シナリオ(チーム制作)

「また明日!」
「うん!また明日ね!」

授業が終わり、私は自転車に乗った。

私の日課は放課後に海岸へ向かうことだ。
この街は海沿いにある小さな街で、少し歩けばそこには青く透き通った海が広がっている。
広く続くその海は、太陽の光を反射して輝き、ゆらゆらと揺れて波の音をたて、風が潮の香りを運んでくれる。
そんな海を見ていると心が穏やかになれる。
だから私は海が好きだ。

ザザァ…ザバーン(波の音)

心地良い風と、優しい波の音を感じながらペダルを踏む。風につられ思うがままに。
すると、一本の大きな木が立つ丘に出た。
少し歩くとそこは崖になっていて、海が一望でき、キラキラと輝かせた青く広い世界が広がっていた。

私は思わず、波の音に乗せて歌を口ずさんだ。

〜♪

(とても楽しい。もっと…もっと歌いたい!)
目を瞑り、そよそよと吹く風が心地良く歌を乗せる。


〜♪♪


そして、気持が舞い上がった私は足元の少しの段差に気づかず躓いてしまった。

「きゃあっ!」

その瞬間、時の流れが遅くなるのを感じながら崖から投げ出された身体は抵抗することもできずに海の音を立てた。

必死に上がろうとするが、水に浸かった制服が重く思うように泳ぐことが出来ない。
焦りが募るなか意識が遠のいていく。

(あぁ...もうダメ...かも......)

夏から秋へと移りゆく季節。
夕日の射す海岸には人影ひとつなく、人目につかない。静かな海へと意識が沈む。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


はっと目を覚ますと海岸の近くの岩場にいた。
「あれ?私、海に落ちて...」
そう呟いた時、パシャッと何かが海面の音を立てた。振り向くとそこには歳が近そうな少年がこちらに向かって歩いていた。
サラサラと太陽を反射し輝く銀色の髪に、整った容姿。その青い瞳はどこか海のように深く心を見透かすような気さえした。

横になったまま思わず見とれていると
「ねぇ。」
そう声をかけられた。
まさか声を掛けられるとは思わず咄嗟に
「は、はい!」と起き上がる。

「あはは、横になったままで良いよ。」
彼はそう物腰の柔らかな口調と笑顔で笑いかける。急にこんなイケメンから話しかけられたら誰でも困惑するだろう。
思わずあわあわしていると
「具合はどう?」
その言葉でふと気づいた。制服が濡れている。
「あ、やっぱり私...海に...」
「崖から人が落ちるのが見えたから咄嗟に僕も海に入ってしまったよ。」
(そうだ...私、やっぱりあの時落ちて...。)

助けてもらえていなかったらと思うと震えが止まらなくなってしまった。
そんな時、震える手をそっと暖かい手が握る。

「...怖かったよな、けどもう大丈夫。君は今ここにいる。」

死ぬかもしれないと思いながら沈む恐怖と、助かった安心感から途端に涙が溢れた。

そして、この時はまだ気付いていたかった。
夏から秋へ変わる肌寒い季節に、溺れかけた私を助けるため海に入ったはずの少年がほんの数分で濡れていないことに

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?