マガジンのカバー画像

掌編小説【薔薇喪失】

41
美貌の公爵こと麗人薔薇柩による美と幻想への耽溺。 最も美しいものを失い、自らの美貌に処刑された貴公子の、優美な日常と殺伐の物語。 掌編小説。耽美小説。幻想文学。幻想小説。
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

掌編小説【薔薇喪失】04.海

掌編小説【薔薇喪失】04.海

 潮の満ちた暗い海を、麗人はひたひたと歩いていた。砂浜から続いていた長い桟橋を、もうどれくらいの時間が過ぎたのか分からないほどに歩き続けていた。高潮で桟橋は波を被って沈んでいた。麗人はその道を、足を濡らしながら何処までも歩いていた。潮風と、波の音を杳然と聴きながら、塩分を含んだ風に長い髪を軋らせて。振り返ってみると、リボンで結わいた黒緑の長い髪が麗人の横顔を素っ気なく撫でた。岸は、もう、見えなかっ

もっとみる