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ハザード


大人になるに連れて、現実を知るようになり中々疎遠になってしまう憧れという事象。

僕は幼い頃にあるひとつの"ボタン"に憧れを抱いていた。

小学生の頃、好きな映画があった。

ジェームス・ボンドという英国秘密情報部のエージェントが主人公のあの007シリーズだ。

ストーリーとかは一切覚えてないのだが、この映画には僕の憧れがあった。


ボンドカーだ。


その車はミサイルが飛び出たり、機関銃が装備されてたり、水陸両用バージョンであれば魚雷も発射される優れものだ。

戦隊モノや仮面ライダー好きの僕からすれば、憧れでしか無かった。

あの車に心打たれながら、その戦闘シーン見たさに、欧米美人とボンドのキスシーンをもじもじしながら観ていた。

小学生の時分からすると

「So cool」

だった。

そんな憧れを抱きながら、実家のムーブに乗った時だ。

僕は気づいてしまった。

今にも押したらミサイルが飛び出そうな色と、危険ですよというのがひしひしと伝わってくるボタンがなんと、うちの車にも備え付けられていたのだ。

そう、"ハザード"だ。

その存在に気づいた時、興奮が収まらなかった。

でも、実際にこれを押したら前を走る車や、街がとんでもないことになってしまうので、運転する父ちゃんには中々「これ押したい」とは言えない日々が続いていた。

しかしある日、1度生で見てみたい気持ちが勝ってしまい「練馬区の皆様、街を破壊したらごめんなさい」と思いつつ、ついに勇気をだして決断。


「このボタン押していい?」

「いいよ」

「カッチカッチカッチッ」

ミサイルが飛ぶまでのカウントダウンが鳴った。

「カッチカッチカッチッ」

いつ発射されるんだろう。

「カッチカッチッ」

ん?

「カッチカッチカッチッ」

いつまで経っても発射される気配がない。

あたり前だ。

憧れと現実は違い、ウチの車のその危険度MAXプンプンなボタンは結果的に両サイドのランプが同時に点灯するだけのかっこ悪い機能だったのだ。

僕は心から悲しくなった。

なんか大人に嘘つかれた気分になった。

裏切られた。(誰もなんも悪くないのに)


憧れと現実。

それは子供の純粋無垢な心を壊してしまいかねない。

ただひとつ、もしお金持ちになれてスポーツカーを将来買うとしたらアストンマーチンという想いだけ残った。

ジェームス・ボンドへ。

今度ボンドカー乗らせてね。

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