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「まともじゃないのは君も一緒」日本的環境下のラブコメとしての秀逸さ

監督、前田弘二 脚本、高田亮 という、怪作「婚前特急」のコンビの新作。そして、ポスタービジュアルのヘンテコさで、この映画は全てが語られる。私的にはかなり期待して観に行った。そして、期待通りの出来の良さではあった。成田凌、清原果耶という主役コンビは言うことなしの怪演。そして、二人の恋愛指南のために使われるカップル、小泉孝太郎&泉里香というのは、それなりのレベルのテイストでピッタリ。この4人の演技がこの映画の8割を決めるわけで、そこが嵌ったところで、この映画の成功は保証された感じである。

とにかく、冒頭から、成田と清原の噛み合わないセリフの応酬。ほぼ、漫才の舞台を見せられているような感じ。ここで、もう観客をしっかり掴んでいる。これ、役者としてもかなり難しいと思う。噛み合わない内容ばかりでなく、普通にオーバーラップしながらの会話になっていない会話みたいなのを延々と続けているわけだ。かなりのテストがあって本番なのだろうが、これをこなしている主演の二人はすごい役者だと感じさせるだけでそれが存在感になる。

そして、このリズムが決まらなかったら、この映画は全く脱線したままにまとまらないのだろう。そう、この会話が成立しているだけ、この二人の相性はバッチリだというわけだ。その基盤となる脚本が圧巻なのだろうが…。とにかくも、冒頭で、映画は見事に観客の目と耳をスクリーンに集中させる。

成田が数学バカという設定は面白いのだが、もう少しわからない数式を並び立てる、ガリレオ的な風景も見たかった。そして、恋愛を成功させる定理を作るみたいのも見たかった気はする。それができたら、こんな不器用な生き方はしていないか?とはいえ、成田凌はこういう野暮な男も普通にこなせるのが、最近のイケメン系の役者とは少し違うところ。まだまだ、色々と隠している感じがあるのも良い。

次の朝ドラヒロインであり、これから露出が増えるのが約束されている清原果耶。昨年の映画「宇宙でいちばんあかるい屋根」では、いわゆる優等生的な演技で映画の中心として存在感を示していたが、今回のようなヘンテコな役もそつなくこなしているのはやはり大したものである。友人のスナックでエナジードリンク10本飲んで、酔っ払っているような雰囲気になるところなど圧巻だ。とにかくも、振り幅が広く、適切に役を自分に持ってくる人だなと感心させられる。そういう意味でも、次の朝ドラ「おかえりモネ」は楽しみだ。

とにかくも、こういうラブコメは心地よい。そして、ハリウッドのそれとは違い、日本の風土の中の恋愛コメディであるところも重要だと思う。高校の仲間の噂話から、ガールズバーで働いていると噂される女子のところに直接そのことを聞きにいく清原のシーンがあるが、これは日本の女子校の村社会があるから面白いシーンであったりする。そして、清原と成田の関係は、予備校での教師と生徒の関係。これも、ハリウッドで作る話ではない。だが、恋愛指南物語というのは、万国共通。まあ、セリフの応酬を翻訳するのが難しいが、海外の人たちがこの映画をどう受け取るか?という部分は興味があります。リズム感の上では、十分に理解できると思うのですがね。

パンデミックでストレスフルで、せちがない世の中だからこそ、こういうラブコメは見ていて癒しになりました。前田監督次回作を楽しみにしております。



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