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「アイドル」私の知らない新宿と、ムーラン・ルージュの風車と、華麗なる舞台と・・・

この題材、絶対に私が映像化して欲しかったものだ。映画「ムーラン・ルージュの青春」で、ドキュメントとしてその概要は知っていたし、多くの俳優や演出家を輩出した「ムーラン・ルージュ」というみたこともない空間に入ってみたくて仕方なかった。だから、こういう形でのドラマ化はとても嬉しい。そして、主役は明日待子。しかし、この芸名も当時としたら、かなりハイカラに見えたのだろう。新宿で、学生たちが夢中になってここに通ったというのもわかる気はする。

そう、ここに表現されるものは、あくまでも空想だ。明日待子自身も2019年にこの世を去っているのだから。ムーラン・ルージュの存在、その舞台を記憶に留めている人は、ほぼ現在皆無だろう。その中で、残された資料と空想で描かれた空間としては、なかなか素敵なものができたと思った。

主人公を演じる、古川琴音は、今、25歳だが、明日の15歳のデビューから演じているわけだ。なかなかのベストキャスト。まあ、顔の雰囲気が似ているということもあったのだろう。なんとなく、当時の「アイドル」の空気感みたいななものがみてとてる気がした。実際、舞台だけでなく、多くの当時の広告にも露出している彼女。新宿のスターという域は大きく超えていたのだとは思う。そして、確かに戦争との関わりも大きいだろう。

学徒出陣の日のレビューが本当にあったかどうかは知らないが、なかなか感動的で虚しいシーンが描けていた。慰問に行って歌うシーンもそうだ。彼女はそんな時代を精一杯生きて、アイドルとして存在していたということがドラマからまず伝わればいい。戦時中の音楽劇としては、それなりに成功という感じには見えた。

だが、何か色の多い新宿、舞台の照明の明るさは、確実に嘘である。ある意味、街の中が、茶や紺の色合いだったからこそ、レビューの原色の衣装は映えたのだ。そこのところをもっとリアルに描けば、もっと、戦争の虚しさや、この「ムーラン・ルージュ」が流行った意味的なものが見えてくる気がする。そして、いつの世もアイドルは必要だということも。

あとは、あまりに「ムーラン内部」のことにフォーカスを当てたことで、日本の空気感全体がうまく伝わらない感じになってしまっているのが惜しい。待子の恋人の日常や、戦地で待子を支えに戦うものとか、新宿周辺の空気感みたいなものをもっと入れてもよかった。そう考えると、新たに「ムーラン・ルージュ」という映画を撮っていただきたいと思う。戦争の虚しさを表現するには、十分な題材だし、「アイドル」というフラグは、今の若者にも明確に問いかけてくるものがあるだろう。

まあ、言いたいことは多々あるが、それは、ステージの演出や、主人公の存在感がしっかり映像から出ていたから、もったいないと思ったところだ。BS放送版は少し長いバージョンらしい。なぜに、NHKはそういうことをするのか?コンテンツの放送の仕方としてそういうのは私は好かない。いくつもの完成版があることになんの意味もないからだ。

ラスト、美空ひばりが、明日待子から、バトンを受け継ぐような場面がある。確実にフィクションだと思う。そして、私の触感では、明日と美空は、アイドルという切り口でも全く違う気がする。時代の流れみたいなものを表したくて、このカットを入れたのだろうが、なんかしっくりはこなかった。

そう、明日待子とは、この時代のアイドルとはなんだったのか?そういうものの表層だけではなく、もっと深く抉って、彼女が活躍した時代を描いて欲しかったというのが、観終わった後の感想である。

ショー部分が、一部、NHKのYouTubeに流れている。今回のパンデミックもあり、こういうショーができる時代は、とても貴重であるということがわかる方は多いだろう。そういう意味を持っても、今、作られて意味のあるドラマだと言えると思う。再度、言う、この題材、もっと広範囲の日本を描きながら映画化していただきたい!


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