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選手のやる気を引き出す3つの方法

・はじめに

このnoteにアクセスしていただきありがとうございます。主に小学校から高校までのジュニアに向けて陸上中長距離の指導をしています。今回は選手のやる気を引き出す3つの方法というテーマで書きます。

前回の記事で内発的動機づけと外発的動機づけについて解説しました。今回は、どうやって選手に内発的動機づけをさせていくかについて、持論を展開したいと思います。

・内発的動機づけの大前提

前回参照した名著『モチベーション3.0』では、内発的動機づけをするためには「自立性」、「マスタリー(熟達)」、「目的」が必要だと書かれています。しかし私は今回この話はしません。もっとそもそもの話をします。そもそもこれができていなければ、内発的動機づけで選手を動かすのは難しいという前提が私にはあるのです。内発的動機づけのために大前提となるもの。

それは、「安全な環境を作る」こと

日本人は(というか私が感じる世間は)同調圧力に支配されています。「みんながやっているから」が選択の理由として成り立ちます。この選択は自分の意思がなく、他人からの刺激(実際は妄想)によって決定されています。このような環境下だと自分の意思を主張するのが怖くなり、思うように自分を出せなくなります。内発的動機づけが発揮されづらい環境になるのです。

特に中学生になるとその傾向が顕著に現れます。小学校まではどんな練習でも前向きに取り組んでいた選手が、中学校に上がった途端「だる」とか「えーやだー」とか言い始めることがよくあります。本当は頑張りたい気持ちがあるのに、周りの自己肯定感が低い友達に感化され、失敗する怖さも覚え始め、予防線を張るようになります。これを私は「中二病」と呼称しています。

ですので中二病を発症しないように、「ここはその頑張りたい気持ちを発揮していい場所だよ」「君の本心はチームとっても、君にとってもとても大切なものなんだよ」と伝えることが大切です。

そんな安全な環境を作るために3つの方法が今回のテーマです。

1.認める

 「認める」ことは選手を一人の人間として認めること。選手の主張を認めてあげることです。一つ体験談があります。

 私は指導を始めたばかりのころ、高校生の指導をしていました。その日は男子が10kmjogを4'20/kmという練習でした。全員が普通にできる練習です。そんな中でTくんが6kmぐらいで辞めました。

マシュ「なんで辞めた?」

Tくん「気分が乗らなかったからです。」

マシュ「は?やる気ねぇんだったら帰れ。邪魔だ。」

Tくん「(´-ω-`)」

 一応関東の大学で箱根を目指すレベルではやってきていたので、気分が乗らなかったから練習をやめる気持ちや考えが、私には全く分かりませんでした。”ふざけて言ってるんだなこいつ”と未熟な私は一方的に判断しました。その結果のこの言葉です。マジでこれでやる気出してくれると思って悪気なく言ってましたからねw 今の私からすれば自主的な選手を育成しようと思って、この対応は絶対にありえないです。選手が委縮し、怖がって自分を出せないどころか嘘をつき始めます。

 Tくんはその後も練習には来ましたが、意欲が低く、あまり成果はでませんでした。その後私がメンタルを勉強してアプローチを変えたことによってだいぶ前向きに取り組んでくれるようにはなりましたが、この部分だけ切り取ると完全に失敗でした。

いまならこう対応します。

マシュ「お、どうした?何かあった?」

Tくん「気分が乗らなかったです」

マシュ「気分乗らなかったのかー、そういうときもあるよな。足の痛みとかではないの?」

Tくん「足の痛みとかではないです。」

マシュ「そうか、それはよかった。でもさ、ここで辞めてしまうのって俺はよくないと思うんだよな。どう思う?」

みたいな感じですすめますね。大事にしていることは、肯定も否定もせずまず認めることです。

2.目線を下げる

 選手の目線に寄り添うこと、加点方式を貫くことです。

 目標が100であるとして、ダメな部分があれば減点していく方式、これが減点方式です。当然、指導者の期待が100からスタートしているので、ここに到達していなければ指導者の期待を裏切ることになります。そうなるともちろん怒られます。自分の高い目線にいかにして引き上げるかが減点方式であり、外発的動機づけの手法のひとつです。選手にとってはミスが許されないので、指示を忠実に聞きますが、挑戦はしづらい環境です。

 一方、加点方式は0から初めていい部分を加点していく方式です。指導者の期待が0からスタートするので、ちょっといい走りをしたりすると指導者の期待以上にとなるため、より期待を込めて指導ができます。目線を下げるとはこの加点方式で行うことです。自分がプラスになることをすればそれが評価されるので、選手は進んで挑戦しようとします。

 加点方式で気を付けるべきは、目線は下げるが、目標を下げないということです。0から始めるので10をゴールにしよう、ではなく、0から始めても100をゴールにすべきです。ゴールが違えばそこにたどり着くための道筋が変わってしまいます。10の道筋では10までしか到達できません。

3.失敗をしてもよいと伝える

 失敗を怖がる選手は非常に多いです。失敗を怖がるひとは実は周りの目を気にしています。自分が悔しいから失敗を怖がる人よりも、失敗をしたら周りからどう思われるだろうと考えて、失敗を怖がる人の方が圧倒的に多いです。他人の目を気にして、失敗しないようにする、これこそ外発的動機づけです。

 私はことあるごとに、「失敗してもいいから挑戦しよう」と伝えています。普段からあまり怒りませんが、挑戦した上での失敗で怒ることはほとんどありません。というか必要を感じません。いい点、悪い点をただ淡々とフィードバックすることを心がけています。これを伝えるようにしてから、選手からの「こうしてもいいですか?」「これやりたいです!」という言葉が増えたように感じています。

・まとめ

 内発的動機づけのために、大前提として「安全な環境」をつくることが必要。そのための3つのこと。

1.認める

2.目線を下げる

3.失敗をしてもよいと伝える

・補足

 さんざん内発的動機づけを推奨してますが、内発的動機づけと外発的動機づけ、どっちがよいか、どっちにするかというより、使い分けが大切かなとは感じています。そのバランスは指導者やチームの環境、種目特性などによると思います。私のように内発的動機づけを主体としてやっていても、外発的動機づけ効果的な場面はあります。(前回の記事にちょっとその話を書いてあります。)

 未熟な選手が集まる小中高を前提としています。自己肯定感が強い競技力の高い選手を獲得できる強豪校や大学・実業団の場合は異なる部分が多いと思います。ですが、故障していたり、うまく走れなかったり、プレッシャーに負けそうになったりしている選手には、効果的な部分があるかもしれません。


今回も最後までお読みいただきありがとうございました。


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