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BL短編集「俺のパンティーを盗んだ犯人が『抱いてやろうか』と偉そうに誘ってきます」試し読み


俺の勤める会社はブラックどころでなく、どす黒い。
表むき「我が社がSDGsを推進する優良企業です!」と看板を掲げながら、社内ではハラスメントの嵐。

山ずみの仕事を若手社員に押しつけ、すこしでもミスなんかしようものなら。
スマホをいじって、さぼっていた上司が一時間の説教、というか、言葉の暴力でフルボッコ。

自分が餌食になりたくないからと、若手社員同士、罪のなすりつけあいをしたり、だれかを吊しあげたりのイジメも横行。
そうして日中、むだな時間を費やせば、終業時間まで仕事は終わらず。
手当がでない残業をする羽目になり、〇時を超えるのも休日出勤をするのも当りまえ。

今日も今日とて、上司や同僚に虐げられ、ままならなかった仕事をだだ働きでやっつけて午前三時の帰宅。
限界まで体は疲れはて、心は荒み、床にへたりこんだなら放心。

そんな廃人一歩手前の状態を見たなら、人は「なんで辞めないの?」と首をひねったり「逃げたほうがいいよ」と助言をするだろう。
が、逃げ口はばっちり悪徳会社に封じられている。

「おまえの代わりなんていくらでもいる」と捨て駒あつかいするくせに、辞めることも許してくれない。
もし転職しようものなら、新しい職場に「そいつは、うちの会社で横領した疑惑がある」と吹きこみ、偽装した書類を見せるのだとか。

実際、転職をした先輩は「この前科者め!」と覚えのないことで責められ、二日で首になったという。
曰く「そのあとも妨害工作をされて、実家にもどって店を継ぐ以外の道を断たれてしまった」とのこと。

先輩のように恵まれていない俺にすれば、八方ふさがり。
転職ができないとなれば、死ぬしか逃げる術がないように思えて。

疲労を負うばかりの体はぼろぼろ、精神的にも限界まで追いつめられて、まともな判断ができない状態。
「とても休みなんかとれないけど、死ねば出勤せずに済むな・・・」なんて考えながら、おもむろに部屋を見渡したら、パンティーが視界に。

別れた彼女のだ。
朝に衣装ケースから下着を引っぱりだしたとき床に落ちて放ってあったもの。

別れが急だったから、彼女の私物が置いたままで、仕事が忙しく、処分できないまま。
「どうやって捨てたらいいんだ?」とパンティーに手を伸ばそうとし、ふと思いついてスマホに指をスライド。

レースのついたピンクのパンティーを注文すると、さっきまで自殺願望にとらわれていたのが嘘のように浮き浮き。
鼻歌を吹きながら、彼女のパンティーを紙袋にいれて、生ごみの袋にイン。

「俺より形のいいおちんちんが、パンティーから覗いていて、たまんないなあ」

「パンティーをこんなに伸ばしてよごしちゃって、いけない子だけど、かわいいから許しちゃう」

「食いこむの気もちいい?もっと引っぱってあげようか?ああ、いいね、きみが気もちよくなるの見ていると幸せだよ・・・」

自分でも意外に、息を吐くように褒め言葉がでてくるし。
囁きながら、胸の突起をいじりパンティーをしこしこすれば「やだあ、もお、やああ・・・!」と泣きじゃくってイきまくるし。

さっきまでの人を食ったような態度はどこへやら「やめて、やめてえ!」と命乞いするように、ぶざま。
「ざまあ」と胸がすくというか、加虐心と性欲がない交ぜになって頭が沸騰。

逆上せたまま「ほら見て」と俺と彼のパンティーをくっつけ、擦りあわせてじゅぷじゅぷ!

「こう比べたら、やっぱあ俺よりさまになって、精液が染みこんだピンクのパンティー、卑猥すぎるでしょ。
男好きなのを隠しているというけど、こんなエッチな体してて、世の男たちが放っておかないいんじゃない?

すくなくとも俺はほら、自分のパンティーを盗んだかわいい泥棒の虜になって、はあ・・・もう、はちきれそう・・・」

固く目をつぶっていたのを、一瞬、下半身を見て「やあん、やだあ、固くしなあ、でえ!」と全身を赤くして悶えまくり。

「あ、あんた、おかし・・・!泥棒をかわいいだとか、ちんこを、そんな、はあう!ああ、ああ、ああ、そんな強く、パ、パンティ、破けちゃ!ば、ばかあ、かわい、いっちゃやだあ、くうあああ!」


物心ついたときから、俺はどんなパンツをはいても、しっくりこなかった。

絞めつけが強いと尻が痒くなるし、緩いと前のおさまりがつかず心もとない。
ほかにも細かいことに文句をつければきりがなく、そりゃあ、百点満点のパンツは中々見つからず。

「これじゃない感」を持て余しながら、肌にあうパンツを探しつづけて二十年以上。
男性下着メーカーに就職してまで追い求めた結果、ついにジャストフィットのパンツとの出会いが。

それがTバック。
ただしオーダーメイドのだ。

まえからTバックが理想に近くはあった。
「尻を布でおおわれたくない」「まえは最低限の布で包まれて、ずれが気にならないていどの絞めつけを」などの基本的な要求を満たしていたから。

「あとちょっと」で理想に辿りつきそうでつかなかったのが、絞めつけ具合や形の微調整、布やゴムの素材選びを徹底的にこだわりぬいてオーダーメイドしたことで完成。

いや、オーダーメイドという発想は前々からあったとはいえ、さすがに「俺、男だしなあ」と気が引けて。
が、男性下着メーカーに就職をしたらオーダーメイドをするのは新人教育の一環だったし、先輩曰く「下着をつくって販売する会社の人間としてのたしなみだから」と。

会社の後押しがあり、おかげで長年のパンツによる悩みや鬱屈が解消され、世界が一変、光り輝いて見えるように。
「これからこそ本当の人生がはじまる!」と奮い立ったほど、心機一転で社会を歩んでいこうとしたのだが。

会社終わりにジムのプールで時間を忘れて泳ぎまくり。
更衣室にいくとがらんどうで時計を見たなら閉館の十五分前。

「いつもは三十分前にアナウンスが鳴るのに!」と水着を脱ぎ、パンツをはこうとした、そのとき。

慌てたせいで落としたパンツが、風に吹かれるように飛んでいった。
空調がきいているとはいえ、パンツを飛ばすほどでなし。

釣り糸で引っぱられるように、どんどん遠ざかっていくのに、すぐさまタオルを腰に巻き「ドッキリ!いやでも、なんで俺に!?」とパニックになりつつ追走。

といって所詮はパンツだ。
「関係者以外立ち入り禁止」と書かれたドアが行く手を阻み、早くも逃走劇は終了。

そのはずが、ドアが開いて悠悠と浮遊していくパンツ。
だれもいないし、ご丁寧に閉められたのを俺は手で開けたから、自動でもないし。

そうして、どんどんドアを開けて施設の奥へと。
「このジム、こんな奥行きあったか!?」と息を切らしながらも足を緩めず、諦めようとも思わず。

この世で一つしかない俺と相思相愛の究極のパンツだ。
予備が五枚あるといっても、初めて足を通した記念すべき一枚なのだから、できれば死ぬまで添い遂げたい。

裸にタオルを巻いただけで全力疾走する俺は通報レベルなれど、かまわずパンツにまっしぐら。
また扉が開いたかと思えば、これまでとちがって白く発光して向こう側が見えず。

パンツが吸いこまれた白い光に、迷わず跳びこんだなら、勢いをつけすぎたせいでつまずき、すってんころりん。

すこし転がって、見あげたそこは真っ青な空に広大な草原。
今は夜だし、ジムはビル群の中にあるはずが。

呆気にとられて空を眺めていると、人のざわめきが聞こえて、振りむいたところ。
人の群れがなにかを崇めて拝んでいるようで、その視線を辿れば、なんと俺のパンツが。

後光が差しているようにきらめきながら宙に浮いたまま静止。

「お、おおおお俺のパンツーーーーー!」




俺は今日が初就任の刑事。
市民に親しまれる交番のお巡りさんになりたかったのが「刑事になれ。じゃないとクビにるす」と署長に脅されて渋渋、刑事になる道へ。

あいにく刑事になれるだけの資質があったし、真面目なほうだから、訓練や試験で手をぬくことができず、みごとに一発合格。
「俺の目に狂いはなかった!」と俺よりはしゃぐ署長に送りだされたものを、配属先ではえらいことが。

連続強盗事件と連続殺人事件二つが横行して、刑事課は大忙し。
「新人の教育なんかしていられるか!」とまるで歓迎されず、ただ一応、五才年上の先輩が教育係に。

アラサーながら、どこか昭和の匂いがして昔気質っぽく、ふだんから凄みがあって見た目もいかつい剛川先輩。
「現場百閒とか古くさいやり方を押しつけてこないかな」と不安だったなれど、刑事課のなかで一番、頭の切れるエースらしい。

その腕を見こまれて、二つの事件の捜査を任され、忙殺されている先輩だけに挨拶もそこそこ「おまえには連続殺人のほうを担当してもらう」と説明を。

半年前から裸にパンツをはいただけの男の死体がつづけて発見されているという。

どの遺体もさんざん射精したのと、レイプされた痕跡あり(ただし相手の精液は見つからず)。
死体は被害者が住むマンションの地下室に放置。

死因は心臓発作。
注射針の跡が腕にあったので薬物により殺されたと考えられるが、検査では判明せず。

不可解な殺され方以外、被害者にとくに共通点はなく、同性愛者でもなかったとのこと。

「まあ、おそらく犯人は同性愛者だろうと見立てている。

ノンケに惨いしうちをされて怒りのあまり狂い、復讐をしているのか。
同性愛者なのを隠しているやつが、あまりに普段、自分を抑圧していることから、反動で暴走をしているのか」

これまでに頭を絞ったろう先輩方らの考えに「いや、でも」と口だししようとしたら「よお、みんな、がんばっているか」と車椅子に乗った男が登場。
きょとんとする俺に、剛川先輩が紹介したことには「この人は刑事課で断トツの腕利きだった古谷さん」と。

「どうも」「いい顔つきの新人だな」と挨拶を交わし、俺がちらりと足を見たのに気づいて「これはなあ」と苦笑。

「ある事件、猟奇殺人を調べていたら、犯人に目をつけられて殺されかけたんだよ。
一命をとりとめたが、下半身がほとんど動かなくなってな。

それから警察を辞めて、今は探偵業をしている」

「・・・べつに車椅子でもかまわないから、刑事をつづければよかったのに。
犯人と格闘できない体じゃだめだって聞かなくてな。

ていうか、車椅子だと探偵業のほうが難しいんじゃないですか?」

「まあ、そうだけど、逆に怪しまれないってのもあるんだよ。
一見、社会的弱者だからな。

調べている相手が俺を目に止めたとして『あんまり見てはいけない』とすぐに顔を逸らしたりする。
まあ中には『手伝いましょうか』と声をかけてくるから厄介だが」

放っておくと、長話になりそうだったに「あ、あの、それで古谷さんはなんの御用で?捜査の手伝いとか?」と割ってはいる。

「ああ、じつは古谷さんの依頼者がはじめの犠牲者なんだ。
だから、暇なときに警察にきてもらって、あらためて話を聞いたり、まあ、捜査についての意見を聞かせてもらっている」

「んな大層なもんじゃなく、爺が戯言を垂れ流しにきてるだけだ。
ほれ、俺のことなんか気にせず、新米刑事さんよ、さっき云おうとしてたこと云いな」

なかなか気さくな人なれど、元ベテラン刑事のまえでは緊張せずにいられず。
昭和臭のする剛川先輩が目を光らせてもいるし。

「あまりにハラスメントがひどかったら署長に泣きつこう」と一呼吸置いて告げる。

「主犯は同性愛ではないと思って・・・」



父は柔道の師範。
そりゃあ当たり前のように、息子である俺は物心つくかつかないかのころから柔道をしこまれた。

とはいえ、俺の性格は柔道に不向き。
根っからの臆病だし、人と争うのも痛い目にあうのも相手を痛めつけるのもいや。

ただ、父の命令にも逆らえず、練習に励み、試合を重ねて、めきめき強くなってしまい。
自分も相手もあまりダメージを受けず、苦痛を覚えないよう、早く試合を終わらせるため一本背負いに磨きをかけたのが裏目にでてのこと。

すっかり父は「俺がとれなかった金メダルを!」と浮かれて、ますます俺はひっこみがつかなくなり。
父だけでなく、まわりから期待を寄せられては、とても「辞めたい」とは口が裂けてもいえず、ずるずると柔道を。

応援する人だけでなく、俺を敵視したり妬んだり、貶めようとする人もいて、胃が痛くなるし。
唯一の救いは、クラスメイトに恵まれていたこと。

平均身長より上背があり、制服がはちきれそうに筋肉質だった俺は小学生ながらに容貌も雰囲気も厳めしかった。
が、つきあいの長い友人は、その見た目にそぐわない小心ぶりを知っているに「おまえ、ほんとヘタレだなあ」と笑いとばし、昔と変わらず仲よくしてくれて。

そんな友人がいたから、非常に不本意ながら柔道をつづけていられたのが、その唯一の拠り所さえ失うことに。
原因は不良だ。

父の道場を辞めたという三人の中学生が登下校中の俺にからんできた。
べつに暴力をふるうでなし、カツアゲもしなかったとはいえ、よく噂される不良とつるんでいれば、そりゃあ友人は遠ざかるというもの。

もちろん、不良と親密になっていたわけではない。
彼らは馴れ馴れしく俺の肩を抱きながら「大会に優勝してるの、どうせ会長の父親の差し金だろ」「柔道の師範の息子は、人生が勝ちゲーでいいですねえー」と一方的にいやみを垂れ流していただけ。

柔道の技をつかって黙らすのはご法度。
肝っ玉が極少の俺に「かまわないで」と拒めるわけがなく、他にどうすればいいか分からず、ひどく思い悩んでいたそのとき。

「なにやってんだ、おまえら!」
「小学生相手にねちねちと、まー恥ずかしい!」
「同じ中学の者として見過ごせないな!」

三人の中学生が不良を叱りつけながら、登場。
神田くんと真山くんと水戸くんだ。

不良より三人は有名で、中学校や地域のアイドル的存在。

神田くんは陸上部のエースで、学年トップの成績を誇り眼鏡が似あう秀才イケメン。

真山くんはサッカー部の得点王で、芸人のように口達者なおちゃめなイケメン。

水戸くんは剣道部の最強剣士で、硬派を貫く日本男児なイケメン。

あまりの三人の輝かしさに怯んだようで、あっけなく不良はとんずら。
そのあとも「また、からんでくるかも」と三人は俺の登下校に同行を。

中学三年で部活を辞めたうえ、三人とも推薦が決まって、暇だったからつきあってくれたのだろう。
たまたまだったにしろ、不良のことで心配せずによくなっても交流は継続。

道場に顔をだして差しいれをしたり、試合を見にきて応援も。
そうして三人が練習や試合を見守ってくれるようになって、柔道アレルギーの俺の心境に変化が。

憧れの三人のように俺もなりたいと。
なるためには、唯一の取り得といっていい柔道で上りつめるしかないと。

そうした目標を掲げて、練習に打ちこみ試合に臨めば、まえよりも情熱を持って生き生きと柔道ができたもので。

三人のおかげで、新たな人生を切り開けたとはいえ、柔道にまい進することで弊害も。
高校卒業後、都会の強豪大学に行くことに。

まあ、俺だけでなく、神田くんは一流企業の選手団に、真山くんはプロのサッカーチームに、水戸くんは警察学校を卒業して県外に配属と、三人もばらばらに。

「これまでどおり連絡はとり合おう。
しばらくはお互い忙しいだろうから、一段落つくだろう夏に故郷で会おう」

そう約束して、三人に見送られながら俺は号泣して都会へ。

大人並に体が大きくなっても小胆なのは相かわらずで、三人と別れての寮暮らしは心細く。
でも、新幹線で向かう途中に涙をぬぐい「俺は生まれ変わるんだ・・・!」と決意。

外見も中身も男前な三人と肩を並べても恥ずかしくない雄雄しく立派な男になるんだ!

その目標を達成するため、大学生活では柔道の修行に精進しながらも、泣かず怯えず弱音を吐かず、男らしくふるまうよう心がけて。
顔を見たり声を聞くと、つい甘えてしまうから、リモートや電話をしたいのを堪えて、三人とは文字だけのやりとりを。

そうして自分磨きをして、約束どおり夏に故郷に帰り、一皮剥けた俺をお披露目することに。

待ち合わせ場所に三人を見つけ、前なら「わー!寂しかったよー!」と泣いて走っていくところ。
悠悠と歩いて「やあ、三人とも久しぶり」とにこやかに手を上げてみせた。

「俺の大学生活は順風満帆で、友人にも仲間にも先生やコーチにも恵まれて、なにひとつ困ることなく問題なく柔道に集中できて、日々、成長をしているよ。

ほら見てこの体。
三人より身長が高くなったし、これだけ筋肉がつけば、いざというとき三人を抱えることもできる」

力こぶをつくって見せたものを三人ともぽかん。

「いや、たしかに前より筋肉が張りつめてしゃ・・・いや、熱でもあるのか鉄治?」と神田くん。

「都会デューしたってか、鉄治?服が破けそうに胸を突きだして、もしや揉ま・・・やめとけよ俺らのまえで、変にかっこつけんなって」と真山くん。

「俺はどんな鉄治でも、弟のようにかわいいと思う。たとえ俺らより逞しくなっても、むしろ興・・・その、だから、むりに大人になろうとしなくても」と水戸くん。

歯切れがわるいながら、どうも俺の変貌をよろこんでないよう。
「どうして俺が一人前の男らしくなったのを認めてくれないんだよ!」と怒れば、三人は顔を見あわせて口ごもる。

さらに噛みつこうとしたら「じゃあさ!肝試しで、おまえの成長が本物だと証明してくれよ!」と真山くんが提案。

正直「肝試し!?」と早くも肝が冷えたとはいえ、真山くんがにやつくのにむっとして「受けて立つ!」と勇ましく応じたもので。

パンツをテーマにしたアダルトなBL小説四作の短編集です。R18。
ジャンルはそれぞれコメディ、ファンタジー転移、サスペンス、ホラー。


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