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「アンダードッグ 後編」地べたを這う人々を描いているのに、最後はすごい高揚感!映画を観たという体感に酔える4時間半

早く後編が観たいと思うも、上映回数が少なく、前半を観てから中4日経ってしまった。だが、後編は予想を遥かに超えたところに私の心を連れて行った。なんだろう、映画を何本も観ているのに、初めて味わうような体感の4時間半だったのだ。長いということはないし、物足りないくらいだ。そして、結末の高揚感はかなりすごい。「ロッキー」のようなハリウッドテイストではない、全体がものすごく有機的な日本のボクシング映画に仕上がっている。多分、今、コロナ禍で地べたを這うようになった人がみたら、「もう一度」と思わすだけの力量にある映画である。

後半は、ボクシングシーンが出てくるまでに時間がかかる。その間に、気持ちが落ち込んだままの森山の傍で、周囲の人々の生活が崩れていく。デリヘリ嬢の瀧内公美だったり、デリヘリそのものだったり、そんな中で森山も妻の水川あさみから離婚届を突きつけられ、愛すべき息子との絆も怪しくなる。そんな、周囲の人々がしっかり無駄なく描けていることでこの後編はとてつもなく有機的に、先のない未来の見えない人々がどんどん増える日本の現実も見せつけられている感じだった。端役でしかないと思っていた熊谷真美に泣かされるとは思わなかった。

そして、北村匠海の素性もここで開示され、彼もまた過去に犯した罪でボクサー人生の未来を閉ざされる。そう、行き場のない北村が、過去の精算のために、いや過去に自分が「格好いい」と思った人にエール(映画では引導としているが…)を送るために?森山未來に最後の対戦を申し入れるという構図。とは言っても、そこに説明できる意味などない感じがいい。とにかく、先に生きるための試合なのだ。

試合が決まってからのトレーニングシーン、そして8回戦を余すところなく伝える試合のシーンは、とにかく興奮した。結果がどうなろうと関係ない。それこそ、負けても格好いい試合がそこに繰り広げられる。前編でも書いたが、汗と血が舞うリングに観客が連れて行かれて殴られる感じがとっても痛い!

そんな、シンプルなボクシングドラマの舞台がスカイツリーが見える下町なのも効果的だ。そして、この映画、音楽の入れ方がたまらなくいい。日本映画離れした音楽効果である。観客が出ている人々にシンクロできる音がさりげなく使われている。あくまでも、映画の音だ。セリフで説明するよりも、音と光と影が人の心を訴えてくるのだ。

そして、なんと言っても、森山未來の演技は、今年の日本映画にあってベストアクトと言っていい。押しつぶされた男が、見えない糸にひかれて、人生の厳しさを再度知るだけの役なのだが、終わった後、本当に格好いい役だ。

ラスト、森山の走る後ろ姿が映る。監督はこのシーンを撮るためにこの映画を撮ったのか?そう、未来を感じるラストシーンはとても心地よかった。

とにかく、内容が重いのに爽快感がある映画。こういう作品を生まれて初めて観た気がする。そして、脇役全てが生きているのは、スタッフキャストの勢いが産んだもののような気がする。

この時期の上映、そして上映舘の少なさからみて、始まっている賞レースにはあまり存在も出てこないだろうが、私は今年、映画館に行って最も熱くなった。あくまでも、映画館で観ることで個々の人生の中のいろんなものが浮かび上がってくる作品である。このコロナ禍で、地べたを這っている人たちに観ていただきたい。希望をみつけられるFightがそこにあった。

いまだにラストに流れる、石崎ひゅーいの主題歌「Flowers」が頭の中をリフレインしている。

この映画に巡り会えて幸せでした。


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