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「アイ・アムまきもと」今年観た、老人と死を扱う映画の中で最も感動させられた作品

もう、今年もあと2ヶ月半。秋は、色々と映画の公開も多い時期なので、作品を選ぶのも観るのも大変である。まあ、私にとっては秋に限ったことではないが…。基本的に作品情報は予告編とネットの書き込みの目についた物を観ているだけで映画館に行く私である。俳優で観ることもあるし、監督で観ることも、題材で観ることもある。時間が合うか合わないかも重要なところ。そんな中でこの作品「予告編」を見ただけでは、何の映画かよくわからなかった。だから、観るかどうかも悩んでいたが、時間がちょうど良かったので映画館に行った。

そしたら、最後に涙腺崩壊。なかなか映画としての構造も優れてるし、役者たちもすごくハマっている。久しぶりにラストに興奮し映画館を出た。傑作だ!ということで、この映画どういう経緯で作られたのと調べたら、約10 年前に公開されたイギリス映画「おみおくりの作法」の翻訳だという。その映画自体を私は知らなかったが、多分その原作映画自体がしっかりした物なのだろうと感じる。とはいえ、今年は、日本映画、老人や死を扱ったものが多く見られる。その中でもかなり秀逸な作品だ。

主人公は役所の「おみおくり係」。いわゆる身内や引き取り手のない遺骨を始末する係である。この間見た「川っぺりむこりった」で柄本佑が演じていた役と同じである。そう考えると、ラストシーンはシンクロする部分がある。死者をものと扱ってはいけないし、一人一人の人生には意味があるということを2本の映画は考えさせられる 。

監督、水田伸生氏は、阿部サダヲと多くの作品で関わってることもあり、とてもスムーズな映画に仕上がっている。水田監督、テレビ出身の監督なのに、映画というものがすごくわかってる演出ですよね。脚本のうまさがあるとは思うが、とにかく、説明くさくないところがいい。主演の阿部がどんな人物なのか?彼の心の中、彼の不器用なところ、全てを最初の30分くらいで見せていく。大体、この舞台はどこか?みたいな余計な説明は一切入らない。私も、酒田駅のシーンが出てきて、初めて、ここは山形ということがわかった。

とにかく、この主人公は優しい。無縁仏になるだろう遺骨の持ち主を全て探そうとする。優しさと不器用さがこんがらがる感じの演技はさすが阿部サダヲと言っていいだろう。そんな部署に新しい上司が来て、「おみおくり係」は廃止。阿部の最後の仕事として一人の孤独死の男性(宇崎竜童)が浮かび上がる。彼の携帯からは一件のアドレスしか出てこない。そこから、人を通じて親族を探していく阿部。そして、場所場所であまりいい噂は聞かない。それでもめげずに、友人や娘にたどり着く。その過程も、あまり説明がない。観客がそれぞれのシーンの人物を頭の中で繋げていく必要がある。そう、かなりパズルな映画だ。だから、回想シーンなど一切ないわけだ。そこには、写真で提示された宇崎竜童も一切動く姿が出てこない。なかなか今の若者には分かりにくい作りかもしれないが、この手法が観客にどんどん死んだ宇崎竜童への興味を沸かせていたりするのだ。

そして、警察の松下洸平にも言われた火葬のリミットの中で、全てにたどり着く阿部。そして、多くの友人、子供たちが集まってのラストの葬儀シーンに繋がっていく。この辺り、これ以上ネタバラシはしないが、あまりにも儚いが、儚いからこそ、映画的なパワーの照り返しがすごい。人間の人生に無駄もないし、どんな死にも意味があると言われているように私には感じた。

予告編に元ネタがあることを書いてないから、「何だこれ?」になったのと、阿部サダヲの映画なのでこんなに生真面目な映画にも思えなかった。しかし、作り手の皆さんはこの映画、かなり色々考えながら演じたのだろうなと思ったりする。最後、多くの人に見送られる墓所と、無縁仏が安置されている部屋とが同時に映し出されるコントラストは、映画のテーマを見事に語っている。

最後まで見ると、阿部サダヲは天使の役なのであろうと思われる。とても、美しいファンタジー映画として、傑作だと私は思う。

昨今は、パンデミックで死者の人数だけをニュースにするが、生きている人間を数で処理するな!と思うみなさん、一枚のカードで命が軽々しく語られると思っているみなさん、そんなあなたなら絶対に見た方が良いです。多くの人に見てもらいたく思います。


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