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「キッチン革命」二人の女性を主役に台所の革命を描き出す妙味

監督は豊島圭介、脚本はあの羽原大介。多分「ちむどんどん」の後で初のドラマではないか?とんでもないものが出てくるか?と思ったら、かなりちゃんとした脚本だった。やはりあの朝ドラがああなったことには語れない秘密がいろいろあるのだろうな?と勘繰ってしまうのは私だけか?まあ、過去のことは彼も忘れたいのだろうから、今後は良い作品を産み出していただきたい。

そして、このドラマ。日本におけるキッチンという主題を、二人の歴史上のモデルから見ていく作品。一人は「女子栄養大学」の創設者の香川綾。そしてもう一人は、日本で初の女性一級建築士の浜口ミホ。その二人が、戦後の焼け跡で偶然出会い、そして、浜口のキッチン設計により、再会するというのは、多分フィクションにも感じられるが、なかなか二つのドラマをつなぐには良いシチュエーションだったと思う。

まずは、第一夜の「香川綾編」。主役は葵わかな。彼女が後に薬師丸ひろ子になるという設定だが、同じような丸顔で違和感がないのは良かった。葵が女の医師として逆風に悩まされながらも、胚芽米を病院食にして脚気を直していくところは興味深かった。戦前に、栄養学的なものを医療に積極的に取り入れようとして、その胚芽米の味の改善ということを追求するというのは目の付け所が面白い。つまり、多分、当時の医師は、今でもそうかもしれないが「薬は苦いもの」という概念があっただろうし、飯がまずいなどという患者の声をなんとかしようとしたとは思えない。そんな中で、家庭の食事を変えて未病対策にしようとしたのは、今でも通用する概念である。その末に、「料理カード」というものを発明し、料理用の計量カップというものも開発したという。つまり、今のレシピサイトの原点がここにあるのだ。

彼女が数が好きだったということもあるのだろうが、そういう基本的な感覚と実験好きが、料理の世界を変えるという摩訶不思議さが面白い。私は料理を化学と考え、そしてものづくりと考えているのだが、確かに数学でもあるわけだ。その彼女の戦前に行ったことが今に生きるというのは本当にすごいこと。

また、戦時中の食糧のない中でも、栄養を考えていたというのは、もはや頭がさがる。しかし、彼女がやったことが日本に広がる状況ではなかったのだろう。戦争は人を殺すためだけに科学が使われるわけだが、生きるために科学していた人もいたということなのであろう。

そして、第二夜は「浜口ミホ編」。彼女もまた、女ということで周囲には疎まれていた一人だと思う。今もあまり感覚は変わらないが、今に比べたらかなりの進歩なのだろう。そして、彼女が当たった事業が、公団住宅のキッチンの設計。男たちを使って4畳半のダイニングキッチンの導線を実験するところは面白かった。そんな中で天井からの収納棚や、動きが少なくて済むステンレスの流し台ができるというのは、なかなか興味深かった。これらは今の日本の住宅にも盛り込まれているものだし、そこに一歩踏み出すのにこれだけの苦労があったということはすごく大切な歴史の記憶だと思う。

そして、この浜口を演じる伊藤沙莉が抜群の演技力を示している。ひよっこで米屋の娘を演じてる時から考えたら雲泥の差だと思う。明らかに、いろんな役をこなしてきた中の自信がそこに感じられるわけで、これは素晴らしいことである。来春からの朝ドラ主演が決まっているが、もはや彼女を主人公にすることで成功しかないだろうと感じさせる。

そして、部下のような課長の成田凌とのバランスも見事。というか、成田はいろんな女優さんと組んでもうまくそこに嵌っていく雰囲気を出すのが上手い。その周囲にいる、尾美としのりや寺島進などとのやりとりもなかなか良かった。役に説得力をもたす演技の伊藤であった。

多分、この主人公二人は、今までの朝ドラの主人公の候補にもなっていたのではないか?そう、あまり知られていないこういうパイオニアの話をNHKが放っておくわけもない。まだ、今後、そうなることもあると思う。はじめに戻るが「ちむどんどん」みたいなもの作るのなら、こういう歴史の勉強になるようなものを作っていただきたいと思うわけだ・・。

とにかくも、なかなか面白かった。クックパッドのルーツが戦前の医療にあったとは本当にびっくりであった。


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