SNS脳から「SDGs脳」へ
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SNS脳から「SDGs脳」へ

SDGsが注目されています。私は朝日新聞記者として、その後は、ハフポスト日本版の編集長として多くの企業や役所を取材してきて、特にここ10年間のSDGs 的な変化を感じていました。

ハフポストの編集長は辞めて、いまはPIVOTという会社の創業メンバーです。チーフSDGsエディターという役職を自分で考え、ゼロからの会社づくりとともに、コンテンツを準備中です。

SDGsとは何か。

一言でいえば、2020年代を生きる私たちビジネスパーソンにとっての「考え方の革命」です。

2010年代に広まったSNS文化の ‘’マイナス面‘’ を払拭するパワーがあります。

SNSからSDGsへ。

 むりくりな語呂合わせみたいで恐縮ですが、この変化を深掘りするため、私は本日、『SDGsがひらくビジネス新時代』(ちくま新書)という本を出版しました(トップの画像は表紙=アプリ「漫画カメラ」で加工)。

2020年代の価値観

SDGsの17の目標を個別に解説した記事はたくさんありますし、ESG投資の素晴らしい本はすでに多く出ています。

こうした専門家の方とは、異なるタイプの本を私は書いてみたいと思いました。

ひょうしのコピー

TwitterなどSNSの良いところも悪いところも出尽くした2010年代を経たあとの、2020年代の日本のビジネスの現場において、これまでと違う世界観というか、「SDGs的な価値観」を感じ取るようになったからです。

それには、3つの特徴あります。

特徴①:矛盾を受け入れる

1つ目は、矛盾を受け入れるということ。

SDGsは国連で制定され、17の目標があります。貧困、ジェンダー、環境問題、教育格差など多くの社会課題を解決するためのものです。

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(ロゴは国連広報センターより)

目標が17もあれば、矛盾も生まれます。

たとえば、プラスチックのストローは、目標14の「海の豊かさを守ろう」に関わります。

なぜなら、ストローは他の多くのプラスチック製品とともに、捨てられて海のごみになれば、環境を破壊するからです。2050年には海洋の魚の重量よりもプラスチックのほうが多くなるという試算もあります。スターバックスは、紙ストローへの切り替えを急いでいます。スーパーでも紙ストローを見かけるようになりました。

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とはいえ、紙の製造過程においても、環境負荷はゼロはないですし、極端な話、もしプラスチックのストローをつくる人たちの仕事が減れば、SDGs目標8の「働きがいも 経済成長も」の達成と矛盾します。あっちを立てれば、こっちが立たず。それがSDGs。

そうした「矛盾」を解決するため、草ストローブランドの会社「HAYAMI」という会社をつくった大学生がいます。この会社が成長して雇用も生まれれば、先ほど矛盾していた「目標14 海の豊かさを守ろう」と「目標8 働きがいも経済成長も」が同時に達成できます。

HAYAMIを起業した、東京農業大3年生の大久保夏斗さんに聞くと、次のように話してくれました。

「社会課題の解決のためにはボランティアだけでは難しい。企業がビジネスとして取り組み、ビジネスも持続可能にしていくことが大切だと思います」

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(写真は相模原市サイトより。HAYAMIのサイトはこちら。起業の理念が書いてあります)

TwitterなどのSNS空間では、ユーザーがお互いの矛盾をよく指摘し合っています。

「りんごが好き」とツイートしたら、「1年前はオレンジが好きだって投稿したじゃないか」と言われ、「メロンのことを知らないのか」とも指摘される。

怖いから全部まとめて「ミックスフルーツジュースが好きです」と言おうとしたら、「だったら、野菜は…」(以下略)。

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Photo by Louis Hansel on Unsplash

矛盾があるからこそ新しいアイデアが生まれるはず。考え方がピボット(方向転換)することだってある。ジレンマの受け入れ→アイデア出し→イノベーションはビジネスが得意とする領域です。

特徴②:個人からチームへ

2つ目は個人からチームへ。

SDGsの話をすると、「では、個人として何をやれば良いのですか?」とよく聞かれます。

私も悩んでいます。

エアコンをこまめに消したり、レジ袋ではなくマイバッグを使ったり、食品ロスを減らすため朝の子どものお弁当づくりを工夫したり、イケアで大豆ミートボールを食べたり、SNSのハッシュタグのキャンペーンに参加したり、たくさんあるのですが、「個人ががんばろう!」という言葉には、巧妙なトリックがあるようにも見えます。

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本来は産業界全体が、再生可能エネルギーをいっきに推し進めるような、企業の構造的な転換がSDGs時代において求められているのに、環境問題の責任を「個人」に押しつける効果がこの言葉にはあります。

「個人が変われば環境問題が解決する!」も大事ですが、同じく「企業も変わる」「政治が変わる」が肝要です。EUなど海外の選挙では、気候危機が争点となっていますし、自民党の総裁選でもこれから議論が深まるかもしれない。

SNSは「個人の力で社会は変わる」ふうな言葉を広めすぎました。それによって、企業や政治など「個人の集まり=チーム」が変わるためのノウハウが2010年代に十分に蓄積されなかったと思います。

ただ、SNSは連帯も生みます。個人がつながるネットの良さには希望を持ちたいし、今の日本社会でチームといえば「会社」だと思います。フリーランスの方も含めてさまざまな人が集まる「会社の中」の変化については、私の本でも、結構書きました。

個人のアクションも大事です。一方で、職場の来客用の「お茶のペットボトル」をどうするか、SDGs的な企業に取引先を変えるべきか、自分の部署の働き方や昇進のシステムを改善するべきか、再生可能エネルギーは巨大なビジネスチャンスではないか、「チーム」で考えることも、大切ではないでしょうか。

特徴③:視点を未来に固定する

3つ目は、仕事の視点を「未来」に固定する、ということです。

SDGs的な思考には「バックキャスティング」が大事だ、と言われます(参考図書 蟹江憲史『SDGs』中公新書)。

現在のビジネスの延長線上に考えるのではなく、SDGs達成目標年である、9年後の2030年の未来をまずは描き、その実現を前提として、アクションを起こす。未来から考えるタイプの思考法です。

これは結構な革命です。

日本は「現在=イマココ」にとらわれやすい。「現時点では●●だ」「現在の状況を考えると、出来ることは●●だ」というふうに現実的に考えます。

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Photo by Behnam Norouzi on Unsplash

これだと、過去のビジネスの積み重ねだったり、社長が退任する3年後ぐらいのことしか考えられなくなったりします。

「保険」として、わざと目標を低めに設定する現象も見られます。揚げ足取りが怖いから。

目標はさまざまな事情で未達の場合もあり得ます。それでも2030年には、ジェンダー平等が実現し、エネルギーがクリーンになり、気候危機をストップさせ、貧困や教育の問題が解決されるべきだという強い未来のビジョンをもとに行動することが大切です。

SNS的なカルチャーの良さは、瞬間風速的なバズにあるのではなく、誰でもビジョンを言いやすくなったことにある。

テンションが高い日のTwitterやFacebookの投稿に、思わぬ人からのリアクションがあって驚いた経験は誰にでもあるはずです。Twitter慣れした私たちは、仕事上のSlackもそんなノリで書き込んでいます。

たとえ完璧ではなくても、まずは2030年までにこれをやる、という企業社会のコンセンサスが必要なのです。そうすれば、政治家の意識も追いついてきて、政策やシステム変更へとつながります。環境対策を進めるEUと向き合うための、日本外交のパワーの源泉にもなる。

今回の『SDGsがひらくビジネス新時代』(ちくま新書)は、普段のビジネス系の記事を書くためのマインドセットを一度取っ払い、ちょっと変わった感じのSDGs本にしました。良ければ手に取ってもらえるとうれしいです。これからもこのnoteでSDGsおすすめ本や、本で書ききれなかったことを書いていきます。







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2002年朝日新聞社記者、2016年退社。2014年〜2015年スタンフォード大学客員研究員。 2016年5月〜2021年6月ハフポスト編集長。2021年7月末にハフポスト退任。PIVOT創業メンバーに。新しい経済コンテンツサービスを2021年度中にローンチします。