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対話するリーダーシップ #3 分断をつなぐ場

あるグローバル企業のアジア太平洋地域のリーダーシッププログラムを担当することにあたって学んでいることをお伝えしてみたいと思います。プログラムでは、深く考え、対話を通じて参加者の個人、組織の変容を促す中で、各地域の伝統的な内省的な考え方にも触れていきます。私自身、人としてのあり方を探るような対話のプラットフォームを作っていくことに興味があり、セキュラーな仏教を通じて学んできたマインドフルネス、瞑想的なあり方という観点からも関わっていくことになりました。学んだこと、問いをここで共有することでビジネスパーソンの方々のご参考になったらと思っています。

今回取り上げるのは、U理論で知られるオットー・シャーマーさんのインタビューで
(公開48時間を経過し、現在は有料コンテンツになっています)

このインタビューは、ロシアによるウクライナへの侵攻から7日間の時点で収録されており、冒頭でその歴史的な流れと意義を語りました。2000年以降、911世界同時多発テロからのイラクへの侵攻、リーマンショック、トランプ大統領就任、COVID-19、そしてウクライナと、自らのバランスを崩されるような大きな変化の頻度が上がっています。この時点で、ウクライナの国民が団結し、市民社会として応じたこと、EUのリーダーが団結して支える姿勢をとったこと、どちらも集団で(collective)、これまでに想定できなかったような対応を行ったのです。

特に、通常、様々な論点からなかなか合意に至らないEUが、人としての精神性(human spirit)の観点から団結したというのは、全体性(whole)への気づきによるとしか表現できないものでした。オットーさんのU理論の言葉に、Presencing という、Presence(いま)+Sensing(感じる)を組み合わせた言葉があります。現実との繋がりを体現しているという状態のことで、今回のEUの初期の反応は、これにあたります。逆にいうと、オットーさんが熱をこめて語る姿に、いかにこういった状態から離れているかということの現れかもしれないと思いました。

更にここから、オットーさんは、敵は自分達であると言われました。他者である(othering)というラベルをつけることで、共感する能力を欠いてしまう、相手にとってどんな意味があるのだろうかという想像力を欠いてしまうからです。勝者と敗者、ゼロサム理論といった、自分と他者とを分ける考え方では、創造的な未来は決して生まれません。欧米では、声を聴いてもらえなかった、あるいは取り残されたと感じる人々が、トランプ大統領の支持者となったり、陰謀論を信じたり、Brexitに賛成したり、社会の分断が進み、対話が望めないような状況を生んでいます。日本ではどうでしょうか?少し視点を変えて、ご自身の会社の組織ではどうでしょうか?そんな状況はないと言い切れる方は、どれだけいるでしょうか。そもそも、そういう方がいないか、気に止めたことはあるでしょうか。

オットーさんは、U-labというU理論に基づく変容を促す、地域に根ざしたネットワーク(networked locality)を作られています。2015年以降、20万人以上の人が参加し、3人に1人が人生が変わる経験だった、そして7割の方が参加してよかったと評価しているそうです。このネットワークの最小単位は、目指す将来の姿から変容を望む5−7名のメンバー、10名程度の関係するステークホルダーで構成されるグループです。このグループが世界中で展開され、U理論に関するアップデート、様々な活動が共有される機会があります。このグループが変容(transformation)の器、場として機能する条件としては、1)中央集権的ではないこと、2)目指す将来の姿を共有していることがわかってきています。この二つはそれぞれ、心理的安全性であったり、パーパスであったり、よく取り上げれられているコンセプトととも共通しているように感じます。

オットーさんは、U-labについて、今年の後半、3つの分野に絞った社会の分断に取り組めるよう、グループの能力進化に向けたリニューアルを企画されているそうです。

エコロジカルな分断:生物の多様性を高めるために、どのように表土(最表層にある土)を培うことができるか?
関係性の分断:私たちはお互いにどのようにつながることができるか?
精神性の分断:私たちは精神性の種子をどのように植えることができるか?

この精神性の分断については、瞑想を例えとして取り上げられていました。瞑想をしていても、いつの間にか考え事をしてしまう・・・大切なのは、そこに気がついてまた瞑想に意識を戻すことです。この瞑想のような、本来するべきことから離れてしまったことに気づくことを、グループでも実践できる方法を探されている印象を受けました。考えてみると、私も昔は工場内の開発研究所にいた頃には、朝のラジオ体操、定期的な整理整頓、夕方のゴミ出しなどがあったことを思い出しました。確かに、単に各自がやっているだけではなくて、全体の様子や、周りの方の様子がよくわかったようにも思います。今年後半のオットーさんの発信には、私自身アンテナを立てておきたいと思っていますが、組織の能力開発、変化への対応能力を高めたいと考えられている方にとっても、大切なインプット、ヒントになるのではないでしょうか。

今回、ご縁があって、私自身もこのU-labのあるグループの方々とお話しさせていただく機会をいただきました。とても良い場が醸成されていることを体感させていただきました。その時に思い出したのが、仏教での三宝(仏・法・僧)という考え方でした。

U-labでは、仏とは目指す将来の姿、法とはU理論の考え方やツール・スキル、僧とは共に変容を促すグループのことでしょうか。変容を目指すには、これも2500年前から伝えられてきた条件ではないかと改めて思いました。

本日の問い
ご自身の職場で・・・
声を聴いてもらえていない、取り残されていると感じていそうな方はいませんか?
そういう方がいないか、気に止めたことはありますか?

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