お別れのキス
私が仕事で訪問する、とあるお宅には、ねこちゃんがいるということでしたが、もう何年もお伺いしているのに、一度も姿を見たことがありませんでした。
そのねこちゃんが、一度だけ姿を見せてくれたことがありました。
仕事を終えて、お家の方がお茶の用意をしてくださっていた時でした。
どこからともなく現れて、私の方へ一直線に向かってきました。
そして、私の手にキスしたのです。
それから、私のカバンに体をこすりつけたり、私のまわりをウロウロした後、またどこかへ消えて行きました。
それから数か月して、またそのお宅へ行きました。
お家の方に、「この間お伺いした時、ねこちゃんに会いました。」と、お話すると、「亡くなったんですよ。」と、淋しそうにおっしゃいました。
ねこちゃんは高齢だったそうです。
私の仕事ぶりをどこかで見ていて、知ってくれていたのかもしれません。
あの時のキスは、お別れの挨拶だったかと思うと、私は切なくなるのでした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?