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「バビロン」映画、夢工場、成り上がり、守銭奴、そして夢は彼方へ

あまり、予告編以外の情報は入れないようにして観に行った。全編189分。3時間を超える尺を使う必要性があるほどのドラマはない。だが、監督の映画というものに対する愛情というか、いろんなこだわりをこの映画に封じ込めたかった意思は感じられたし、その時間は映画好きにとっては、結構駆け足にすら見えるとう感じもある。ただ、こういう世界に興味のない人には、長さは感じると思う。ということで、色々この映画、映画が好きな人は情報を入れないで見に行ったほうが感じるところが大きいと思う。なので、これ以降はネタバレ入りますので、ご注意ください。

この映画、1920年代後半に映画がサイレントからトーキーになる時代の撮影所とスターの話である。映画の中では、あまり語られていないが、この当時、アメリカは禁酒法時代である。だから、冒頭でくり広がれるような酒池肉林のパーティーは本当は御法度の時代の話なのだ。そんな中でメキシコからアメリカに夢を持ってやってきた青年役のディエゴ・カルバを中心に当時のアメリカンドリームの一つであろう撮影所を描いた物語。

そして、ラスト、彼が1952年に劇場で「雨に唄えば」を見ているところで終わる。言わずと知れたMGMミュージカル映画。そして、この映画もサイレントからトーキーになる時代のバックステージものである。多分、監督はこの映画をヒントにこの映画の構想を考えたのではないか?そう、その時代の撮影所に夢を持ってやってきた人々を描くことで、「映画」というコンテンツの素晴らしさと儚さみたいなものを描きたかったのだと私は理解した。映画ファンなら、最初のスタンダードサイズのセピアのパラマウントマークが出てくるところで、それを理解するはずだ。

そして、最初の秘密?パーティーのシーンから撮影所のオープンセットを見せていくシーンまでは、畳み掛けるようなカットの応酬。ある意味、デジタル時代が可能にした編集だが、ここだけは、ビデオになったら何度も見返してみたい感じがする。そう、スピード感の中に緊張感がある。そして、役者の役である、ブラッド・ピットとマーゴット・ロビーの人物像を一気に説明してしまってる感じはなかなか素晴らしい。監督は「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル。そう言われれば、冒頭の畳み掛ける感じは同じような観客の飲み込み方である。あと、ムーディーなシーンの音楽も似たようなものに感じた。ある意味、自分の好きなやり方で好きな映画を題材にして撮った映画と言えるのだろう。

しかし、冒頭の象に糞を引っ掛けられるところから、全編、かなりのお下劣なセリフやシーンが飛び交う映画だ。あくまでも、当時の映画界がそんなところだったという空気感を表しているのだろう。それを画的にもちゃんと提示できるのがハリウッド。日本では、まだまだそこに結構なボカシが入るのは、よくわからない。

撮影所に急遽入ってきて女優開眼するマーゴット・ロビーのシーンはなかなか面白かった。涙の出し方、彼女、本当にできるのでしょうかね?そして、乳首が立ってることが女優として有利的な感覚も、モノクロサイレントの時代から映像にポルノ的なものが求められる話。とはいえ、マーゴット・ロビーは洗濯板である(この言い方、最近は言いませんね。洗濯板がないからか)。で、彼女、少し人気が出ても、パーティーの会場でゲロ吐いたり、最後の最後まで、気性も変わらないし、お下劣な感じのままで芸能界を貫く。昔は、こういうスターもいたということだ。ただ、役がこうだと、もう一つ彼女の代表作にはなりにくい感じはする。少しかわいそうだなと思った。

ブラッド・ピットも、サイレントの時代はスターだった彼が、トーキーになって、映画館で笑われる存在になり、最後は自殺してしまう役。あまり、2枚目という役回りではない。まあ、ここで出てくるスターたちは、使い捨てられダストにされた人々だ。それもまた映画界ということなのだろう。

そう、監督は、当時の映画界の華やかさよりも、混沌とする中で浮遊したスターたちへこの映画を捧げ、そして、映画を愛する人のためには、思いっきり豪華でお下劣なパーティーに招待しようという感じでこの作品を作ったのかもしれない。

単純に言えば、かなり楽しかった!ある意味、酒を飲みながら観たい映画である。そして、ラスト、「雨に唄えば」を観ながら、黄昏るディエゴ・カルバは、映画を観ている映画ファンのあなた自身だみたいな空気感がとても愛らしいエンディングではあった。

で、最初に「版権の都合で字幕が出ないところがある」という注釈が入ったが、最後の「雨に唄えば」のところですよね。歌詞を日本語の字幕に落としたところで、追加のお金がかかるということでしょうか?

付け加えると、ジャスティン・ハーウィッツの音楽は久しぶりにサントラが聴きたくなるレベル。帰ってAppleMusicで何度もリピート。これがあるだけで、この映画評価してしまうところはありますね。



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