見出し画像

「ハケンアニメ!」吉岡里帆を中心に役者4人の演技で締まった映画になった!

最近は、若い女優さんたちの演技に唸らされる。この間、「流浪の月」で広瀬すずの代表作ができたと思ったが、今回は吉岡里帆が彼女自身最高の演技をしていたと感じた。国立大を出て公務員をやっていた女性がアニメ会社に入り、その七年後に監督として、アニメ界の巨匠とテレビの同じ時間でハケンを争うという話である。自分がアニメを見るきっかけになった監督と争う。その、震えと、高揚感、そして監督として歩む中でさまざまな成長を果たす姿を、まさに全身で演じていた感じ。ラストの彼女の気持ちが映像の向こうから確実に観客に届く感じだった。

考えれば、吉岡里帆という人を私が知ったのはNHKの朝ドラ「あさが来た」だった。あの時も、メガネ姿だったが、今回もメガネ姿が印象的な地味で強気で、結構繊細な女性を本当に強い印象で演じていた。私的には、今年の主演女優賞を広瀬すずと争ってる感じである。まだ、今年半年も経たないうちにこんなこと言えるのは、何か嬉しい。

で、本編は、その新人監督、吉岡と、彼女の憧れのアニメ監督中村倫也の同時間放映でのハケン争いに火をつけてから、結果が出るまでを描くわけだが、映画的にその構造が変わっているわけではない。時にドキュメント感みたいなものも含めながらドラマが進んでいくので、メイキングに近い作りではある。そういう意味で、そんなに「作品です」的な概念で作られていないことが今風でもある。そして、もちろんのこと、アニメ本編も挿入されていくわけで、その辺の塩梅みたいなものをかなり考えながら作ったということは伺える。制作の中に、東映、東映アニメーション、東映ビデオが並んでるというのもかなり珍しいことだと思う。映画自体が合体ロボットのようなものなのだ。そう考えれば、かなりうまくまとまっていると感じたりもする。

ただ、この映画をある意味、迫力あるものにしているのは、アニメの画よりも、主役4人の有機的な芝居である。「ものつくり」の苦悩、楽しさ、夢のありか、みたいなものが彼らから滲み出てくるのだ。そして、組織のあり方や、未来に向けてどう、人を育てるのかまで…。

まずは、吉岡里帆。なぜに先に「朝が来た」という名前を出したかというと、化粧っけのない姿で一生懸命に立ち回る彼女の姿が、その初心に帰った見たいな演技に思えたからだ。女であることで、グラビア撮影などもするシーンもあるのだが、髪をバサバサにして、仕事に打ち込む彼女にこそ色気が漂ったりする。こういうの見ると、もはや「女の顔も履歴書」なのかな?とも思う。仕事に打ち込むというのは格好いい人間を作るということなのだなと認識できたりするわけだ。そんな中で、エクレアにこだわるシーンが何回か出てくるが、こういう女の子っぽいシーンとの抑揚もすごいバランスが良かった。最後に柄本にいちごのエクレアをもらって「チョコじゃないの」と叫ぶシーン好きです!あと、声優に嫌われ、また彼女を知り近づくシーンなども、すごい印象的。そう、尾野真千子とボクシングから銭湯で話すシーンも良いですね。

その尾野真千子。もう、本当に安心して演技を見ていられるし、いつもこちらを唸らせる彼女。彼女の演技が吉岡をまたすこぶるいい演技者に持って行っているとも言える。中村倫也とのやりとり、会社の上部とのやりとりも、自然にこなすし、秩父の下請けに頭下げにいくシーンも、仕事ってこういうことだよね、と観客に思わせる凄み。彼女、こういう感じで組織で仕事などやったことないはずなのに、ちゃんとそれになっている。女優さんなら当たり前のことだが、いつも感心させられますよね。そして、中村倫也とのバランスもよかった。

その中村倫也。いつものような倫也節見たいな演技なのだが、もう一つ巨匠感があってもよかったかな?とは思う。でも、ものつくりに没頭する姿は美しかったし、吉岡が気負って、彼と対談するところ。そして、第一回が終わって、彼が吉岡にエールを送るようなところなど、愛情が込められている台詞回しは、この映画の空気感を作っているとも言えた。この映画の監督の吉野耕平とは、「水曜日が消えた」でタッグを組んだ仲。そういう見方をすれば、中村の演技にも成長が見られる。

で、クレジット後に印象的な一人芝居して、全てを持っていく、柄本佑。彼もまた、こういう内に本物を秘めて、若い人を育てるような芝居をしたのは初めてではないか?こういう、部下に少しわかりにくい仕事の本質を教えられる人って大切である。彼の役、今の日本にこういう人が必要なのでは?という定義でもあったような気がした。そう、まあ吉岡にはそっけなく当たるのだが、上からしっかりと全体を俯瞰しているような感じがとてもうまく出ていた。彼が映画賞を賑わすのはいつものことだが、今年もそれは健在だと見せつけている。

そして、ある意味、過酷なアニメ制作現場もそれなりに描いているし、そこに夢を見る男たち、女たちの姿も、なかなか臭いまで込めて私たちに提示されている。最近、売り出し中の小野梨花、神絵を描くというアニメーターだが、なかなかの好演。リア充の男、工藤阿須加の心がわからないところなど、面白かった。

ネットにも書かれていたが、アニメ制作において、視聴率、DVDの売れ行きという指標は、もう今はそれほど問題ではない。原作が古いのは確かだろうが、仕事に対する魂の込め方みたいなものは変わらず必要な事象だ。そんな、形に表せないものを演者たち皆で、すごい素敵な形で提示していただいた感じだった。

残念ながら、興行的にはかなり辛い感じである。平日の昼間、数人でスクリーンに向かった。内容的に高い年齢層に興味を及ぼしていないのと、肝心のアニメファンは、実写映画を見るほどの暇はないということか?視聴率を競う話なのに、興行成績が悪いとは、皮肉である。もう少し宣伝の仕方考えないといけなかったのではと思ったりする。すごい勿体無い。今、仕事で悩んでいる人、ものつくりの仕事につきたい人など、この映画を見て感銘する人が多いと思う。

とにかく、おすすめの心が昂る映画です。興味ある方は劇場に急いでください。多分、そんなに長い興行は期待できない。

最後に、吉岡里帆のこれからの演技にさらに注目させていただきます!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?