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スカッシュと私と留学生活 中学編

私は中学からスカッシュという日本ではかなりマイナーな部類に入るスポーツをしている。私がスカッシュを始めたのはボストンの中学校で取り組んだ放課後のアクティビティ活動がきっかけである。

※今回はスカッシュという競技についての説明は省く。スカッシュ自体に興味があれば、是非Youtubeなどで実際の試合映像などを見てもらえたらと思う。


スカッシュとの出会い

ハーバード大学 スカッシュコート

私はボストンの郊外にある男子中学に13歳から留学した。留学の話しを父から受けてから、2週間ほどのスピード感で私はこの学校のサマーキャンプへ行っていた。サマーキャンプ後、私はこの中学に転入することになり3年間を過ごした。私のスカッシュとの出会いはこの中学で始まった。

私が在学した中学は、プレップスクール、ジュニアボーディングスクールという様な括りで呼ばれる、謂わば私立高等教育機関への入学を助ける準備校、日本でいうところの進学校の様な場所であった。

この学校には多くのローカルな生徒(主にアメリカ東海岸の富裕層)や世界中から様々な(豊かな)バックグラウンドをもった生徒が集まっている。
この中学で受講できるカリキュラムの内容も多様ではあったが、放課後のクラブ活動もまた、多様であった。

選択可能な運動の種目だけでも年間を通じて30種目はあっただろうか。
「年間を通じて」というのは、この学校では季節毎に一つのクラブ活動に参加するシステムが採用されている。この学校に限らず、他の多くのボーディングスクール、ジュニアボーディングスクールがその様な形式を採用している。

先ず、夏は夏休みで学校が3ヶ月休みだ。故にクラブ活動もなければ学校もない。秋に学年始が訪れ、1つ目のアクティビティを選ぶ。秋のオプションは、外で取り組むフットボール、サッカー、クロスカントリーなどが主流だ。

次に冬が始まるとアイスホッケー、レスリング、スカッシュ、バスケットボール、スキーなど、室内で取り組む競技、雪や低い気温を活かした競技の選択が推奨される。

春には野球、陸上競技、ラクロス、テニスなど、また秋とは異なった屋外スポーツに触れられる。

このようにアメリカのボーディングスクール(ジュニアボーディングスクール)におけるクラブ活動のあり方は日本の部活動ように一つの部活を年間を通じて取り組むシステムとは異なっている。

冬とスカッシュ

私は留学前、日本でサッカー部に所属しており、体力にはそれなりの自信があった。アメリカでの3年間を通じて私は様々なスポーツに取り組んだ。サッカー、陸上競技、水泳、野球、クルー、アイスホッケー、スキー、アルペンスキー、そしてちょこっとゴルフ。

最高学年になる私は秋にサッカー、春には陸上競技で中距離走を選ぶことを見越していた。しかし冬のスポーツは最後の最後まで決めかねる結果となった。

ボストンの冬は寒い。氷点下15度など日常であった。
そのため私は運動のために室外に出たりするのは億劫になっていた。

当時の私には冬は運動を避けて図書館にこもる選択肢があった。運動などに目もくれない学業一筋(チー)なアジア系の学生と自主的な課題に取り組んだり、当時流行りのパソコンゲーム「リーグオブレジェンド」などで遊んだりして冬をやり過ごせればと考えていた。

毎シーズンのアクティビティ活動では運動以外の選択肢が多少はある。
故に冬に図書館でまったり不毛な時間を過ごすのも生物的には魅力的な選択肢ではあるものの、人間的な尊厳と、運動能力低下の心配が常に頭を離れる事がなかった。
また、冬の後は直ぐ春学期が始まり陸上競技の中距離走に備えたフィジカルの適応も欠かせないと考えていた。

とは言ったものの、冬の競技はどれも私には難しいものばかりであった。

当時の冬の選択肢で特にメジャーとされていた競技は、レスリング、アイスホッケー、スキー、バスケットボール、スカッシュであった。
そして私が最終的にスカッシュを選んだのは、ほぼ消去法と言って良い様な、決して高いとは言えないモチベーションから始まった。

以下消去法のプロセス。
(レスリングはあのタイトな格好をするのに気難しくなる部分があった。一応日本でレスリングを体験した事があるのだが、あれは体も疲れることながら、何より目が回って頭が痛くなるのだ。断念。
アイスホッケーは色々な高度な技術の掛け合わせで成立するスポーツで、スケートが少し滑れる程度の素人が参入して、良い思い出になるような競技ではなかった。なにせ、ここのアイスホッケーチームはニューイングランドエリアで負けなしと言うほど熟成したプログラムだったので私は4軍の補欠のような、練習もままならないような時間の過ごし方をすることは目に見えてもいた。アイスホッケーでは時速60キロのスピードで壁、相手、氷とハードコンタクトがある。ポキポキと爪楊枝のよう折れる友人達の骨を見てきて私は始める前からこの世界に飛び込む勇気が沸かなかった。
スキーは放課後という点が私を強く悩ませた。放課後から学校が所有するスキー場へ車で往復3時間かけて移動し、1時間半滑る。片付けや物品管理を考えるとただの苦行だった。スキーは週末や休暇に数日かけて、朝からスモークサーモン、オニオン、クリームチーズにベーグルをホットチョコレートでも飲みながら、ゆったり滑るのが楽しいのだ。そんな忙しないスキーをやるほど私はスキーが好きでもなければ、スキー帰りの片付け、湿った車内での移動は私の腰を重くした。
バスケットボールはできたらやりたかった。トップリーグで華麗なプレーで友人や友人のおばあちゃん達を魅了できればどれほどクールだろうか。しかし、実際に高いレベルでプレーするには私はあまりに小さすぎた。中学なのに190cm以上がゴロゴロ(200cmも数人いたと思う)レベルが上がればハードなフィジカルコンタクトも多いし、本場のアメリカンバスケットボールはバスケットボール自体未経験のちっこい日本人にとって戦場以外の何でもなかった。)


結局私はフィジカルコンタクトが少なく体力維持に最も現実的なスカッシュに取り組む事となった。
スカッシュを選ぶ理由は他にもあった。

幸いな事にスカッシュ自体の体験は以前にも何度かあった。週末に時々、友人に連れられて体験したことを覚えていたし、クラブ活動として本格的にこの競技を始めることに大きな抵抗はなかった。

また、スカッシュコートは冬でも室内で暖かい。ラケットでボールを壁に打ち返すのは楽しいものだったし、キャンパスからコートへの移動時間も10分から15分と苦にならなかった。

当時の私は体力だけはあったので2時間ボールをひたすら追い続ける作業に難しさは感じなかったし、何より難なく継続できたから微々たるものではあったものの上達の実感も確かにあった。

当時の私は、正しいラケットのグリップの持ち方もわかっていなかったが、ただボールを打って追いかける事に楽しさを見出していた。





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