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「AWAKE」将棋という静の世界を映画化するということ。AIと戦うことで人は描けているか?

第1回木下グループ新人監督賞グランプリに輝いた、山田篤宏氏が自分のオリジナルシナリオを映画化したデビュー作。なかなか映画としてはしっかりできていた。とにかく、ドラマとなる舞台が将棋という静の世界。「王将」のような有名な話はあるが、それも変わった人間があって成立した話。AI対プロ棋士という構図は面白いが、映画としてドラマチックに描くのは難しいと思って、観た。

主人公の二人の子供時代、奨励会での対戦を見せていくところは、やはり結構、見ていてかったるい感じで、その描き方が少し暗い感じもちょっと大丈夫か?と思ったりした。

だから、大学に入っても「ゴルフ同好会」に入って、飲み屋で将棋が原因で喧嘩してしまうような話が入るところも、後から考えれば「いるのか?」と思った。ただ、将棋のソフトを体験して、人工知能のサークルを訪ね、磯野という男(落合モトキ)にあって、プログラミングを始めるところからは、映画としてのエンジンがかかり、なかなか面白かった。

結果的には、主人公(吉沢亮)が棋士になる道を閉ざされ、自分の道を掴むまでの話である。そう、描いているのは夢敗れた人間の目指すところはどこなのか?というような話。吉沢はそんな人間の心のもつれをよく演じている。考えれば、昨年も「青くて痛くて脆い」も似たような役だった気がする。そう、彼は暗く塞ぎ込んでるような役が多い。あまり明るい役がいかないのは何故なのか?まあ、大河ドラマの主役を演じる事で、この辺りも変わっていくのだろうか?

この映画で一番目立っていたのは、プログラミングを教える役の落合トモキだ。最近の役者には見られなくなった、アウトロー的な図々しい演技と言おうか、勢いのある面白い役を印象的に演じていた。彼みたいな演技が欲しい映画は多いと思う。これから期待!

そういう意味では、棋士になって、吉沢のAIと対戦することになる若葉竜也は、演技的にはもう一つ足りない感じだった。棋士として、吉沢と何が違ったのか?というようなものが見えてほしかった気がする。

それは、映画の中であまり将棋のルールを説明したりしていないことも影響しているのかもしれない。もちろん、プログラミングのことに関しても、詳細がわからなくても楽しめる映画にはなっている。だから、それが物足りなさにもなるのだろう。

対戦前に、AWAKEが一度敗れるというのが、このドラマの肝なのだが、それがあって対戦シーンが面白くなっている。こういう罠的なものがないと、将棋で盛り上がらせるのは難しいですね。そういう意味では、上手い脚本だ。

若葉が、研究して、AIに合わせた対局を行ったというのは、AIの将棋が異端だったからだ。そして、それは「王将」の坂田三吉が異端の棋士だったところに似ている気もした。プロが考えるルーティンをも破るのがAIなのだ。人間的な思い込みや、感情が働かないからそれができる。だから、データを読み込ませれば、このルールが決まった中では絶対に強くはなる。将棋などのルールありきでのAI利用は、未来へ向けての鳥羽口でしかないという事だと思う。

そういう意味では、この映画、10年後にはすごく古臭いものになっているかもしれない。でも、今のAIとの付き合い方が描けているということは、10年後にも貴重な記録である。

結果、ラスト、二人が空港であって将棋に関わるシーンでは「将棋は楽しむもの」という事をいっているのだろうなと思う。そう、たかが将棋なのだ。

なかなか面白かったです。山田監督の次回作、楽しみです。


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