歯医者

地元の歯医者に通っていた記憶をふと思い出した。
あの歯医者、酷く匂いがキツかった。
薬剤の匂い、印象的な頭がクラクラするような匂い。
中の外装も特殊だった。とにかく子供ながらに何か陰湿な雰囲気が満載だった。
2階なのか3階なのか、どちらにせよそんなに高層ではない。入口も覚えていない。人口2万8千人以下の過疎地域にそのような立派な建物は存在しない。
歯医者の中に「からくりサーカス」の漫画が置いてあった記憶はある。
しかし一度も読まなかった。
先生の顔の記憶もない。
通っていた時は雨が降っていたことが多かった。
これも虚構の記憶かもしれない。
それくらい陰湿だったということ。
歯医者というより完全に病院のイメージが強かった。
小学か中学か分からないが途中から通う歯医者を変えた。
もう行かなくなった。
あのビル。
地元に帰る時に定期的に観る。
そもそもどこのビルなのか覚えていない。
調べれば直ぐにわかるだろうが20年以上経って存在してるのか分からない。
調べれば直ぐにわかるだろうが特に興味もない。
何故急に思い出したのか。
子供ながらに広い広いと思っていた様相は成人を期に加速度的にちっぽけで陳腐な物に変化していく。
地元に帰ると特にそんな感情に陥る。
あの地元がはっきりと嫌いになっているのを感じる。
実家は好きだが。
それも都合の良い考え。
既に残酷な行いが垣間見えて誰もが見て見ぬフリをしていた小学4年とか5年の皆で和気あいあいと下校していたような、あのような感覚を取り戻したいと常々思う。
帰省した時にそのような感覚を求めて母校を巡ったりする。
完全に不審者だが。
戻りはしない。
が、小学校の体育館裏のプールへ続く道で一度そのような感覚が戻った瞬間はあった。
また、通っていた幼稚園。割と高台にあるので狭い街並が割と見渡せた。
太陽に沿ってソレを眺めると堪らない感覚は確かに戻っていた。
夏場より冬場が堪らなかった。

穏やかな夜を。

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