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BL短編集「狼のような彼を監禁して愛でる」試し読み



「やあ、皆、いい子にしてたか」と笑いかけつつ、犬たちを従えて歩いていき、大広間へと向かった。
つくなり、弾けるように走りだした犬たちだが、でも、すぐに、ある扉の前に集合し、お座りをする。

「くうぅん」「ふうーん」とまた甘えて鳴き、潤んだ瞳で見上げてくるのに「すぐ、連れてくるから、待っていなさい」と告げ、扉を開ければ、真っ暗だ。
豆電球をつけ、薄暗く狭い階段を下りていき、突き当りの扉を開ければ、またもや真っ暗。

薄暗く殺風景な部屋に「ただいま」と挨拶をする。

小さい黒のテントから、はみだす足が痙攣したのを見とめ「おいで、私の狼」と呼ぶと、跳びでたのが、目にもとまらない早さで、私に抱きついてきた。

抱きとめて、頭を撫でながら、胸いっぱいに匂いを吸いこむ。
日中の工場訪問で、濁りきった心が洗われていくような思いがし、気が済んだところで、「ほら、皆が待っているよ」と背中をぽんぽんと叩いた。
顔を上げ、奥歯まで覗かせ笑い、四つ足になって、一目散に階段を上っていく。

すこし遅れて、大広間に戻り、犬たちが走ってじゃれあっているのを、一人がけソファに座り、心身安らぎつつ、目で愛でた。

正確には、五匹と一人、だが。

一人がけのソファに座り、膝辺りを叩くと、肩を跳ねた彼が、駆け寄って、片足に跨った。
目を細め笑いかけてから、しきりに口元を舐めつつ、腰を揺らしだす。
犬のマウンティングだ。

犬のマウンティングの意味合いは、発情した雌に対しての性的アピールと、歓喜するあまりの衝動的なもの、上下関係を知らしめるためのものと、されている。

私の狼の場合、一つ目と二つ目は除外されるので、ご主人を独占できて胸が躍っているのと、人としての生理現象を、抑えられなくなってのことなのだろう。

はじめは、じゃれるように、口元を舐めていたのが、息を切らすようになって、垂らした熱い舌をくっつけるだけになる。
足を揺すると、「は、ああ、ふぁ、あん」と甘ったるく鳴きだして、ぴちゃぷちゃと音を立てて、頬に唾液をなすりつけた。



駅伝でキャプテンを務めたチームが優勝。
個人の成績も優れていたことから、大手スポーツメーカーに声をかけられ、大学卒業後は企業のマラソンチームの所属が決まっていた。

が、卒業間近にして、駅伝のチームの一人が、未成年の女子学生に飲酒を強要し、暴行したことで逮捕。
一ミリも俺は関与していなかったものの、とばっちりを受け、大手スポーツメーカーとの契約は、おじゃんとなった。

大手スポーツメーカーが手を引いたとなれば、名の知れた、他の企業が、迂闊におこぼれに与るわけがない。
という大人の事情もあって、卒業が迫る中、所属先やスポンサーが見つからず、切羽詰まっていたとき、手を差し伸べてくれたのが、牛乳メーカだった。

正確には、俺の実家の町にある牛乳配達の支店だ。
この配達店には、中学のころにもお世話になっていた。

小学校低学年から、陸上をはじめて、頭角を現しだした俺だが、恩師の爺ちゃんコーチが他界したこと、公立中学に陸上部がなかったことで、中学にあがったら、どうするか、迷ったもので。

強豪校にいきたくても、家に余裕はない。
もう、諦めるしかないかと、思ったときに、配達店のおじさん店長が「牛乳配達のバイトをしないか」と声をかけてくれたのだ。

誘われたホテルのスウィートルームで、洗いざらい打ち明けると、始終にこやかに肯いていた優雅が「分かった。なんとかしよう」と二つ返事をした。

これまでの、自分の態度の悪さからして、駄目で元々、まさか嫌味一つなく、了承されるとは思ってもみなく、唖然茫然となっていたら、もちろん、そんな、うますぎる話があるわけがなく。

「見返りに、僕に忠誠を誓ってもらおう」

「忠誠?」とすぐに飲みこめなかった。

拒否的な態度を改め、取り巻きと同じように揉み手をしろというのか。
大会で、一二位を争うことになったとき、順位を譲れというのか。

前者ならともかく、後者は受け入れたくなかったが、配達店へ報恩するには、選択肢がないのも分かっていた。

「・・・・いいだろう。忠誠を誓う」

心臓が潰れそうな思いで、応じれば、「じゃあ、早速、足を触っていい?」と頓珍漢な言葉が返ってきた。



講義中にかまわず「一週間分、食堂の飯、奢るから、誰か制作の手伝いしてくんね?」と扉から顔を覗かせ、大声で勧誘してきたのに、金欠で飢えていた俺は真っ先に「はい!」と手を上げた。

相手がまだ在学生ながら、世界でも個展を開いて大成している、大学の名物先輩と知ったのは講義が終わってから。

知ったところで、いざ対面してみれば、そう天才肌の奇人でもなく、やや変人ながら、人懐こく気さくで、すぐに打ちとけられた。

さる名言を残した、大芸術家に喧嘩を売るように「芸術は無意味だ!」をモットーにしている点には、はじめ「ええ」と眉をしかめたものを、手伝うようになると奇をてらったり、斜にかまえての迷言でないのが分かってきた。

今の時代、修行を積み、技術を習得しなくてもコンピューターのシステムやプログラムによってアートを手がけることができる。
手作業なしに、誰でも、一丁前に絵画を描けるわけだ。

そんなコンピューターの機能向上によって、時短と節約、効率化の波が、芸術界にも押し寄せる中、いちいち手間も時間も金もかかる手作業にこだわるのが先輩だった。

接眼レンズに眼球をのめりこませるようにして、微動だにしないことしばし、急に「かー!」と仰け反ったら「さいこー!この絶妙な匙加減、お前、分かってる!」と抱きついてきた。

普段から、スキンシップをするほうとはいえ、今日はとくにご機嫌なのか、その熱烈ぶりにぎょっとして、よろけてしまう。
後ろにふらついて、柵にもたれてから、「ちょっと」と抗議しようとしたのを口で塞がれた。

いきなり舌を突っこんで、忙しなく抜き差しし、その動きに合わせて、足で股間を擦ってくる。
はじめは、隙を見て、待ったをかけようとしたが、至近距離で瞳孔が開ききったような目で凝視されるのに困って、固く瞼を閉じた。

手伝いをした初日から、ベロチューをされて射精させられた。

同じ大学に彼女がいるのを知ったのは、翌日になってから。



「あらあ!今日も、いいおケツくぉしているわね!」と片尻を揉まれて、窓の外を眺め、警戒心ゼロだった俺は「ぅぎゃあ!」とみっともない声をあげた。
跳びあがって、すかさず、尻を手で隠して、振りかえる。

「いい声」ときゃっきゃするのは、チョッキにネクタイを締めた、シックな装いが似合う、高身長のスマートな男前。

佇むさまは「貴公子」がぴったりなのが、ぶりっ子の手つきで内股になり、卑猥に腰を揺らめかしている。
すこしも悪びれていないのに「先生、耳蛸でしょうが、セクハラですよ!」と声高に訴えたかったものを、堪えた。

我が私立高校は、自由で開放的な校風過ぎて、オネエキャラの教師が名物になっているくらいだ。

教師としての評価も高く、指導は文句なし、生徒からも慕われているとはいえ、同僚の教師へ、挨拶代わりにセクハラをするのが難点(さすがに男子生徒にしたらアウトだから、その一線は超えていないよう)。
ただ、困っているのは俺だけかもしれない。

同性でも、均整の取れた女顔をしていれば、満更でもないのか。

俺以外に、むきに怒ったり、クレームする人はいなく、年が近い人は、お盛んな男子に戻ったようにじゃれあって、先輩にしろ、セクハラをし返して愉快がっているようだった。

まっとうな反応をしているはずの俺のほうが、職員室内においては浮いているし「ノリが悪い」と白けた目を向けられる。
ともなれば、怒れなくなったのだが、今回、文句を飲んだのには別に理由があった。

「あの、今日、お昼一緒にしませんか。屋上で、二人だけで」

普段から、必要もなく接するのを避けていて、いきなり「二人きりで」と誘ったら、そりゃあ「どういう風の吹き回しか」と怪訝がるだろう。
さすがに先生も「まあ!素敵!」と浮かれないで「いいわよお、楽しみにしてる」と愛想笑いをした。
「じゃ」と去り際に、腰を撫でるのを忘れなかったが。

「あらたまって、話って?」とにこやかにしつつ、正座を崩さず、距離も詰めず、手を伸ばして、セクハラもしてこないとなれば、察しがついているのだろう。
と、分かっていながら、切りだすのは躊躇われ「聞いたんですよ」と目を逸らす。

「生徒が夜遅く、忘れ物を取りに学校にきて、部室に向かう途中、あたなが標本の骨とダンスしていたのを見たと。
そういう噂が流れているんです。

電気のついていない、月明かりの教室で・・・それで」



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