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「フェイブルマンズ」自伝的な映画に関する映画かと思ったら家族を描いた映画だった

身近な色々な出来事と、WBCを見ていたこともあり、1ヶ月以上映画館から遠ざかっていた。その中で、映画館も元のフリーダムな状態に戻りつつあるようだ。そして、予告編を見てもそれなりに作品の数は揃いつつあるようにも感じる。そんな中で、先に終わってしまいそうな作品から見ておく必要もあり、まずはこの作品を観る。スピルバーグ作品は最近は、昨年の「ウェスト・サイド・ストーリー」にしても大ヒットにはならず、この映画のように地味な雰囲気なものはなおさらである。とはいえ、小さな箱で日に1、2回の興行ならそれなりに人は入っていた。

で、予告編を見たときに、この映画はスピルバーグの映画愛みたいなものたっぷりの作品かと思っていたのだが、そうではなかった。彼の家族に関する話だったのだ。それが、好きな映画とあまりシンクロしているとは思えないところで、私は今ひとつこの映画自体には乗れなかった。そうは言っても151分それなりに見せてしまうのは、スピルバーグ映画ではある。この後、ネタバレあります。ご注意!

最初からネタバレだが、ファーストシーンは、彼が映画を初めて見た時の話から始まる。映画は「地上最大のショー」。そして、ラストは映画関連の会社に採用され、そこでのジョン・フォード監督との出会いで終わる。あくまでも、彼が映画というものに出会ってから、その世界に足を突っ込むまでの物語であり、彼が若い頃は人間として生きることにかなり苦労したというお話。そう、彼に好きな映画というものがなかったら、本当に大変だったという話だ。

そういう中で、多くの時間を彼の両親の仲や、彼らがどうした?だったかみたいなことに費やしている。そして、中盤からはアリゾナからカリフォルニアに引っ越した彼が、高校生活をうまくできなくて、いじめに遭っていたという事実が主に描かれる。そういう過去がスピルバーグにあったということはよくわかるが、私たちはそんな話が見たいとは思わない。特に映画ファンであるなら・・・。

そう、彼が8mmに興味を持って、それで映画を作ることを覚えるところはなかなか面白い。「地上最大のショー」で見た列車転覆のシーンをおもちゃの列車で撮るというもの。そして、少し大きくなってフィルムを編集して映画にしていくことに興味が湧いていくシーンは、それなりにこの世界を知っているものにはワクワク感がある。ここで、映画とは何かを主人公は発見するわけだが、そのあとはそういう事への興味よりも、両親の仲の問題に苦しんだりする方の話に重きが置かれていく。

コンピューターの研究を主業としている父と、ピアノがうまく芸術家肌の母。考えれば、このベクトルが違う夫婦がうまくいかないという話はよくわかる。それに苦しむ主人公なのだが、彼のDNAはこの二人からのギフトであり、そういう意味では、スピルバーグ監督はサラブレッドなのかもしれない。その血が開花するのは、彼自身の興味に対して真摯に向き合ったからだろう。

母の浮気に対し感情的になったり、学校でのいじめに精神を病んだりしても、映画という興味が彼の心を震わせたみたいなことが描きたいのはわかるが、自分史を作る上でのテレなのか、映画というフラグが結構、端の方にあるのが、今ひとつ観客が求めてるものとは違う作品になっていってしまったようだ。ある意味、母の浮気の話も、学校での話も、断片的なものの組み合わせであり、そこに映画撮影のワクワク感がシンクロしていかないのが難というところ。彼の初恋とそれに敗れるシーンが入ってくるが、この辺はよくあるアメリカンハイスクール話であり、スピルバーグがこんなもの撮っちゃう?みたいな感じもあったりした。

とはいえ、その中で挿入される映画の撮影現場のシーンはなかなか面白い。若い時から、ある意味彼が本質的に映画監督だったことはよくわかる。こっちサイドのアイデアを出すところとか、映画を紡いでいく心象風景みたいなものがもっと見たかったですね・・。

そんな、今ひとつもどかしい映画なのだが、ラスト、映画会社に就職できることになり、ジョン・フォード監督に遭遇するというシーンは、この映画の中でもっともサプライズでアグレッシブなシーンだ。監督は、この出発の日を描くために、この映画をとったのだろう。そう、その縁は決して偶然ではないとスピルバーグ監督は思っているのではないか?人生の必然性みたいなものがそこに見えてくるこのラストは、愛すべきシーンであった。


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