野ブタと黒ヤギ [短編小説]
八木さんは、いつも私のことを「のぶたちゃん」と呼ぶ。それは私の苗字が信じる田んぼと書く「信田」だからなのだが、初対面の人はほとんどそうは思わない。どうしても、少しぽっちゃりとした私の容姿からつけられたあだ名だと勘違いする。誰もが真っ先に想像するのは野ブタなのだ。
この勘違いは、名刺交換をすればたいがいは相手も気づくものなのだが、中には最初に受けた野ブタの印象が変わらない人もいる。そういう人は「信田」を「のぶた」と読んでくれない。「しんでんさんですか?」とか「しんださん?」