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「世界の終わりから」風の時代の終末映画、センスの良い映像とエネルギッシュな演出に日本映画の希望を見る

私自身、紀里谷和明監督の映画を観るのは初めてだった。この映画を見ようと思ったきっかけは、監督でなく、ポスタービジュアルになっている伊東蒼である。今週、大河ドラマ「どうする家康」でもなかなか目立つ役をもらっていたが、現在17歳、その存在感と実力はこれからどう化けるのか?期待しかない。このポスタービジュアルと予告編から、ある意味期待はあった。

そして、結論から言えば、この世界終末という題材をなかなか哲学的に、かつエネルギッシュにうまくまとめてあると思ったし、その後味も悪くなかった。あくまでも、世の中のギスギス感からの解放を求めているし、反戦映画としてみれば、かなり強い意志が感じられる。とにかく、映画135分全体のエネルギーはなかなかのもの。そして、センスがとても良い映画だった。役者たち全員が有機的に演出されているし、その向こうにある監督が言いたいことは、なんとなくわかる。

なんとなくわかるというのは、あちこちで空間世界が破綻してるのは間違いなく。夢の世界と現実が繋がっているという概念でついていけない人はダメであろう。昨今は、潜在能力というものが多く語られているが、夢はその一部であるということはよく言われる。そして、「風の時代」とも呼ばれる中で、世界が3次元から5次元に移行していくという話もよく聞く。そして5次元世界では、過去、現在、未来が時間軸の流れではなく一体として存在するみたいなことが言われるわけで、この映画を容認できる人は、そういう世界をある意味信じている人だと思う。だから、量子力学で語られる世界の終末映画だと言ってもいいと思う。

そんなものが好きでない人は、「なんだこれ?」で終わってしまうだろうが、政府がこのスピリチュアル的な終末論を信じてどうにかしようとするというのは、実際ありそうなことの気もする。アメリカなどは宇宙人と何かしら企んでいる気配もあるしね・・・。この映画の本筋の話を書くと馬鹿らしいという方も多いとは思うが、それを映像として具現化できているところがなかなかすごいと思った。

そして、そのバーチャルな5次元世界で、伊東蒼が悩みながら行き交う姿がなかなか刹那いのもいい。そして、彼女を利用しながらも守り抜こうとする、毎熊克哉や朝比奈彩がすこぶる良かった。彼らがいるから、伊東がこのミッションに協力していくのもわかる。そして、話の芯には夏木マリがいるわけで、彼女の台詞回しでこの映画は世界をリアル?に持って行っている感じもした。彼女がただの占いババアにしか見えなかった人はダメでしょうがね・・。

そして、着地点は家族の話になっていたり、唯一の男友達との終末の画だったりするわけで、このあたりはファンタジーなのに、妙に涙腺に響くところもあった。そう、伊東蒼のお母さんの市川由衣も、出番が少ないのに、いつもより存在感があったりする。

話は、あと二週間で世界が終わるから、それをなんとか止めようとする話なのだが、その中で、現代に対する監督の思いや意志をうまく埋め込んであると言っていいのだろう。そして、結構、何度もリピートして映画の構造を整理したくなってくる映画だったりもする。配信始まったら、必ずそうすると思う。

ラスト、冨永愛が出てくる意味は、わかるようでわからないが、あなたが困っているなら、過去からも未来からも助けを呼ぶことはできるということなのだろうか?そんな時空の繋がりは確かにあるように私は思っている。

で、この感想を読んで、よくわからないという人もいるだろう。そう、結果的には作り手もよくわからせようとはしていないと思う。だが、そこにあるエネルギッシュに感じられるものが、映像の中にうまく閉じ込めてあるフィルムであると思う(フィルムではないが、そう言いたい)。ある意味、こういう観念的な映画は昔はよくあったのだが、最近はそんなもので興行が成り立つか?問われるのが怖いのか、企画すらないのではないかとも思えるのは残念なところ。その空気感が日本映画、特に実写の質をダメにしている

結果的は、こういうセンシブルな映画がもっと観たいと思うのが私の好奇心であったりもするのだ。何か、少し変わった味わいの映画を見たい方は是非観ていただきたい。上映スクリーンが少ないのが困ったものだし、二週目でもう上映回数も減らされてるものね。とにかく、私的には、後味を引く、なかなかの作品だと思いました。

あと、予告編で「モルダウ」が流れるので期待していたのだが、本編では流れませんでしたね。この映画にはぴったりの曲だと思います。まず、存在も知らない方、予告編を見てください!!


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