポスト日本版には、才能あふれる人が集まっています。新しい編集長の泉谷由梨子さんは新聞記者、国際NGO職員を経て入社。「男性版産休」の創設と「男性育休の周知義務」を企業に求める法改正の取材に力を入れていました。

SDGs番組の「ハフライブ」を立ち上げ、それだけでなく、出演者のジェンダーバランスを「50対50」にするプロジェクトをイギリスのBBCと連携しながら進める南麻理江さんは広告業界の出身です。

2人とも新しいメディアの現場にパッと飛び込みました。他にも放送局、物流会社、IT企業、新聞社、雑誌社、動画制作会社、商社系のネットワーク会社など狭い意味でのメディア業界にとらわれない優秀なメンバーがたくさんいます。

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2021年5月に合併して誕生したBuzzFeedJapan全社は、あわせて150人のメンバーがいます。こちらは「ザ・ハフィントンポスト・ジャパン」あるいは「BuzzFeedJapan」という会社が日本に存在していなかったら、生まれていなかった雇用です。私自身も5年前に新聞社を辞めていなかった。

新しい会社が誕生すると、個人の新しい決断が生まれるのです。

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佐々木さんはnoteで、「クリエーター・ドリーム」と表現しています。新しい会社が生まれれば生まれるほど、雇用の場が創出されます。

新聞社のリストラをはじめ、メディアをめぐる話題は暗いものが多い。一方、ユーザーが、コンテンツに触れる時間は長くなっている。クリエーター、編集者、動画制作者、記者、イラストレーター、SNSアナリストも増えています。経理や法務などメディアのコーポレート部門で働きたい、と言ってくれる人もいます。伝統メディアやデジタルメディアに関係なく、人材が出たり入ったりすることで、メディアが産業として次のステージにいきます。

新しいメディアが生まれて「雇用」があるからこそ、「自分もメディアに入りたい」という「希望」が次世代に生まれます。雇用は希望を生み、希望が物語になり、それが経済を動かします。

スターバックスで滅多に「お代わり」をしない私が、10年前にラテを2杯も飲んだのは、佐々木さんの物語が面白かったからでした。それは10年たっても色あせず、10年後も恐らく私の心の中に存在し続け、ラテと違って良いのは、たくさんの人に分け与えても、ちっともなくならないということです。

私は、小中学生の頃、アメリカに住んでいて、人種に対する偏見を問うエッセーを地元紙に投稿したことがあります。その後、日本に戻って伝統メディアの朝日新聞に入り、外資系メディアのハフポストへ行きました。今年夏から、次の道はメディアのスタートアップです。こちらもまた、私の物語。どうぞ、これからもよろしくお願いします。

photos and illustrations are from:  https://jp.freepik.com/home




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