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神様からの手紙

私の前を歩いている女性を見ていた。
その人はダボダボのスニーカーを引きずって歩いていた。
歩くたびに、

ずっ、ずっ、

と音がしていた。

その脚は腕のようにか細くて、
足はスニーカーの中で泳ぐほどに痩せていて、
サングラスを掛けた視線のその先は、
ずっと遠くの彼方をぼんやりと眺めているようで、
魂が抜けて痩せ細った身体だけが、
まるでからくり人形のように動いていた。

暫くして、その女性は
ある家の中に消えていった。

その家は地元の旧家で、私が知っている家族が住んでいる。
そのはずだった。


(あの女性はいったい誰だろう?)

私は疑問に思った。



そして気づいた。

(娘さん?)


その家には、
両親と娘と息子、そして父方の祖母が一緒に暮らしている。

娘さんはいかにも良家のお嬢さんといったふうで、
通りすがりに何度も挨拶を交わしたことがあった。
地元の大学に進学し、海外へ留学したと風の噂で聞いていた。


(あの子かもしれない。いや、きっとあの子だ。)


私は、自分のいとこのことを思い出していた。
摂食障害を患って、縊死してしまったいとこのお姉さんのことを。



その夜は眠れなかった。


こんなふうにいとこのことを思い出すとは思わなかった。
何もかも過ぎ去った過去の記憶だと思っていた。

それなのに。

まるであの当時のいとこが目の前に具現化したようだった。

「私を忘れないで。ずっと覚えていて。」
「私を助けて。」

そんなふうに言われている気がした。

彼女の助けになれたなら、亡くなってしまったいとこが救われる気がして、
今の私に何ができるのかを一晩中考えていた。

何も思いつけなかった。
専門職として働いている今ですら、何も思いつけない。


神様は私をお試しになる。
私の無力さを知らしめるために。
私を戒めるかのように。

私はあの日からいつも彼女のことを考えている。
そして亡くなったいとこのことを重ねて思い出して心を痛めている。

彼女が救われることを心から願う。
手を差し伸べることすら奢ったことのようで、私には何もできないけれど。
でも、貴女が幸せな方へ向かって行けるように、
この世界に少しでも長く留まれるように、
毎晩祈っている。


声は掛けられないけれど、貴女を思う人はすぐ側にいるよ。
だから生きていて。





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