ルサンチman

へんしーん。 六畳間からシュッシュッとお届けしまーす。

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ペトリコール

「それ、“ベイカーベイカーパラドクス”っていうらしいよ」  改札を抜けてすぐ、逆さまに落ちていくような裸体のモニュメントの周りでは、待ち合わせをする人でごった返している。 「服の選択ミスったかもなぁ…」  蒸し暑さにやられ、シャツの中へ風を送り込みながらスマホを取り出す。聞こえてきたそのワードを検索すると、手持ちぶさたな午後の2時は終わり、3時が来る。  音と共に震えるスマホの画面に目をやる。“ 右 ”とだけの通知が来る。スマホから視線を“ 右 ”へ、ビルの反射に大きく

    • 不幸のすゝめ

      「私の世界は、私を軸にして廻ってはいなかったのよ」 いつから勘違いしていたんだ? 否、いつからか気づいていたのだろう そうだ、気づいていないふりを続けるのは もうよそうじゃないか 見て見ぬふりをしていた私を殺そう これは突き立てられた私へのニヒリズム。 半夏生の葉が白く染まる それは取り繕った化粧を施すかのように 表だけをみてくれ、と言わんばかりに 真昼の月は、只々白くその素顔を晒す まるで裏なんてないのよ、と諭すように それなら私は? 半夏生のように、それとも月? 私も

      • 師走

        終電の人も疎らな駅から改札を抜けると 慣れ親しんだ街並みも冷たい空気に覆われ 知らん顔したかのような表情を僕に向ける マスクをつけたまま、眼鏡をかけると 自分の呼気で曇る視界 街灯は綿毛のように、はたまた アメーバのようにも見える このレンズ越しの世界でも この道は歩きなれた道 迷うことはない さあ 歩けよ 歩け しっかりと踏みしめろ 二本の 足で その足で いつか繋がる この道を 走れ、走れ 研ぎ澄まされた五感とCONVERSEのソールの薄さが 普段よりも余計に地

        • メーデー

          久しぶりに酒をのんだら 虚しさの臨界を越えた 酩酊 酩酊  先日僕はサングラス越しに 叔父がおちていくのをみた 彼は、生まれ育ったこの街に閉じこめられていた。 いつのことだったろう3年、いやもう少し前だろうか 夏の終わり、立て続けに台風にみまわれ ぐしゃりと倒れていた皇帝ダリアが花を咲かした11月のこと 「死んでなかった、もう駄目だと思ってたんだけど、今年も咲いたね」 縁側から庭を眺め、何気なしに僕がそうつぶやくと、叔父が 「死んでないから生きてるんだよ」 と

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        • 9番線ホーム
          0本
        • 四畳半
          1本
        • 勝手口
          1本
        • 引き出し
          1本
        • 痰壺
          4本

        記事

          栗花落

          「今日は部屋の掃除をしようと思っていたのになぁ」 しとしと ぴちゃん だるい体、心音と雨音 体温計は37度、微熱 少し肌寒い部屋、体温を蓄積した布団を剥いで ぐらつきながら起き上がると、軋む体とベッド ピントの合わない目をこすり、カーテンを少し開ける 二日目のグレーのパーカーは、鉛色の空を取り込んだようだ 同期する鼓動と秒針。 冷蔵庫をあけ、ボトルの水を飲み 引力に逆らわずソファに体をあずけると 「情けない人ね」 と、あの子の声が聞こえた気がする。

          午前惨事

          午前2時39分 勝手口の戸を開け 命を縮める灯火に火をつける ふ、と息を吐き、ヤニ臭い暗闇を ぼやっと眺める 強く吸い込んではいけない 燻る心と同期させるように。 「ほうら、きえるよ…けぇるよ、消える」 死神はニヤつく 午前2時41分 またこんな時間、早く寝ようと思ってたのに 洗面所へ行き、歯を磨く 重曹入りの歯磨き粉、しょっぱい 黄ばみは取れない 午前2時50分 カビ臭い布団に潜り 目を閉じる 沈む深さもないよ 明日の事を考える、いや日付的に

          Who are you?

          流れに身を任せたのがいけなかったのか? 背景は何色に見えていたのか とけ込めていたのだろうか 摩擦がゼロに近づくように 屈折しないでと願ったのに 僕を透して何を見た? 誰を見てるの? 何が見える、ねぇ、何を見てるの? みんな誰と話してるんだ 君は誰と話してるんだ 一体何と話しをしたんだ? 透き通ったそこになにがあった? 透き通ってたそこに、なにがあった?なにかあった? そこに、そこに、底に。 濁りは決して消えない 水を染めるインクのように、広がる