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第19回 次代の農の在り方―坂ノ途中の事例から―

2017.08.05
小野邦彦
坂ノ途中 代表取締役


概要
「環境負荷の小さい農業を実践する農業者を増やすこと」を目指し、おもに関西圏の農家から仕入れた野菜の定期宅配や実店舗販売、飲食店への卸売といった事業を展開している坂ノ途中。
提携農家は約140軒に広がっており、収量が安定せず売先との継続的な取引が難しい農家の販路を支えています。
そうした少量で不安定だけどおいしい野菜を広めることを通じて、農業を持続可能なものにしたいというのが小野さんの理念です。


「未来からの前借り、やめましょう。」
をスローガンに、持続可能な農業の普及に取組む坂ノ途中の事例を通じて、次代の農の在り方を考え、実践します。

*イントロダクション
 坂ノ途中を創業するまでの経緯を、学生時代の様々な経験とともに紹介していただきました。

*「未来からの前借り、やめましょう。」

-どんな農業を選ぶかが社会のカタチを決定づけるということ
 大学時代にバックパッカーとして世界を旅する中で、多くの遺跡を見るにつけ「これまで人類は多くの社会を終わらせてきた。そして今を生きていると社会は持続することを前提に考えがちだが、社会は終わるものだということを前提に考えるようになった」と話す小野さん。
そこから現在の消費社会に対して思いを巡らせれば「今の豊かさは“未来からの前借り”で成り立っている」と考えるようになったといいます。

-興味・関心としてあった自然と人の結びつきを考えると行きつくのは農業だった
 有機農業や自然農のような収量が少なく安定しない生産者との取引は難しいという流通業界の常識感覚に対して「この時代、工夫してやればなんとかなるんじゃないの」と感じたという小野さん。前借りをやめるためには環境負荷の低い農業が必要で、有機農業や自然農といった環境負荷の低い農業に取り組むことの多い新規就農者を増やすのが最短の方法であると考えました。

-野菜が嫌いな子が、家に野菜が届くのを楽しみに待つように
 新規就農者の野菜は意外なほど美味しいそう。挑戦意欲旺盛で、柔軟に対応してくれる農家さんの野菜を楽しみに、野菜嫌いの子どもが坂ノ途中の宅配セットをまだかと待つようになったそうです。

-いろいろなカタチ
 坂ノ途中は野菜宅配だけでなく、京都2店舗、東京1店舗のお店を構えています。「ネットは効率的だが新しい人に出会える偶然性は低い。その点、お店は非効率だが偶然の出会いがあって面白い」と、お店の魅力も伝えておられました。
 自社農園である“やまのあいだファーム”では自然農法で野菜を栽培して新規就農を応援したり、ラオスの山中でコーヒーを作り、日本にむこうの農業の知恵や技術を取り入れ、日本の過疎問題も解決しようと試みたりと、様々なカタチで農業を提案しておられます。

-今している事を丁寧に続けること
 事業の目的や自らのメッセージを明確化し、みんなに共感してもらい、行動してもらいやすい仕組みづくりを提案しています。「一番大切なものを一番大切に」をモットーとして、提携農家さんとの二人三脚など、今やっていることを丁寧に続けることこそが大切であると話す小野さん。
 毎年約1.3倍の成長を続ける坂ノ途中。そこにはクリエイティブな視点で挑戦を続ける秘密が隠されていました。

*質疑ではフロアから多くの質問が出ました。いくつかご紹介します。

-どのように付き合う農家さんを選んでいるのか
 小野さんは、契約する前に必ず畑を見にいくそうです。技術を見るのではなく、直接話すことで農家さんがどのような意識であるかを聞くようにしていて、長い目でみてプロでやっていこうという決意のある人と取引したいとおっしゃっていました。

-どのようにセットの野菜を選んでいるのか
 野菜の収穫タイミングは、農家さんのこだわりとの折り合いだそうです。例えば、トマトの完熟具合について。農家さんにとって最高の完熟状態で収穫したくても、お客さんに届くときに熟しすぎていたら意味がありません。そこは農家さんにお願いして、少し早めに収穫してもらうなど、交渉を重ねているそうです。他にも色や形などの点で、お互いに確認することが必要であるとおっしゃっていて、小野さんが生産者さんとのコミュニケーションをとても大切にしておられる様子がうかがえました。

*グループワークと軽食
-ジビエ料理と野菜
 ジビエハンターの林さんが作った美味しい料理を囲みながら、参加者同士の交流もありました。シカ肉ハンバーグを挟んだサンドイッチ、シカ肉の青葉包みの天ぷら、マシシキュウリというトゲトゲしたキュウリのマリネ、蒸しバターナッツ、玉ねぎのホイル焼きなどなど、ジビエと坂ノ途中さんのちょっと変わったお野菜を使った料理をみんなで堪能しました。

-それぞれの立場で
 後半は参加者それぞれの立場で、これから何ができるのかということを考えました。自然農を一人でされている女性は「安全な食べ物が手に入らなくなるような時代が来ても、自分たちが食べられるものをつくれるように」「一人でも農業ができるように」していきたいとおっしゃっていました。

 また、有機農業に取り組んでおられる男性は、人口減少問題を危惧しており、今のままではこれからの社会を支えていくことはできないと考えており、今から意識を変えていくことが大切であるとおっしゃっていました。

 今回の機会を通じて参加者が未来の農業や自分の生活について考え、共有する機会になったのではないでしょうか。

記事:吉田健悟・加戸可那子(神戸大学大学院農学研究科修士課程)

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