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蟷螂の脚

Contents エッセイ 暗黒の森 愛しい人


こんにちは。
一ノ瀬 瑠奈 / イチノセ ルナです。
来てくれてありがとう。
気ままにエッセイを書いてます。
少しの間お付き合い頂ければ嬉しいです。


宣戦布告。
異国の地で戦争が始まった。
日本人と現地住民。
些細なことがきっかけで、ドンパチが始まる。
投石やロケット花火が飛び交う。
この戦争は七日間続いた。

戦争の傷はそう簡単には癒えない。
重傷者は苦しみ、死者はもう帰ってこない。
日本人は現地住民を恨み続け、現地住民は日本人を差別する。

きっかけは文化の違い。
現地住民はお釣りからチップを貰うのが当然だとしているが、真面目な日本人はそれを許せなかったのだ。
日本人は料金は商品の対価として支払うもの。
現地人は労働の対価として付加価値を頂く。

戦争の始まりは些細な文化の違いだ。

戦争から数年が経つ。
国交が復活し始めたかのように思えたとき、とある事件が起こる。
日本人宅に大量の蟷螂の脚が届いたのだ。
脚を失った現地人からの怨念。
戦争が終わっても、失った脚は二度と戻ることがない。

箱いっぱいに詰め込まれた蟷螂の脚。
一人や二人で詰め込まれるものじゃない。
日本人グループは、送り先を調査することにした。

古ぼけた廃ビル。
住所すらあるが、誰も住んでいる気配がない。
鍵は開いており、窓ガラスにはヒビ、地面には苔が貼りついている。
恐るおそる中に入ってみる。

昼間だというのに中は薄暗い。
ビルのヒビから流れ落ちる水の雫が、カビの匂いを誘う。
反響する声。
一階は何もない埃だらけのフロア。

二階へと足を踏み入れる。
コンクリートの冷たい階段をのぼると、何やら魔法陣のようなものがフロア全体に描かれている。
赤とも黒とも言い難い色で描かれたその複雑な魔法陣は、本能的に死の恐怖を感じさせる。
大量の蝋燭の残骸が不気味にこちらを見ている。

二階には小部屋がいくつかある。
手前の部屋に入ると異臭がする。
動物の死骸が放置されている。
蠅や蛆が沸いている。

真ん中の部屋に入ると、蟷螂の残骸がある。
脚がもぎ取られた無惨な姿で、床に大量に散らばっている。
蟷螂の脚はここからきたようだ。

奥の部屋に行ってみる。
何やらうめき声が聞こえる。
小さな女の子が手足を縛られ口を塞がれている。
現地の子だ。
恐怖に怯えた目で何かを訴えてくる。

殺される。
魔法陣の生贄にされる。
現地の言葉で必死に訴えかける。
衰弱したその女の子を抱きかかえると、その部屋を後にしようとした。

静まり返ったフロアに出ると、百名を超えよう現地住民が黙ってこちらを見ている。手には錆びついた大鎌。動物を解体するときに使う金属製の大きなボウル。そして、肩にかかる大量の注射器。
その光景を見た瞬間、この場での死を覚悟した。

沈黙のまま魔法陣の周りに集まると、男女みんな全裸になる。
ひざまずき魔法陣の中心に置かれた女の子に祈りを捧げる。
囁くような祈りから、次第にそれがビル全体に響き渡る呪文へと変わる。
魔法陣にいる女の子は恐怖で塞ぎこむ。

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