見出し画像

バジリスク

Contents エッセイ 暗黒の森 愛しい人


こんにちは。
一ノ瀬 瑠奈 / イチノセ ルナです。
来てくれてありがとう。
気ままにエッセイを書いてます。
少しの間お付き合い頂ければ嬉しいです。


エチオピア。
アフリカ最古の独立国で、現存する最古の独立国のひとつ。
重債務国で最貧国。
農業で自給自足の生活を送るが、干ばつによる全滅も珍しくない。

エチオペア人には名字はなく、自分の名前、父親の名前、祖父の名前の順で名乗るのが常識。
この男性の名前はアベベ。
妻を失った哀れな男だ。
妻の腹の中には幼子が眠っていたという。
家族三人で幸せを掴むというときに、悪夢は襲った。

あれは三年前の夏の夜だった――。

首都アジスアベバから北に進むとラスダシャンという山がある。
エチオペア最高峰として有名で、新婚旅行でどうしてもツアーに参加したいというのだ。
妊婦には辛いだろうと説得したが、意志は固いようだった。

ツアー当日。
念願のラスダシャンを前に、妻は満面の笑みを見せる。
躊躇っていたが、妻の満足げな顔を見ると、悩みが噓のように消える。

ツアーバスを降り、山道を歩く。
妻を気遣う姿は、まるで卵を運ぶ親鳥のようだ。
日が暮れてくると、ガイドがテントを立ててくれた。
山の夜は冷える。
テントの中の暖房器具を二人で囲み、身を寄せ合う。

夜中にふと目が覚めると、妻がいない。
外の空気でも吸っているのだろうか。
それともトイレにでも行っているのだろうか。
心配になった彼は、テントの外を探すことにした。

ここから先は

665字

一ノ瀬瑠奈ファンクラブ~月の灯~

¥500 / 月
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?