見出し画像

物語は、内から来るのか、外からなのか。

いしいしんじさんの「いしいしんじのごはん日記」に、物語が始まる瞬間が書いてあった。

いしいしんじさんのごはん日記は、エッセイ、というか本当に日記で、毎日何をして何を食べたか、が淡々と書いてある本だ。


神奈川県の三崎に引っ越してからのごはんが美味しそうで、私が結構好きな本だ。


この本の中で、沖縄へ旅行へ行く日がある。
黒島の仲本海岸で泳ぐシーンに該当箇所がある。

それから宿へもどり、すぐ裏の仲本海岸へ。ここは全国的に有名なシュノーケリングの名所で、ただ九月の末にひとはいません。ぜんぜんおよげるのに。「けど、浅いな。あ、さんごがある。こんなものかな」と、なめた気分で泳いでいるうち、岩礁の縁にでました。宿のひとから「ぜったいに、外へはでないでくださいね」と釘をさされていたところです。けど、釘はぬけていた。ふらふらと泳ぎでいくうち、とつぜん、地球が割れたみたいな感覚におそわれました。足元が、真っ青です。とつぜん、数メートルの深さにまで断崖がおちていました。その壁にさんごがぎっしり。巨大なさかなのかげが底からあがってくる。びっくりしました。ぷかりと浮いていながら、落ちていく感じがします。浮力ってものを実感した瞬間です。みなさん、来年かく本のライトモチーフが、このとき決まりました。それはおそらく、海と浮力をめぐるはなしになるはずです。

いしいしんじ「いしいしんじのごはん日記」p260


安全で安寧な世界から、いきなり足元の見えない真っ青な闇へ。
闇の中には、たくさんの美しいものと、静かな驚異が見える。
しかし幸いなことに浮力があったため、真っ青な闇に落ちずに済んだ。 


私は、いしいしんじさんの本は、「ぶらんこ乗り」「麦ふみクーツェ」「トリツカレ男」「プラネタリウムのふたご」を読んだことがある。

詳細をはっきりもは覚えてないが、安心なやさしいかわいい世界の中に、突然闇がある、ような、そんな物語だった印象がある。

書かれている小説を象徴するようなシーンだった。


私は、物語(とくに空想の世界のような童話のようなお話)はなんとなく自分の内側から湧き出てくるものだと思っていた。
だが、いしいしんじさんのこの場合は、外からいきなり物語が訪れた。事故のように。

物語は、内から来るのか、外からなのか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?