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八月の短歌


通えども通えども青唐辛子 自炊20年 卓上のレシピ

スーパーに20年以上通っています。料理は好きな方ですが、青唐辛子は買ったことがありません。サルサ・メヒカーナを食べてみたい。

湯気かき分け 蒸篭からの良い知らせ 光の玉ねぎ 開かれている

蒸篭って、賃貸の台所では場所を取るけれど、本当によくできるこ。最近はポテサラもいっぺんに作れるって知りました。中でもよく作るのが、半分に切っただけの蒸し玉ねぎ。
神々しい玉ねぎが、「いのちを大切にしよう、生活を大切にしよう」と言っている。言葉にしてしまうととても陳腐だけど、シンプルにそれだけなのだと思う。

カーテンに爪先「エイヤ」って伸ばして 夏をころころ転がしている
光の重なりで日傘洗う みどりよみどり踊れ トパーズの肌で
出入口 水漏れ注意のA4用紙 呪いを解くよ 日傘廻し
三日間 開けっぴろげの仏壇で「そない頑張ったら来んでええ」
半月の竹をふみふみ散歩道 日傘はコメダのカウベルの音

今日は一歩も外に出ていない。色んな珈琲店を巡って、色んな味に挑戦してみようと思ったけれど、コーヒーの味なんて覚えなくていい今世、と思った。

「々」は「どう」で出ると 佐々木が教えてくれた 消えた二文字が積もりに積もって

「々」と打ちたい時、あなたは何と打っていますか。日々でしょうか、諸々でしょうか。私は「佐々木」と打っていました。

スリッパの裏に注射跡のシール 夏の間もよくがんばったで賞

一体、今まで何本の注射を打ってきたのだろう? ゆっくり体を起こしてスリッパを履く。本当に「がんばって」と言ってあげれるのは、自分だけ。ゆっくり復活したらええねん。入院中、コンビニの美味しいコーヒーを飲みに行くことだけが一日の喜びだった。

病院の連帯ロープにつかまって がんばれがんばれ 宵越しのバナナ

私の体にとって、役に立たなかった「こうすれば不調はよくなるよ」という本。そりゃそうだ。結局は、自分の中から発熱しないと。ひとりで笑える方法を見つけていかないと。病院には色んな思いを抱えた人たちが、それぞれに立っている。

桃を切る 白鋼すんなり花のにおい 悔やむことなくなめつくそう
二〇二四 書き間違えるいつも 明朝体がこぼれ落ちる 同意書

漢字の音がポロンポロン。
西暦が分からなくなり1、2年、書き間違えることはあったけれど、この間10年単位で書き間違えた。私があと百年生きられたら、百の位で西暦を間違えるかな。

娑婆

閉じれば閉じるほど閉じてゆく 大人たちは都会へ帰る

朝から顔を合わさないように、二両目に乗る同僚を見た。即座にエレベーターの閉じるボタンを押された。そんな方々に買ってき地元のお土産。誰も手をつけない。勇気を出して「お昼行きませんかー?」と聞いてみたが、スルーされた。嫌われているのかもしれない。たまに挨拶もしない人とかいてびっくりするけれど、自分を閉じて<業務>したって何一ついいことない。

20年 分からなかった 働く意味が ティーパックの旗 滑りおちるわ

結構いい歳になっても「どうして縄文時代みたいに生きちゃだめなんだ」って思ってた。実は、今でも思っている。毎日が自転車操業で、大丈夫なふりをすることで、大丈夫な人であろうとしてる節あり。

Kindleの「アート・建築」の項目に 開かれているアダルト本

申し込んだつもりは申し込んだことになっていたキャンペーン、何ヶ月間も気付かずに何万円も支払っていたサブスク、簡単にはいかないwifi乗り換え。日常に潜むダークデザインに、我々はもっと怒っていいかも。

錠剤が降り積もった地層の上 ナンバープレート足す癖やめない

ぐらぐらに生きていた時代がある。砂に埋もれた体を起こして、何とか「社会人」をにやっていた。今でもしいたけ占いはチェックしているし、他人の生年月日を一の位になるまで足して、分かったような気になったりする。


恋をして成功した者が生き残る 第三惑星にいた かつて
骨の間を揉まれた牛蒡 空に伸びて 土こぼさないようにして帰る

整体へ。骨はグニャングヒャンにうねり、筋肉が波になる。たたきごぼうみたいだ。体がゆるむと花粉みたいに言葉が溢れる。宇宙にとっていいことだって思いつく。

都心の無人島にひとりでも 宇宙で何かいいこと一粒
蛸足を鎮火する日曜 半身浴 ブレた秒針を戻す作業

日曜日は、掃除して洗濯している間に終わる。夕方早めに風呂に入る。Spotifyによって「お気に入り」を体内に留めておく無意味さを知る。人生とは循環。体内も部屋も、日曜日のうちに巡りをよくしておくこと。

バルコニーなどない賃貸で 地球を好きでいるために猫が必要

とにかくストレスは溜めないように、生きていきましょう。
フォントはモリサワの「美風」です。

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