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" 発生事実(不祥事) " が発生しない上場会社の内部監査 Part. 05 - 内部監査の子会社監査 -

 先般「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.05 - 内部監査の専門性が重要 -」の記事で、内部監査の専門性がいかに重要であるかを説明しました。ここでは、熟達した専門的能力を有し、専門職として正当な注意を払うべきと2023J-SOX改訂版(2023改訂版「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会・金融庁))で明示されています。
 この「内部監査の専門性が重要」であることについて、まさに証明してしまった具体事例が最近TDNET(適時開示情報閲覧サービス)に開示されましたのでご紹介します。



直近事例から - 概要説明 -

【概要】
 某連結子会社の会社規模拡大に伴い、上場親会社管理部門が当該連結子会社に対し納品実態調査、仕掛品残高調査等を実施したところ、不明瞭な取引が確認され、その後不正疑惑行為(以下「当該不正行為」という)として発覚した事案。
 当該上場親会社がさらに調査を実施したところ、当該連結子会社の取締役(発覚直後の臨時株主総会にて解任)による当該不正行為を発見。当該上場親会社はこの状況を重く受け止め、改めて外部の専門知識を有する者から構成される特別調査委員会を設置し調査を行うこととした。

【事案内容】
 当該委員会は、当該元取締役による当該不正行為として、契約書等及び請求書の偽装による出金をその不正行為と認定した。また調査の経過において不正出金先(支払先)を調査したところ、その支払先会社の存在等は確認できたものの、請求書記載の支払先口座は当該支払先会社の口座ではなく当該元取締役が協力者と協力して不正出金受取先口座として準備したものだった。なお当該協力者は当該支払先会社の代表取締役と推測されている。これ以外にも当該元取締役による当該不正行為の偽装内容(不正出金の流れ)が解明され、調査報告書にて開示されている。

【調査結果】
 当該委員会は当該事案の調査の結果として、25件 計1億7千万円強の不正出金があったものと認定した。

出典:TDNETに掲載の某社リリースより要約



なぜ内部監査が検出できなかったのか?

 今回の事案は、連結子会社において不正行為が行われていた事例です。事案内容は以上のとおりなのですが、この不正行為を発見したのは親会社(上場会社)の内部監査ではなく管理部門でした。

 ここで疑問が出てきます。

 それは「なぜ内部監査が当該事案を検出できなかったのか?」です。これを細かく分けてみますと、

  • 子会社監査体制はどのようなかたちなのか?

  • 子会社監査の監査テーマはどのようなものを挙げているのか?

  • 子会社監査の対象としている子会社に漏れはないか?

 上の3点は基本的なテーマとなります。この他にも数多く項目を挙げている内部監査の皆さんがいらっしゃると思います。とても素晴らしいです。たくさん挙げられたら、その数だけ「会社のすべての業務が正しく遂行されていることを証明すること」ができるのです。ぜひ監査の実務に活かしてください。

 今回の具体例を見て、強い衝撃を受けました。リリースに記載されているとおり「上場親会社管理部門が当該連結子会社に対し納品実態調査、仕掛品残高調査等を実施」した結果、発見された事案です。その調査ですが「某連結子会社の会社規模拡大に伴い内部統制の重要性が増した」ことにより調査を実施したとあります。これは直前に連結子会社間3社の吸収合併があり、これに伴い内部統制の評価範囲の選定でその対象となったこと、およびその評価対象として最も大きい会社となったことが発端になったのではないかと推察します。なお当該上場親会社のグループ規模は、海外子会社を含む40社強等となっています。


 さて、ここでさきほどの疑問「なぜ内部監査が当該事案を検出できなかったのか?」に対する回答として考えられることは、

  1. 連結会社数に対して内部監査の人員が僅少であった(当該上場親会社に内部監査担当1名。子会社在籍の内部監査人員は不明。)

  2. 子会社監査を監査テーマに挙げていなかった、または吸収合併直後なのでいわゆる整備状況のみを監査テーマに挙げるなど、子会社監査に関する認識が甘かった。

  3. 子会社監査を実施する際に関係部門との連携を怠っていた。


 このような回答になるものと考えます。実際に当該委員会の調査報告の結論には、

  • 内部監査の充実 〜前段省略〜それぞれのビジネスモデルに見合ったリスクの識別と内部監査の実施を行うよう体制の充実を図るべきである。

  • 親子会社間の管理責任の明確化 〜前段省略〜、グループ全体の管理体制を明確化し、それが実態と整合しているのかを点検することが必要である。

 これらを「再発防止策の提言」として結論づけています。

 ここで、当該委員会が結論づけた再発防止策の提言に加え、私が子会社監査を担当する場合には特に注意する点がありますので、これをご紹介します。



子会社監査で注意する点

【その1・連結決算修正前の財務諸表を確認する】

 これは子会社監査に精通している内部監査の皆さんは、すでにご存知かと思います。子会社監査において、監査テーマを検討する際や実査する際は、必ず「連結決算修正前の財務諸表」を入手します。これに基づいて監査テーマを検討し、被監査対象子会社への証憑提出依頼やヒアリングの際の質問内容等はこの「連結決算修正前の財務諸表」の数値を用いて行うようにすることです。

 なぜ「連結決算修正前の財務諸表」なのか? それは、連結決算修正が行われることによって、親会社・子会社間、子会社・子会社間の取引は内部取引/内部利益の相殺処理が行われ、連結決算修正後は内部取引/内部利益が見えなくなってしまうからです。そのため、今回の事案のように、子会社において不正行為が行われていたとしても、その不正行為の流れが親会社との取引の流れで行われていた場合は、連結決算修正後はその流れを表面的に見えにくくなってしまうのです。そのため証憑による書面監査の際にこの連結決算修正前の財務諸表と証憑を照合し、他の取引先と同様に契約から請求・入金までを確認し、そして親子会社間の売掛・買掛金消込の振替計上までの一気通貫を確認する必要があります。(*連結会社間では相殺勘定して実際の支払・入金が無い場合が多いです。)
 そのためにも連結決算修正前の財務諸表は、必ず入手して確認してください。


【その2・子会社は全社対象・商流ごとにグループ分けして監査する】

 これもすでにご存知でしょう。しかし実際にはどうでしょうか?
 今回の当該上場親会社のグループ規模は海外子会社を含む40社強等とあり、これに対して内部監査の人員は1名とあります。これですと内部監査担当は他の業務(例:内部統制評価監査など)を考慮して、毎月5〜6社の子会社監査を実施しなければならない計算になります。これは物理的に難しい業務量になります。また多くの上場会社では、子会社監査を各社2〜3年に1回実査するケースもあるかと思います。悪くはない方法と思います。

 しかし、その年ごとに実施する子会社監査の件数を考えるときに、監査対象となる子会社を単純に割り算して分けるのではなく、商流(ビジネススキーム)ごとにグループ分けして商流ごとにまとめて監査を行なっているでしょうか。会社のすべての業務を把握し、熟知したうえで監査することは、「内部監査の専門性」の要素の一つです。この要素が欠けてしまうと、今回の事案のような不正行為は発見(検出)することは難しいでしょう。

 今回の事案では当該委員会は調査報告書の「当該不正行為が行われた背景」として、当該元取締役が管掌していた事業の「ビジネススキームの特異性」を挙げていますが、内部監査は先のとおり監査対象と監査テーマを検討する際に商流ごとに分けてこれについて検討していれば、いくら特異性があったとしても不正行為は見つけられます。それに、特異性があればなおさら不正行為の発生リスクがあると見当がつけられるからです。そのため監査するにあたってはその監査対象や項目を十分に検討し、監査準備を行なったうえで監査に臨む必要があります。


 上の注意する点2点は、内部監査の皆さんならすぐに気付く/思いつく点です。しかしこれらを踏まえていざ自分の会社を監査するときに、つい見逃してしまう点でもあります。そのようなことが無いようにつぎの点に注意したいところです。

  • 業務監査と会計(関連)監査を別々のものとして捉えず、業務監査には会計関連知識と業務経験等の要素を十分に考慮するなどして、これらを踏まえて内部監査の専門性をフルに発揮しましょう。

  • 入手する証憑の意図を深く考えましょう。(例:子会社の経理/会計の実態を見る際は連結決算修正前の財務諸表を入手する、など)

 ただし誤解しないください。内部監査の目的は、会社のすべての業務が正しく遂行されていることを証明すること(保証・アシュアランス業務)です。不正行為探しではありません。不正行為を探そうとしても簡単に見つけられるものではありません。逆に、すべての業務が正しく遂行されている前提で全業務を監査するとき、必ず特殊な事情等による例外的な業務遂行や今回のような不正行為が浮かび上がってきます。

 もし例外的な業務遂行を見つけたならば、そこにはその特殊な事情の内容が説明されているはずですし、必ず稟議等による社内決裁によって会社が承認しています。その社内決裁での証憑を十分に確認するのです。かたや不正行為にはその事情等の説明は不自然なもの、またはその説明が無いケースが多いです。そのため不正行為はすぐに浮かび上がり、検出/発見しやすいのです。わざわざ探しにいく必要はありません。

 このように今回の事案は、内部監査による業務監査で上のような注意点に留意して監査手法を工夫していただけたら、容易に検出可能なものだったと考えます。


 今回の事案で、せめてもの救いはこの不正行為を管理部門(2線)が発見したことです。2線でも3線でも「不正行為を必ず暴くことができる」ことを証明してくれました。心強いかぎりです。
(*2線、3線についてはIIA(The Institute of Internal Auditors:内部監査人協会)が2020年7月20日に発表した " The IIA’s Three Lines Model " を参照してください)

 このような事例も、内部監査の皆さんの知識としてだけでなく、専門性の学びと擬似的な業務経験として習得していただけたら、大きな力になるでしょう。



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